IT機器の導入、運用サポートからセキュリティまでをサブスクリプションモデルで提供するパシフィックネット。従来のフロー型からストック型にビジネスを転換したことで収益構造が堅固になった。IT機器の適正処理をはじめ、PC管理業務を企業に代わって請け負うBPO事業も順調に伸びている。今後の成長戦略を上田雄太社長に聞いた。聞き手=清水克久(雑誌『経済界』2024年2月号より)
上田雄太 パシフィックネット社長のプロフィール
販売中心からサービス中心への収益構造改革に成功
―― 事業の構造改革に成功してサービスの幅も広がったようですが、現状はどうですか。
上田 当社は元々、法人やリース会社から排出されるPCを仕入れて専用のWindows OSを入れて商品化したものを店舗で販売するビジネスで成長しました。
当時は珍しかった中古PC市場で頭角を現し2006年には東証マザーズに上場できました。その後、PCはコモディティ化が進んだ成熟した市場になり、スマートフォンの急速な普及により価格が下落、収益が縮小傾向となると共に、Windows OS終了などの外部環境の影響を大きく受ける構造的課題が顕著となりました。
そこで今から約8年前に「販売中心からサービス中心へ」「フロー収益からストック収益へ」をスローガンに事業構造改革を断行することとしました。具体的には、全国12カ所で展開していた店舗事業からの撤退(B2C撤退)、法人向けPCレンタルのサブスクリプション型サービス(ストック収益、B2B)の強化などです。
店舗事業からの撤退は痛みを伴う改革でしたが、サービス収益の拡大が順調に進み、21年には東証の業種区分も小売業からサービス業に変わりました。
―― PC関連のリユース、レンタルサービス業は世の中にたくさんありますが、他社との違い、強みはどこにありますか。
上田 最大の強みはPCの導入から適正処分までの一連のLCM(ライフサイクル・マネジメント)を一気通貫で提供できることです。たしかに、レンタルやリユースの事業会社は当社以外にもありますが、入口から出口までフルサポートできる会社は多くありません。月額課金でLCMを提供する事業は、今後さらに拡大が見込めるので業績を伸ばすチャンスです。今ではITサブスクリプション事業が売上高の7割を占めるようになり19年5月期から直近の23年5月期までの平均成長率は29・6%となっています。
―― 企業の情報システム部門の運用サポート業務をアウトソーシング(BPO)で引き受けるサービスでもありますね。
上田 おっしゃる通りです。当社のITサービスは機器の導入だけでなく運用サポート・データ消去まで幅広く行っています。いわば情報システム部門が行う日常業務を丸ごと代行するBPOサービスです。
例えば、会社で誰かのPCが故障した時に当社のヘルプデスクに連絡していただければ、PCの入れ替えにかかる全作業は全て当社が対応します。
情報システム部門の運用サポート業務は、多くの工数がかかり、本来多くの時間を割くべきIT戦略やシステム企画業務を圧迫させる要因となっています。IT/ICT技術の進歩で昔よりカバーすべき業務は多岐にわたり、片手間では対処しきれない内容となっています。
―― ただでさえ人材不足といわれているだけに、BPO事業は将来性が期待できますね。
上田 IT分野のBPOは確実に伸びていきます。今はあらゆる業界で人材不足が問題となっていますが、その中でもIT人材の不足は深刻な問題になっています。その意味で情報システム部門のノンコア業務を外部に委託する流れは加速していくと思います。
企業のIT人材不足を背景にBPO事業に期待
―― PCの廃棄に関しては情報漏洩の懸念もあり企業側も相当神経質になっています。どのような対応をされていますか。
上田 IT機器のデータ消去に関しては、情報漏洩を防ぐために国内最高レベルのセキュリティ環境で作業を行っています。作業を実施するセンタースタッフの教育も徹底して行っています。22年6月からは回収したIT機器すべてのデータ消去エビデンス(機器ごとの詳細データ)を自動生成し10年間保管する「Secure Trace(セキュアトレース)」の運用を開始しました。
また22年11月から始めた「排出管理BPOサービス」はIT機器の排出時に回収の督促から適正処分までの業務を一括で受託して、機器のトレーサビリティや消去データのデジタル化と見える化を実現したものです。機器の排出やデータ消去は、会社の規模が大きくなればなるほど労力とリスクがある作業です。DXの最前線にいる情報システム担当者に全てを任せるのは無理があります。サービスの開始から約1年たちますが、大手企業からのオファーが増加してきています。
―― 創業者の上田満弘会長から23年8月に社長を引き継いだわけですが、具体的な指示や申し送り事項などはありましたか。
上田 特別な指示はありませんでした。ただ、急に大きく物事を変えたりしない方がいいとは言われました。私は、14年に入社した後、キャリアの多くの期間をグループ会社の経営に携わっていました。
外から俯瞰してパシフィックネットを見てきた経験は大きな強みなわけですが、今は事業を深い所まで観察し、現場で働いている仲間との信頼関係を構築することが最優先の時期だと思っています。
社長交代の挨拶まわりで取引先から「新体制ではどのような変革をするつもりか」という質問を頂くことが多かったのですが、自身の思いは全てが創業者の意思を継ぐものです。会長が目指したのはパシフィックネットをITサービスのトップ企業にすることでした。創業者が目指した世界観、それを実現するためには会社をより強固にしていく必要があります。
現在進めている成長戦略を確実に遂行することが私のミッションです。
―― マンパワーの拡充を含め成長戦略で特に強化していく分野は何ですか。
上田 マーケットの拡充が見込めるITサブスクリプション事業のシェアをさらに伸ばしたいと思っています。また、LCMサービスに厚みをつけるため、現在注力しているヘルプデスク業務や関連サービスを担える人材の育成と採用を継続、排出管理BPOサービスも拡大していく方針です。
―― あらゆる産業で人材獲得が難しくなっておりますが、新卒の採用は順調ですか。
上田 人的資本の重要性が叫ばれている今、採用は経営の最重要課題の一つだと考えています。新卒採用は毎年行っており成果が出ています。欠員が出てから人を補充するのではなく、先を見据えた攻めの採用戦略で今後も動いていきます。