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ベストシナリオは株価4万円 史上最高値更新が見えてきた 広木 隆  マネックス証券

広木隆

東証平均株価は、2023年5月に3万円台を回復、その後3万3000円台を突破しバブル後最高値を更新、年末に向けてさらに伸びている。この勢いは24年も持続するのか。今年の株高を的中させたマネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏に24年相場を占ってもらった。聞き手=関 慎夫(雑誌『経済界』2024年2月号巻頭特集「日本の針路」より)

広木隆
広木 隆  マネックス証券チーフ・ストラテジスト

日本銀行の政策変更はむしろポジティブ評価

―― 2022年末時点で、多くのアナリストは23年末の平均株価を2万9000~3万2000円と予想していましたが、広木さんは3万4000~3万6000円と強気でした。実際の株価は、6月に3万3000円を突破したあと伸び悩みましたが、10月末から再び上昇気流に乗り、11月末時点で3万3700円。3万4000円まであと一歩です。

広木 ある程度、読み通りでした。23年の最大のテーマは世界的なインフレがどうなるかでしたが、予想した通りに収束に向かい、金利もピークアウトというコンセンサスができてきた。そこで米株価が回復、当然、日経平均の方も戻ってきました。加えて日本企業は業績好調で、中間決算も良かった。上がるべくして株価が上がったと見ています。

―― 企業業績は今後も伸びていきそうです。広木さんの予想の根拠になるのがEPS(1株当たり純利益)です。企業の利益が伸びれば、当然株価も膨らみます。

広木 円安は輸出企業を中心に業績のプラス要因です。ただし前3月期は原料高がそれを打ち消して、トヨタ自動車でさえ減益でした。しかし今期は原料高も一服、加えて半導体不足も解消されました、これにより今まで作れなかった分も含めて生産が回復し、トヨタは生産台数も販売台数も過去最高、しかも値上げもあって、今3月期の純利益見通しは3・9兆円と大幅な上方修正です。トヨタに限らず自動車各社の大半が過去最高益を予想しています。他の業界も自動車ほどではないですが、円安効果が前期以上に出ています。

―― そうなると株価も期待できそうですが、その一方で日銀が春にイールド・カーブ・コントロール(YCC=長短金利操作)を撤廃するとみられるなど、金利が上がる可能性が出てきています。景気にはマイナスです。

広木 全く問題なく、むしろポジティブに評価します。日銀は10月の金融政策決定会合で、長期金利の1%超えを容認する姿勢を示しました。しかし足元の金利は0・7%台(11月末現在)と1%とは大きな開きがあります。ですからYCCが撤廃されたところで、金利は1%未満が続くと見ています。さらに短期金利のマイナス金利も解除されるでしょうが、マイナスがゼロになる程度で、恐らく上がっても0・1%には届かない。ですから経済に対するインパクトはほとんどない一方、日銀が金利正常化への一歩を踏み出したというメッセージになります。そのためようやく日本も真の意味でデフレが終わり、まっとうな金融環境になるというポジティブな印象を世界に与えることになります。つまり日本経済にも株式相場にもプラスです。

―― 為替はどのようになりますか。ずっと150円台の円安だったものが11月半ばに148円に急騰しました。いよいよ円安時代に終止符が打たれるのでしょうか。

広木 FRB(米連邦準備制度)は年内にあと1回利上げを想定していましたが、どうもそれがなさそうです。そこで年末も近づいたため、いったん利益を確定しようという動きが円高につながっただけで、ファンダメンタルが変化したわけではありません。

 ですから今後円高が急速に進むことはなく、140円台から150円台の水準で推移すると見ています。依然として日本のグローバル製造業にとってはプラスの状況が続きます。

懸念材料は多々あれど大きなリスクではない

2023年日経平均株価
2023年日経平均株価

―― 懸念材料としては、岸田政権の支持率低迷があります。24年は政変もあるかもしれません。それに米大統領選も。政治が経済に悪影響を及ぼすかもしれません。

広木 政権交代があり、岸田政権が掲げた「資産運用立国」の旗が降ろされてしまったとしたら、外国人投資家の失望売りを呼ぶかもしれません。でも具体的に何か政策が出ているわけではないので、それほど影響はないと思います。むしろ外国人投資家は、日本企業が改革を続けていくかどうかに注目しています。

 米大統領選の影響も考えられますが、仮にトランプ返り咲きになっても、前回の時に特に経済がおかしくなったり株価が下落しませんでした。Xなどへの投稿で短期的なアップダウンはあっても大きなリスクにはなりません。

 むしろ気になるのは中国です。景気減速と言われますが成熟に伴い成長スピードが鈍化するのは当たり前です。今出ている経済指標もそんなに悪くありません。ただし日本企業が中国でビジネスをするのは難しくなっています。中国は「製造業2025」のもと、製造大国を目指していて、最先端分野では多額の補助を行っています。中国製品を優先的に使い、日本企業が締め出されつつあります。中国撤退を決めた三菱自動車はその象徴です。企業は中国戦略の練り直しが求められています。ただその一方で、日本製造業の国内回帰も鮮明になっていますし、TSMCやサムスンのように日本での半導体投資を決めたところもあるので、必ずしも悲観することはありません。

 さらにはインバウンドの増加と春の賃上げも期待できる。そう考えると、日本の2024年は結構明るいと思います。

―― 以上のことを踏まえて、来年の株式相場を予想してください。

広木 日経新聞の集計では、上場企業の業績は今年度3月期には13%増益の見込みなので、日経平均のEPSは2300円程度で着地するでしょう。

 来期の業績をどう見るかですが、控えめに見ても、来年前半には予想EPSは2400円程度となりそうです。過去のPER(株価収益率=株価をEPSで割ったもの)の平均15倍をかければ株価3万6000円です。

 ただし市場が強気になればPER16倍もあり得ると見ています。EPSがさらに100円増額修正されて2500円となりPER16倍なら、ちょうど4万円。平均株価の最高値更新です。これが24年のベストシナリオです。