経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

総論 TSMC進出の波及効果が急拡大 “シリコンアイランド”復活に沸く

JASM工場

かつては「シリコンアイランド」と呼ばれた九州が久々の半導体投資に沸いている。台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出が起爆剤となり、半導体関連企業の設備投資額は合計で2兆円を超えた。また、市街地再開発の一方でリゾート開発も進み、九州各地の地価は急上昇している。(雑誌『経済界』「半導体特需に沸く九州特集」2024年1月号より)

経済波及効果は10年間で6兆9千億円に

 熊本県菊池郡菊陽町に半導体受託製造の世界最大手、TSMCが約1兆円を投じて建設を進めてきた新工場の建屋がほぼ完成した。10月から生産設備の搬入が始まり、2024年末には本格的に出荷が始まる。

 工場を運営する子会社JASMには、ソニーグループやデンソーも出資。熊本工場に必要な人員は約1700人。TSMCからの駐在員が約400人、JASMの1期生125人と来春入社の2期生や中途採用で300人、ソニーグループからの出向が200人前後となる見込みだ。

 TSMCの進出などによる熊本への経済波及効果について、地元銀行は10年間で6兆9千億円を超えると試算している。同行が22年9月に発表した前回の試算では約4兆3千億円だったが、1・6倍に拡大した。三菱電機が次世代のパワー半導体の工場を菊池市に建設するほか、ソニーセミコンダクタソリューションズが年内に合志市で用地を取得するなど半導体関連産業の集積が一段と進んでいることが背景にある。関連するサプライヤーの進出意欲も旺盛で、TSMCの第2工場の立地先が熊本県に正式決定されれば、経済波及効果はさらに拡大する。

 地元では周辺のインフラ整備を急いでいる。原材料等の搬入や製品の出荷には物流網構築が欠かせないからだ。9月末には、九州自動車道につくられる熊本北JCT(仮称)と合志IC(同)を結ぶ高規格道路「中九州横断道」9・1kmの整備事業に着手した。大分市と熊本市を結ぶ「中九州横断道」の計画は約30年前から進められてきた。同区間が開通すれば、福岡や長崎、鹿児島からセミコンテクノパーク(合志市・菊陽町)付近までをつなぐ高速物流ルートが整うことになる。同横断道から工場までを結ぶアクセス道路の整備も急がれる。TSMCが熊本進出を表明後、県内への企業立地案件は30件以上を数える。工場団地の造成を急ぐとともに、熊本市中心部と熊本空港間の鉄道網や道路整備など10年間で1千億円規模の事業が必要と試算されている。

物流網の構築と半導体人材の育成が急務

JASM工場
2024年末に本格稼働予定のJASM工場

 九州の半導体業界は、TSMC熊本工場の生産が始まる現在でも好調な状態が続いている。九州経済産業局によると、半導体の主な製品である集積回路(IC)の生産額は現状、前年同期を3割近く上回っており、生産水準がこのまま続けば、07年以来16年ぶりに1兆円を回復する可能性が指摘されている。

 半導体はスマートフォンや電気自動車(EV)、第5世代(5G)移動通信システム関連の需要が見込まれている。京セラは10月から、鹿児島川内工場で国内最大規模の新工場を順次稼働させている。また、長崎県諫早市に先端半導体関連部品などを生産する新工場を建設することも公表している。同社が国内で工場を新設するのは約20年ぶりで、生産開始は26年度を予定している。

 九州が再び、「新シリコンアイランド」として生まれ変わるには、物流などのインフラ整備とともに、今後10年間にわたって年に1千人程度が不足すると言われている半導体人材の確保が必要となる。22年春、熊本、佐世保両高専が半導体の新科目を開講したのをはじめ、熊本大学が来春から半導体関連の教育を提供する「情報融合学環」を開設するなど対応を急いでいる。

 土地需要の高まりで、地価も上昇。沖縄県が全用途の伸び率で全国首位。福岡県が2位だった。リゾート地の地価が上昇したのが沖縄で、福岡は都市部の再開発に伴うオフィスビルの建て替えなどが反映された。福岡県は商業地で全国首位、住宅地と工業地は沖縄県に次ぐ2位だった。

 シリコンアイランド復活で九州は大きく変貌しようとしている。