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社長は誰が決めるべきか移り変わる企業のトップ人事

特集・総論図表

どれだけ天才的な経営者も、寿命や老いからは逃れられない。対して企業組織はゴーイング・コンサーン。となれば、トップの交代は、企業戦略の根幹になる。ましてや昨今は経営環境の難しさが際立つ。トップ選びを間違えれば、あっという間に取り返しのつかない結果を招く。一体、どのように社長を選べば組織は成長を続けられるのか。文=和田一樹(雑誌『経済界』巻頭特集「社長の選び方特集」2024年1月号より)

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「社長やってくんない?」23年は異色人事が多かった

 トヨタ、ソニー、第一三共、東レ。これらの企業に共通するのは、2023年にトップが交代したことである。コロナ禍がひと段落し反転攻勢のフェーズに入ったからなのか、23年は社長交代が相次いだ。

 社長交代会見の場で一様に語られたのは、厳しい時代認識だ。ここ数年、コロナ以外にも企業を取り巻く環境は大きく変化している。資源価格の高騰や金利差に基づく為替の変動、中国経済の失速など、どれもが一企業で対処できる課題ではない。

 そうした厳しい市況を反映してか、23年の社長交代では異色の人事がいくつもあった。例えば、トヨタは14年ぶりの社長交代となったが、新社長に選ばれた佐藤恒治氏は豊田家以外では初のエンジニア出身。後継として噂があった3人の副社長を飛び越えた抜擢人事だといわれている。 他にも、アサヒビールは37年ぶりの社外出身社長として、P&G等でマーケティングの経験を積んだ松山一雄氏が就任。ちなみに、37年前に社外出身者として社長に就任したのは樋口廣太郎氏である。樋口氏は就任翌年にアサヒスーパードライを大ヒットさせ、中興の祖となった。

 停滞した空気を打破し組織の危機を乗り切るためには、トップの交代ほど強烈なメッセージはない。それが異色人事として表れている。

 また、変わりつつあるのはトップの人物像だけではない。社長の選び方そのものも変化している。

 かつて後継者の指名は現任社長の専権事項という色が強く、社長の最大の仕事だと言う人もいた。23年の例でも、トヨタの佐藤新社長が明かしたところによれば、タイで開催された自動車レースの現場で豊田章夫氏から「社長やってくんない?」との打診があり、その会話が正式な内示だったとされる。まさに現任社長による専権的な後継指名にも見える。

 一方で、最近よく聞くようになったのが「指名委員会」という言葉だ。指名委員会は社長も含めた経営陣の選解任を議論する組織である。指名委員会には、社外の取締役が過半数を占めるパターンや、現任社長が関与しないケースもある。解任人事にも現トップの裁量が入り込む余地はなく、透明性のあるプロセスが担保されている。

 ただ、一口に指名委員会といっても、機関設計にはバリエーションがある。会社法では、公開会社かつ大会社においては、①監査役会設置会社、②監査等委員会設置会社、③指名委員会等設置会社という3種類の形態が認められている(左上図)。
このうち、①監査役会設置会社と②監査等委員会設置会社では、指名委員会の設置は任意とされている。③指名委員会等設置会社は、取締役会の内部に、委員の過半数が社外取締役で構成される指名、報酬、監査の3委員会を設置することとなっており、指名委員会の決定を取締役会で覆すことはできない。

 では、なぜ任意の形を含めて指名委員会を設置する企業が増えているのか。その要因は企業の内外に存在しているが、企業内部の論理は21ページの冨山和彦氏の記事で触れているので、ここでは外的な要因について確認しておく。

 指名委員会を設置する企業が増えている背景には、15年のコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の制定をはじめ、企業が株式市場から統治の透明性を求められていることが関係している。

 元々、日本でコーポレートガバナンスに関する議論がなされるようになったのは1990年代以降になってのこと。それまで多くの企業は、取引先・メインバンクとの株式持ち合いや、金融機関による株式の長期保有などを行っていた。安定した事業運営が可能になる反面、経営実態が不透明だった。それがバブル崩壊以後、徐々に金融機関の政策保有が見直されるなどし、日本式の経営スタイルは崩れ始めた。2014年になると、当時の安倍政権が日本企業の稼ぐ力向上を目指すべく「『日本再興戦略』改訂2014」を策定。焦点分野の1つに「コーポレートガバナンスの強化」を掲げた。前述のCGコードは、この流れを受けてのもの。21年6月には、東証がCGコードを改訂。「取締役会の機能発揮」の項目が盛り込まれ、社外取締役の量的な確保が明記された。

 こうした一連の流れは、伝統的な日本企業の取締役会の在り方を否定するものであったと言える。それは、当該企業の内部昇進者が大半を占め、経営陣の指名や報酬も内部の役員自身が決定している、ある種のブラックボックス的な取締役会のスタイルだ。上場企業の多くがコーポレートガバナンスをめぐる変化を強いられた結果、統治の透明性、公平性を担保すべく、あるいは担保しているポーズを示すべく、指名委員会を設置して経営陣の人事を議論する企業が増加しているのである。

 しかし、指名委員会形式で社長を選ぶことが唯一の正解かというとそんなことはない。日本企業において、指名委員会が設置されるようになってからせいぜい20年程度の歴史しかない。日本には数多くの100年企業があるが、それらは指名委員会など設置せずとも組織を継続させてきた。社長の選び方に正解はないのである。だからこそ、後継者の指名は難しく、だからこそ、トップの人事は面白い。本特集では、指名委員会を機能させる企業、社長交代に苦悩する創業者たち、長寿のファミリーカンパニーなど、いくつかの視点から社長選びの極意を探る。