インバウンドの復活や行動制限の緩和で各地の観光地に賑わいが戻ってきた。JR九州も好決算となったが、まだまだ課題も少なくない。事業構造改革を推進しながら、豊かなまちづくりや地域に貢献する新たな事業展開に挑戦、その取り組みが注目されている。(雑誌『経済界』「半導体特需に沸く九州特集」2024年1月号より)
事業構造改革が奏功してJR6社唯一の最終黒字に
「休日だけでなく、平日の空席もわずかです」。2023年夏以降、九州の玄関口、博多駅で観光列車「ゆふいんの森」の指定券を求めると、このようなやりとりが毎度、繰り返される。「ビジネス客はまだ本格回復には至っていませんが、観光客はほぼコロナ禍前の水準に戻りました」と笑顔の古宮洋二社長。
そのコロナ禍の影響が残る22年3月期連結決算で、同社は全国JR6社の中、唯一、最終損益が黒字となった。運輸サービスを含め、不動産・ホテル、流通・外食などの各セグメントがそれぞれ堅調に推移した結果だが、特筆すべきは鉄道事業で、23年3月期決算で単体の営業利益は前年度の220億円の赤字から31億円の黒字を達成した。行動制限の緩和やインバウンド需要が回復したことに加え、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の取り組みによるコスト削減が大きく寄与した。
今後は鉄道事業のさらなる収益力向上が急務であるが、守りから攻めの投資にも注力する。例えばデジタルなど最新の技術を活用して鉄道事業の新しい姿を模索していく。
「われわれの拠点は九州。首都圏や関西圏を中心とするJR各社と同じことをやっていては生き残れません。厳しい経営環境の中でしたが、社員が一丸となって挑み続けた結果だと思っています」と振り返る。
24年度を最終年度とする3カ年の中期経営計画が現在進行している。重点戦略は3つで、「(既存ビジネスの)事業構造改革の完遂」「豊かなまちづくりモデルの創造」「新たな貢献領域での事業展開」である。その中で鉄道事業では前期で実現したBPR完遂の次のステップとして、モビリティのさらなる進化と経営体力の強化で〝未来鉄道プロジェクト〟を推進する。
2030年には非鉄道事業の営業収益を全体の75%に
豊かなまちづくりモデルの創造では、昨年9月に開業した西九州新幹線の利用者数が順調に伸びたことや、各地で駅ビルやホテルの開業も相次ぎ、追い風が吹いている。そこで今、期待がかかるのが九州の交通事業者や官・民が一丸となって推進している広域MaaSだ。
「今では駐車場事業にも力を入れ、マイカーも鉄道やバス、地下鉄と連動させる取り組みを進めています。効率的に運行できるので地球環境対策上もメリットは大きいですね」
また、新たな貢献領域での事業転換では、建設部門の子会社を束ねた中間持株会社を設立、積極的に外部の仕事を獲得する態勢を整えた。
中期経営計画を受けた「2030年ビジョン」では、同年度の連結営業収益の目標を6千億円として、そのうち鉄道事業は1500億円と4分の1にとどまる。「鉄道事業の収益目標をもっと伸ばしたいのですが、鉄道以外の領域の方が高い成長を見込めます。特に不動産事業は首都圏等での展開をもっと活発に推進したいと思います」と力を込める。
また、県や市町村と綿密に情報交換をするため、22年4月、本社に地域戦略部を設けた。
「鉄道で培ったノウハウと、そこから一歩進めてまちづくりのデザインなど、新しい領域で貢献できることはたくさんあると思っています」と戦略を練る。〝BtoG(自治体)事業〟と位置付け、さらなる地域貢献を目指している。
会社概要 設立 1987年4月 資本金 160億円 営業収益 3,832億円(23年3月期連結決算) 本社 福岡県福岡市博多区 従業員数 7,311人(23年4月1日現在、単体) 事業内容 旅客鉄道事業、海上運送事業、旅客自動車運送事業、旅行業、保険媒介代理業、小売業、旅館業および飲食業、不動産売買および仲介、賃貸、管理業 https://www.jrkyushu.co.jp |