2024年、九州経済連合会は半導体産業や九州の農業を元気にするため、数々の重要施策に取り組む予定だ。中でも注目されているのが、全国に先駆けた次世代モビリティサービスの「九州MaaS(Mobility as a Service)」。観光需要を刺激する大きなプロジェクトになりそうだ。(雑誌『経済界』「半導体特需に沸く九州特集」2024年1月号より)
半導体投資拡大とインバウンド復活が鍵
2023年の九州経済は5月以降、コロナの5類移行を受けてインバウンドが急増、国内の旅行客も復活したことで各地の観光地は久々に賑わいを取り戻した。ホテル、飲食、交通など経済波及効果が大きい観光が基幹産業である九州にとっては、景気を刺激する大きな転機となるのは間違いない。また全国から注目されているのが半導体製造大手の台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出に合わせた関連産業の集積だ。九州経済連合会の倉富純男会長は23年を次のように振り返る。
「インバウンドが戻ってきたことは大きい。TSMCを契機とした半導体産業の盛り上がりも、〝新生シリコンアイランド九州〟の実現を目指す活力の元になっている。日銀の景気判断も九州を『回復』と評価した。日本政策投資銀行の調査でも九州の設備投資計画は前年比で6割も増えている。賃上げムードもあり、消費単価も上がっている現状を見ると、昨年は明るい1年だったと言える」
TSMC熊本工場が本格稼働するのは24年末の見通しだ。倉富会長は「佐賀県や宮崎県、福岡県などにも半導体の関連投資が発生しており、九州全体が活況を目の当たりにするのではないか」と語る。一方のインバウンドについては「韓国や台湾に加えて、元気なASEAN各国からの訪問も増えてほしい」と語り、中国については「インバウンドだけでなく輸出入も戻ってくるのではないか」と期待を込める。
九州MaaSの社会実験が全国に先駆けて始動
九経連は「スマートリージョン構想」の下、九州全体で官民データの収集・分析・活用を促進する「広域データ連携プラットフォーム」の構築を目指している。24年はその象徴となる次世代モビリティサービスの「九州MaaS」がスタートする。
MaaSとは、電車やバスなど複数の交通手段の中から最適な移動ルートが提示され、予約や乗車券購入などが一括でできるサービス。JR九州のほか九州各地の鉄道、バス会社、フェリー会社、タクシー会社など約100の交通事業者の参画を目指す。利用者は専用アプリを使って九州全体を対象に最適なルートで移動ができる。倉富会長は「乗車券だけでなく観光商品の購入・決済までアプリでできるようにしたい」。また、インバウンド客の利用も見込んでおり「日本語、英語、中国語、韓国語の4カ国語は必須だろう」と語る。サービス開始は夏頃の予定で、アプリのダウンロード数で、まずは100万件超を目指す。
「九州MaaS」は、利用者の移動データを収集、蓄積できる点が肝でもある。倉富会長は「データを活用し、過疎地域も含めた九州各地の今後の交通体系の見直しにもつなげていく。全国に先駆けた壮大な社会実験でもある」と意気込む。
半導体、農業の人材育成とオール九州で地産地消推進
このほかにも、24年は九経連が取り組む重点施策が目白押しだ。まずは先にも述べた半導体産業の基盤強化。TSMCの本格稼働を追い風に、九州各県とも協力しながら関連産業の進出、投資拡大を呼び掛けていく。倉富会長は「九州が日本の経済安全保障の一翼を担うという強い気持ちで取り組む」と語る。併せて、半導体人材の育成についても、「九州経済産業局が実施している育成施策や、大学間、高専間の連携をサポートしていきたい。海外からの人材獲得も重要だ」とする。
2つ目は農業の活性化。九経連はこれまでにも、農林中央金庫やJA全農ふくれんと連携し、農業の担い手不足解消のために労働力支援の施策を進めてきた。その中で今回、倉富会長が強調するのが「地産地消」だ。九州各県産のものを県単位で消費するのではなく、オール九州で消費することを呼び掛けていく。
このほか、九経連が参加する九州地域戦略会議で実施が決まった国際自転車ロードレース「ツール・ド・九州」の継続、発展も期待されている。23年10月に初めて開催され、国内外からプロを含む18チーム・104人の選手が参加した。福岡、熊本、大分の3県で行われた各ステージレースには全国から多数の観客が詰めかけた。倉富会長は「ゆくゆくは九州全県でステージレースができるよう、次回以降につなげたい」と語る。
24年は、九経連が30年の九州のあるべき姿を示した「九州将来ビジョン2030」の実現に向けた第2期中期事業計画(24~26年)の初年度でもあり、九経連のリーダーシップに期待が集まる。