経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

中間貯蔵で怨敵・関西電力と組んだ中国電力の怒りと焦り

原子力発電所にとって、たまり続ける使用済み核燃料の処理は喫緊の課題だ。最終処分の先行きは見えないが、その前段階ともいえる中間貯蔵施設を山口県上関町に建設しようと動いているのが関西電力と中国電力。しかしこの両社は、犬猿の仲。果たして思惑通りに進むのか。文=ジャーナリスト/小田切 隆(雑誌『経済界』2023年11月号より)

調査受け入れで地元に落ちる1億4千万円

 中国電力と関西電力が8月、山口県上関町において原子力発電所の使用済み核燃料の中間貯蔵施設を共同開発する方針を明らかにし、同月18日、上関町の西哲夫町長が、必要な調査を受け入れることを表明した。各地の原発の使用済み燃料がたまっていく現状の中、西日本の複数の電力会社が一緒に使える可能性がある中間貯蔵施設ができることは、日本の原子力政策にとって追い風だ。

 一方、関電が主導したカルテル問題で、関電だけ課徴金納付命令をのがれたことに憤りのある中国電にとっては、関電との共同事業はいわば「呉越同舟」。原子力政策推進のため、怒りを飲み込んで手を組んだ形だ。上関町では原発建設が反対派の動きで進んでこなかった経緯もあり、施設建設が思惑通りいくか予断を許さない。

 中間貯蔵施設は、原発で使用し終わった燃料を再処理するまでの間、一時的に保管しておくための場所だ。

 現在は東日本に1カ所ある。東京電力ホールディングスと日本原子力発電が出資した「リサイクル燃料貯蔵」の青森県むつ市の施設がそれで、2013年8月に建屋が完成し、現在、原子力規制委員会が審査中。23年度後半から24年度前半の事業スタートを目指している。山口県上関町の中間貯蔵施設が完成すれば全国2例目で、西日本では初めてとなる。

 中国電と関電の中間貯蔵施設建設に関する調査は、上関町最大の島「長島」にある中国電の所有地で行われる方向だ。町との森林伐採に関する手続きを進めるといった準備をした上で、およそ半年間、ボーリング(掘削)調査や地質調査を行う。計算では、順調であれば今年度内に調査は終わることになる。

 その後の想定される流れとしては、調査を踏まえて中国電と関電が、建設が可能かどうかを判断する。可能と判断されれば、上関町、さらには山口県の同意を得て、着工するとみられる。その後、原子力規制委の審査を受け、合格すれば操業となる。

 今回の中間貯蔵施設の建設に関する話は、電力会社側と町側の利害が一致して始まった。

 まず、町側の事情をみると、同町の人口は約2300人で減少傾向にあり、高齢化率も約6割に達する。産業は農漁業が中心で、財政は苦しい。こうした状況の中、町は今年2月、中国電に対し、「新たな地域振興策」を要請し、中国電が中間貯蔵施設の建設を提案したという。

 調査が始まれば、町に年間1・4億円、知事が同意した後は2年間にわたり9・8億円が国から交付される。着工すれば、さらなるお金が国から入る。あわせて、施設の建設工事で多くの建設労働者が町に入ることになれば、地元の飲食業者や宿泊業者も潤い、町の景気も刺激される。

 もともと町には、1988年9月に中国電へ原発の誘致を求めた「歴史」がある。ただ、町の賛否が分かれ、2011年3月の東京電力福島第1原発事故後に、中国電による準備工事がストップした。中間貯蔵施設の建設は、宙に浮いたままになっている原発建設工事の、いわば代わりとなるものだ。

談合問題で関西電力に裏切られた中国電力

 一方、電力会社側をみると、使用済み燃料の貯蔵手段の確保を迫られているという事情がある。

 中国電は島根原発のプールに使用済み燃料を貯蔵している。時期は未定ながら、同原発の2号機が再稼働すれば、プールは10年程度で満杯になると計算されている。

 その中国電が共同開発に関電を引き入れたのは、莫大な費用のかかる中間貯蔵施設の建設や工事用道路などのインフラ整備を中国電単独で実行することは難しいと判断したからだ。

 関電自身の事情も、より切迫している。

 運転が開始してから40年超たつ美浜3号機(福井県美浜町)、高浜1号機(同県高浜町)、2号機(同)を再稼働させるための条件として、関電は、23年末までに使用済み燃料の福井県外での保管場所を決めることを、県と約束していたからだ。ちなみに関電も、使用済み燃料のプールは5~7年でいっぱいになると計算されている。

 関電は6月、フランスにある再処理工場に使用済み燃料を搬出する計画を示し、これをもって、「福井県外での保管場所確保」の約束を果たしたという立場を主張している。いわば「ウルトラC」の奇策だが、搬出される量は少なく、福井県内からも「その場しのぎのごまかしだ」という批判が強い。このため、新たな中間貯蔵施設の候補地の確保は、関電にとって喫緊の課題となっていた。中国電がそんな事情を抱える関電を引き入れたことは、「救済」の意味合いが濃いともいえる。

 ただ、中国電は関電に対し、「わだかまり」「しこり」がある。関電が主導した電力販売をめぐるカルテル問題の経緯があるからだ。

 このカルテルは、関電と、それぞれ中国、中部、九州の各電力会社の間で、遅くとも18年以降、「大規模な工場やビル向けの『特別高圧』の電力」「中小の工場、事業者向けの『高圧』の電力」について結ばれた。具体的には、電力各社の間において、互いの営業エリアで顧客獲得の活動をしないよう、幹部同士が会うなどして取り決めたとされる。

 持ちかけたのは関電だ。16年に電力小売りへの参入が全面的に自由化されて以降、みずからの管轄エリアにおいて、ガス会社などの電力参入との競争が激化。17年から、中国電や中部電、九電のエリアで顧客獲得のための営業活動を本格化させたとされる。

 こうした中で、互いの「消耗戦」を避けるため、関電がカルテルを持ちかけたのだが、狙いは、電力料金の引き下げを防ぎ、各社の収益が減らないよう手を打つことだったとみられる。

 しかし、このようなカルテルは、電力小売りの自由な競争環境を阻み、「電力自由化」の理念をないがしろにするものだ。不当に競争を制限する独占禁止法違反にあたる疑いがあるとして公正取引委員会が調査に動き、今年3月、中国電、中部電とその販売子会社、九電の計4社に対し、合計1千億円超の課徴金納付命令を出した。

 ここで中国電などの不満を生んだのは、関電に対して課徴金納付命令が出されなかったことだ。関電は、最初に違反を自主申告すれば課徴金を免除される「課徴金減免制度(リーニエンシー)」を活用した。

 これに対しては、ほかの電力から「言い出しっぺが最初に『自白』したからといって、その『罪』が許されてもいいのか」といった怒りの声が噴出。とくに中国電は、最も多額の700億円超の課徴金納付を命じられ、社長と会長が引責辞任に追い込まれている。関係者の関電に対する憤りは強い。

 ただ、今回の中間貯蔵施設の建設に関しては、前述したとおり、中国電には、増えていく使用済み燃料の保管場所を確保する必要性や、建設工事を単独ではできない、といったやむにやまれぬ事情があった。関電の力を借りざるをえない状況であり、恩讐を超えて手を結ぶという「ビジネスライク」な決断をすることになった。

 さらには、原子力政策を所管する経済産業省も、単なる企業同士の恩讐で中国電が関電と手を結ばないという選択肢は許さなかったとみられる。政府内からは「中間貯蔵施設の建設は国家的な施策」という声が上がっており、今後も中国電、関電の間を取り持ち、建設に向けたプロセスをバックアップしていくと考えられる。

核燃料サイクル実現へ重要な「第一歩」

 電力会社側の調査開始の要望に対し、上関町の西町長は8月18日、「戸別訪問や住民説明会などを通じて丁寧に情報を提供する」「町民から要望があれば先進地の視察研修を検討する」ことなどを条件に、受け入れる意向を表明した。今後は、前述したようなプロセスが進んでいくことになる。

 中間貯蔵施設の建設の成功は、いわゆる「核燃料サイクル」の完成に向けて歩みを進めるために重要だ。

 日本は原発の使用済み燃料を、再処理工場と加工工場を経て「使用済みプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料(=使用済み燃料からプルトニウムを分離し、ウランと混ぜてつくった燃料)」とし、再び原発で使うという「核燃料サイクル」の実現を目指している。

 しかし、青森県六ケ所村の再処理工場は1993年に着工し、4年ほどで完成する計画だったが、原子力規制委の審査が難航し、合計26回も延期。今も完成のめどが立っていない。このため、たまっていく一方の使用済み燃料を一時的に保管しておく中間貯蔵施設をつくることが非常に重要になってくる。中間貯蔵施設があれば、とりあえずは、腰を据えて再処理工場の建設に取り組むことが可能になる。

 ただ、中間貯蔵施設の建設には地元の同意が不可欠で、完成にこぎつけるのはそう簡単ではない。山口県上関町も、これまで地元の反対が強く、原発の建設が進んでこなかった経緯がある。

 8月18日、町議が意見を陳述し、西町長が受け入れる意向を表明した臨時の町議会が開かれる直前も、町役場に到着した西町長の車が反対派の住民らに取り囲まれ、約30分間、立ち往生する事態となった。反対は「核のごみを持ち込まないでください」と書いたプラカードを手に持ち、町長に「帰れ」などと怒号を浴びせて、あたりは一時、騒然とした空気に包まれた。

 上関町の原発の建設計画が根強い反対で塩漬けになっていることを考えると、中間貯蔵施設の建設計画も難航する可能性は捨てきれない。

 だが、関西電力の原発が次々に再稼働を果たす中、たまっていく使用済み燃料を保管しておく中間貯蔵施設を増やすことは不可欠だ。ほかの電力会社にとっても、中間貯蔵施設が存在することは、原発を再稼働させていく上での安心材料となるだろう。

 政府は、電力の安定供給とカーボンニュートラルの実現に向け、原発をベースロード(基幹)電源の一つとして重要な役割を担うものと位置付けている。その原発の再稼働や安定した運転を進めるには、これまで述べてきたように中間貯蔵施設を増やしていくことが必要だ。国や電力会社は、反対する住民らにもその意義や必要性を理解してもらえるよう、丁寧で十分な説明を惜しまない努力が不可欠となる。