九州を代表するテーマパークの「ハウステンボス」(長崎県佐世保市)は昨年、アジア最大級の投資会社PAGが親会社になった。10月にはオリエンタルランド元執行役員の髙村耕太郎氏が社長に就任、坂口克彦会長とのタッグで再生に向けて動き出した。(雑誌『経済界』「半導体特需に沸く九州特集」2024年1月号より)
カリスマ経営から現場重視の組織経営へ
2023年秋、ハウステンボスの園内にはハロウィーンのカボチャランタン数千個があちらこちらに登場し、夜になれば幻想的な光が揺らめく。東京ドーム33個分の広大な敷地内を散策すると「こんにちは」とあいさつする従業員の元気な声が響く。
「社長に就任した4年前、お客さまにあいさつもしない、スマホをいじくって顔さえ上げないスタッフも少なくなかった。掃除が行き届いておらずトイレも汚かった」と坂口会長は振り返るが、従業員と膝を交えると優秀な人材も少なくなく、原因を分析し「カリスマ経営からの脱却」の必要性を実感した。
元社長の澤田秀雄氏は一代でエイチ・アイ・エス(HIS)を大手旅行代理店に育てたカリスマ経営者。オーナーの直観的な経営感覚は誰もが認めるが「それがあだになり、自主性が培われず、自分の家族や知り合いに胸を張ってハウステンボスを紹介できると答えられた人はほとんどいませんでした」というほど。そんな雰囲気が社内に充満していた。
典型的な例が1dayパスポートだった。価格は7千円だが、すべてのアトラクションに乗り放題ではなく、追加料金が必要な施設もあり事実上、ディズニーランド7400円(当時)より高かった。客からも不満が相次ぎ、旅行代理店にも不評だった。
坂口会長は当時、社長に就任するにあたり、このパスポートの改善など数多くの改善策を提案。同時に「上意下達のカリスマ経営から、成功も失敗も共有し全体の知恵とする組織経営への転換」を決意した。
待遇改善でスタッフのモチベーションを上げる
しかし坂口会長が社長に就任した19年はコロナ禍の勢いが増す最悪のタイミング。「ハウステンボスは日常のしがらみやわだかまりを解消してストレス発散する場。心を健康にする観光業なのに、不要不急と言われとても残念だった。人材の流出という深刻な事態を招いた」と振り返る。
23年1月、グループ全社員を対象に「平均6%の賃上げ」を発表、さらに4月には「来年も平均6%の賃上げを継続する」と畳みかけた。賃金だけでなく年間休暇も8日増やす方針だ。「現実的には難しい」との社内の疑問に応えて、開業以来初となる24年1月9日から「異例の4日間連続休業」実施を決めた。
「もともと賃金が低すぎる。誇りをもって仕事を行い、継続して働いてもらうためには休暇や賃金の処遇改善は不可欠だ。本当は社長就任当初からスタートしたかったが、コロナ禍で減収減益の赤字状態では言い出せなかった」
HISからPAGへ。親会社が変わり高まる期待
22年9月、親会社HISは香港を拠点に世界中で事業を展開する投資会社PAGに全株式を売却した。PAGはユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)運営会社への投資実績もあり、経験値は豊富にある。「われわれの中期経営計画とPAGの方針がほぼ一致していることが分かり、経営を任せられることになった」と打ち明ける。
「今取り組んでいるファミリー層向けのアトラクションの強化や、従業員の処遇改善なども了解を得て進んでいます」
人件費などをコストとして削減するのではなく、売り上げや利益を増やすことで、賃上げをしても人件費率を減らせばよいという発想だ。
ハウステンボスといえば年間を6期に分け、ハロウィーンやクリスマスといった2カ月ごとの季節イベント(催事)が有名で、レストランの食事も連動させている。「食事については以前、評判が悪い時期もあったが、今は地元の上質な素材をふんだんに使い、おいしい料理を提供している。改善を重ねて味は全国のテーマパークでもトップクラスになっている」と胸を張る。
旅行情報誌『じゃらん』(リクルート社)の九州・山口の住民を対象にした「もう一度行きたい、人気観光地 満足度ランキング」で、ハウステンボスは22年、23年と連続1位となった。以前が圏外だったことを思えば人気、ブランディングで大きく改善された結果だ。
テーマパークの運営に精通した髙村耕太郎氏を新社長に迎え、ハウステンボスは第2の創業に向けて走り出した。
会社概要 設立 1992年3月 資本金 15億円 売上高 189億円(22年9月期、元親会社HIS発表) 本社 長崎県佐世保市 従業員数 1,200人 事業内容 テーマパーク事業 https://www.huistenbosch.co.jp |