経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

蓄電池から革新と成長で切り拓く未来のエネルギーソリューション 村尾修 GSユアサ

GSユアサ 村尾修

電池・電源の専業メーカーとして多岐にわたる製品を手掛け、日本の蓄電池技術を進化させてきたジーエス・ユアサ コーポレーション。自動車用電池ではグローバル市場でもトップレベルのシェアを誇り、次世代のエネルギー課題への貢献が期待される。(雑誌『経済界』2024年3月号「関西経済の底力特集」より)

GSユアサ 村尾修
GSユアサ 村尾修 むらお・おさむ

2023年上期は増収増益。長期ビジョンで目指すもの

 ジーエス・ユアサ コーポレーションは、2023年上期(4~9月)において増収増益となり、売り上げ、営業利益、経常利益、純利益で過去最高を更新した。

 同社が23年に策定した長期事業計画「Vision2035」は、カーボンニュートラルの実現目標である50年を見据えた事業展開を示している。

 中でも注力しているのが、モビリティ、社会インフラ分野の双方で活用が広がると予想される、高容量・高出力なリチウムイオン電池の研究開発だ。これについては、23年にホンダと設立した合弁会社で、両社の知見を合わせ、自動車と電池の最適解を導く総合的な研究開発を進めている。

 また、同社の製品は、有人潜水調査船「しんかい6500」をはじめ、国際宇宙ステーション(ISS)、気象衛星といった極限の環境での活用が進んでいる。地球レベルで重要な役割を果たす革新的技術は、世界のエネルギー課題への貢献にも期待されるものだ。

 長期ビジョンとして、「モビリティおよび社会インフラの分野に注力していく」を掲げる村尾社長。モビリティについては、「世界的な電動化や環境対応といった潮流の中で、常にお客さまのニーズを見極めながら展開していきたい」と話す。長らく業界を牽引してきた鉛蓄電池の技術力を強みに、車載用リチウムイオン電池の開発、生産に注力していく方針だ。

再生可能エネルギーによる社会インフラの充足に貢献

 社会インフラについては、電力貯蔵システムESS(Energy Storage System)用電池をはじめ、系統連系、事業所などの大規模な電力供給に関わることで、持続可能な社会システムの実現にインパクトを示す。ENEOSグループへの導入が決定した蓄電所設備は、2カ所合計で290メガワット時の容量を有し、国内最大規模となる。

 日本政府は30年の電源構成における再生可能エネルギーの比率の見通しを現状の20%台から36~38%になるとしており、「2050カーボンニュートラル」の実現に向けて将来的にはその比率は50%以上に拡大すると想定されている。太陽光、風力といった気象によって出力が変動する自然エネルギーを安定的かつ効率的に供給するには、同社の技術が強みとなる。

 23年3月には、北海道北部風力送電の北豊富変電所に、同社が納入した約21万モジュール約330万セルという世界最大規模の蓄電池設備が稼働を開始した。

 現状の課題は、設備を含めた早急な生産キャパシティの向上だという。現在年間100万セルを超える同社への需要は、事業拡大の機会だけでなく、目指す社会の実現に向けて果たすべき使命でもある。

革新的技術を強みにエネルギーで社会を支える

 ジーエス・ユアサ コーポレーションは、前身であるGS(日本電池)とユアサ コーポレーションが04年に経営統合してできた会社だ。1895年に二代目・島津源蔵が日本で初めて鉛蓄電池の試作に成功。以来100年以上にわたり、技術開発力を礎に蓄電池を通じた社会インフラの発展に貢献している。

 変化するニーズに応えながら、自ら時代とともに成長してきた今、産業社会の大きな変革期を迎えている。「革新と成長」を企業理念とする同社が見据えるのは、エネルギーで支える持続可能な社会だ。事業領域のウエートを従来から変化させながら、エネルギー分野における総合的なソリューション・サービスを展開していく。

 「Vision2035」の策定に関わった50人ほどの社内メンバーとは、事業部の垣根を越えてディスカッションを繰り返した。時には白熱した議論もあり、かえって風通しの良さがうかがえる。日頃から社長自ら各事業部や海外拠点に出向き、半年ごとに中期経営計画の進捗や思いに耳を傾け、対話によって納得し合いながら進めるという。

 「コロナでDX・IT化は進みましたが、オンライン会議では『ほんまもん』の話が難しいと感じることもあった」と話す村尾社長。画面越しに距離感が生じることによる情報伝達の危うさを経験した。

 「現場の表情が見えなくなるようではまずいと思います。自社で製品を開発、生産し、売っていくメーカーですから、営業、技術、生産といった第一線の人たちが元気でないと」

 現地・現物・現実の三現主義。生産部門の経験が長い村尾社長だが2015年に社長に就任してからも、今もこの視点は変わらないという。

 グローバルに事業を展開する同社は、地産地消を基本としており、為替リスクは少ないものの、国内市場は円安や原料高騰の影響を受けているのが実状だ。さまざまな合理化施策を講じながら、売価是正が必要となるケースもあった。それでも選ばれる理由として、品質を挙げる村尾社長。顔の見える社員たちと共に創業者たちのDNAを受け継ぎ、挑戦を続け積み上げてきた安心・安全の実績は何にも代えがたい信用となっている。

 地球規模での社会構造の変革期にありたい未来像を描き、歩みを進める。目指すべき社会を創造していく存在として期待が高まる。 

会社概要
設  立 2004年4月
資 本 金 330億円
売 上 高 5,177億3,500万円(2023年3月期)
本  社 京都市南区
従業員数 1万4,317人(連結)
事業内容 自動車用・産業用各種電池、電源システム、受変電設備、その他電気機器の製造・販売
https://www.gs-yuasa.com/jp/