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日本の歴史と文化と価値観を神田神社から発信していく 清水祥彦 神田神社(神田明神)宮司

清水祥彦 神田神社(神田明神)宮司

ゲストは、神田神社(江戸総鎮守 神田明神)宮司の清水祥彦さん。神田神社は、東京・神田、日本橋をはじめとする108町会の氏神様です。今年は4年ぶりに神田祭を斎行。創建1,300年を7年後に控え、伝統の上に革新を図る神田神社のこれからのあり方について、清水宮司と語り合いました。聞き手&似顔絵=佐藤有美、構成=大澤義幸、撮影=川本聖哉(雑誌『経済界』2023年11月号より)

清水祥彦 神田神社(神田明神)宮司のプロフィール

清水祥彦 神田神社(神田明神)宮司
清水祥彦 神田神社(神田明神)宮司
しみず・よしひこ 1960年東京都生まれ。83年國學院大学文学部神道学科卒業。同年鶴岡八幡宮奉職。87年神田神社(江戸総鎮守神田明神)奉職、現在に至る。2016年東京都神社庁副庁長。神田神社は30年に創建1,300年を迎える。

精神世界や日本文化に興味を持ち神職の世界に

佐藤 今年5月、日本三大祭りの一つの神田祭が4年ぶりに斎行されました。神田神社をはじめ地域一帯が大勢の人たちで賑わいましたね。

清水 ありがとうございます。神田祭は2019年(令和元年)に天皇陛下御即位奉祝記念として盛大に斎行しましたが、コロナ禍の21年は見送りました。今年は例大祭までの約1週間、108の氏子町会や地域、観光客の皆さんと一緒に盛り上がることができてうれしかったです。

佐藤 お祭りは地域を元気にしますね。清水宮司は最初に修行をされたのが鶴岡八幡宮(神奈川県鎌倉市)だそうですね。神職にはいつ、なぜ興味を持ったのですか。

清水 私の父親はサラリーマンで、私も高校時代は同じ道を歩むのだろうと考えていました。ただ当時から精神世界や日本の文化に興味があり、國學院大学で神道について学び、卒業後に鶴岡八幡宮に奉職しました。神社には比叡山の千日回峰行のような厳しい修行はありませんので、4年半ほど神職の基礎や鎌倉の古い歴史や文化を学び、湘南・鎌倉で青春を謳歌しました。

佐藤 その後、鶴岡八幡宮から現在の神田神社に移られたのは。

清水 宗教法人の神社では宮司は社長に相当します。一般会社の社員は転職してキャリアアップを目指しますが、神職は修行後に縁のある神社に戻る方が多い。私も母方の親族が神田神社の神職で、そのご縁で1987年に奉職しました。

佐藤 大企業を経て社長に、という感じですね。日本は伝統文化もサブカルチャーも面白いですよね。今はアニメ「鬼滅の刃」が人気で、『古事記』に通じる神話性がありながら、勧善懲悪ではない鬼の描かれ方に私も関心を持っています。日本の神道は海外の一神教と違い、いろいろな神様も個性的で人間のようです。

清水 おっしゃるとおり、海外では正義(白)と悪(黒)がはっきりしていて、アニメや映画もそう描かれますし、宗教の価値観もそう。日本の神道の価値観は白か黒かではなく、白にも黒にもなります。そういう日本古来の価値観を、神田神社から世の中に発信していきたいですね。

神社の価値の認知を広げ未来を共に創る関係性を

佐藤有美 清水祥彦
佐藤有美 清水祥彦

佐藤 神田神社の周辺は一昔前から様変わりしましたね。電気街の秋葉原はアニメやマンガ、ゲームなどサブカルの聖地となり、外国人観光客の姿も数多く見かけます。

清水 観光地の有名なお寺と違って、神社は拝観料を取らないオープンな宗教施設です。国内外から多くの参拝者がいらっしゃるので、私も見かけた際は日本の文化や参拝方法を伝えています。先日も南アフリカ出身の女の子に二礼二拍手一礼を教え、ここで祭っているのは一神教のGODではなく、私たちの身近にある大らかな八百万の神のGODSだと説明しました。

佐藤 境内にある「文化交流館EDOCCO」も日本の伝統文化の継承や発信を目的とした施設ですよね。

清水 はい。1階はショップ、地下1階はイベントスペース、2・3階は神田明神ホールからなる施設です。地域の歴史や文化に触れることができる都心の庶民的な神社を目指しています。

佐藤 神田神社は皇室との由縁が深い伊勢神宮や明治神宮とは趣が異なりますね。

清水 神社は戦前・戦後で大きな価値観の変革がありました。神田神社は庶民の守り神として、自由に新しいものを生み出す交流の場でありたいと思っています。

佐藤 2030年には創建1300年を迎えます。そこに向けて記念事業もされていますね。

清水 神田神社は伝統と革新を大切にしています。創建は730年(天平2年)ですが、関東大震災で社殿が崩壊してしまい、2度と壊れない建物を造ろうと1934年(昭和9年)に日本初の鉄骨鉄筋コンクリートの社殿を建てました。木造が主流の当時では画期的で、東京大空襲の時も焼けずに残りました。現在は国登録有形文化財となっていますが、劣化が進んでいることから、この美しい姿を100年後に残すべく修復工事などを計画しています。

佐藤 もう一つ、日本の少子化問題に絡めて神職も後継者問題があるかと思います。地方ではその問題や経営難で荒廃した神社も見かけます。

清水 全国の神社の数は約8万社あり、お寺(約7万7千)やコンビニ(約6万)よりも多いと言われています。しかし神職は2万人しかいません。神社は檀家のご寄進もなく、過疎化が進む地方では経済的に困窮するケースが見られます。

佐藤 そうした業界の問題解決に必要なことは。

清水 企業や地域の皆さんとお互いを認め合う関係性を構築していくことが第一です。お祭りや行事等を通じて神社の価値をもっと認知してもらい、神社に興味を持つ人を増やして一つ一つ課題解決を図っていきます。皆さんと一緒に未来を創りたいですね。

清水祥彦イラスト
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