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ニッチトップで全国展開 業務スーパーの強さと視点 沼田博和 神戸物産

神戸物産 沼田博和

食品小売業界では最後発でスタートした業務スーパー。インフルエンサーがシェアしたくなるユニークな商品と手頃な価格が消費者の支持を得て、2022年には全国1千店舗を超えた。独自路線で急成長を続ける同社の強さに迫る。(雑誌『経済界』2024年3月号「関西経済の底力特集」より)

神戸物産 沼田博和
神戸物産 沼田博和

大手との差別化図る戦略で小売のニッチトップ目指す

 先代社長が小さな生鮮スーパーを開いたのが1981年。既に大型スーパーチェーンが展開し、最後発での参入であったことから、大手企業との差別化が生き残りの必須条件であった。そこで先代社長は中国の大連に工場を開設し、食品製造のノウハウや販売、海外企業と取引を行う中で製販一体のビジネスモデルやローコストオペレーションなどの仕組みを学んだ。ターゲット顧客を安く大量に食材を仕入れたい業務用ユーザーと大家族の一般消費者に設定し、小売のニッチトップを目指した。

 現在、直営4店舗以外はFCで展開している。全国展開する国内食品スーパーはイオン系と同社のみ。売り上げの3分の1をプライベートブランド(PB)商品が占めている。これは小売業全体で見ても異例だ。業績は24期連続増収、利益率は食品小売業でトップクラスを誇る。

 魅力は手に取りやすい価格とボリューム、PB商品をはじめ海外輸入食材やナショナルブランド商品を織り交ぜたユニークな商品バリエーションがあること。また国内自社グループ製造による安全・安心への信頼もブランド力を底上げする。消費者によるSNS発信やメディア取材などで毎日のように紹介され、ブームを起こす商品の支持も高い。

コスト削減と業務効率化。社内風土に昇華するスピード

 販管費率を14%台に抑えるなどの徹底したコスト管理は、常に業界の慣例を疑いながら、商品企画や物流、販売環境やオペレーションなどの改善を繰り返してきたことによる。しかし、近年のインフレ、円安、原料高騰といった環境にはこれまで以上に力を入れて対応する必要があったという。

 この最適化を図り、ベストなコスト削減策を講じてきた。特に購買頻度の高い商品を中心に価格設定を見直した。製販一体の強みは、開発から販売までのリードタイムの短縮や、PB商品のスペックを適宜改良する柔軟さにも生きている。

 昨今の消費者動向を見ると、買い控えやお店を選別する動きが顕著に表れていた。そうした中、同社では2023年春以降に客数の増加傾向が見られた。節約ムードの中で業務スーパーを選ぶ消費者が増加したようだ。

 意思決定から実現のスピードも、同社の進化・成長のポイントだ。コロナ禍での象徴的なエピソードがある。店舗の感染予防策は、ウイルスがどのようなものか分からない初期の時点から取り組んでいる。

 本社のある兵庫県では、20年5月に緊急事態宣言が解除された。子ども用マスクの流通がなお少なく、従業員から子ども用マスクの必要性を訴える声が上がった。政府による出勤回避等の要請で、30%の出勤率という状況の中、企画から納品までを3週間で実施。5月25日には加古川市・加古郡稲美町の子どもたちへの寄贈が叶った。同社は創業以来、すぐに実行する風土がある。重要性・緊急性の高いことはイレギュラーに動く態勢がある。磨いてきた即動力も、消費者に感動をもたらし続ける事業パフォーマンスに寄与しているようだ。

 独自の取り組みが、昨今の社会課題に適応しているシーンは多い。「国際情勢によって、弊社も含め小売業は窮地に立たされていると思う」と語る沼田社長。

 人件費や光熱費の上昇が大きなトレンドとしてある中で、同社はコスト削減の観点から省力、省エネ施策に取り組んできた。商品パッケージの包装を最小限のサイズにすることによるプラスチック量の削減や物流も効率的な配送を行うなどの取り組みが環境保全につながっている。

 13年に参入した再生可能エネルギーを利用した発電事業や、創業当初から新店舗のオープン時に行っている業務スーパーオリジナルエコバッグの無料配布によるレジ袋の削減など、サステナビリティにつながる取り組みも行っている。

国内消費をよりポジティブにそして世界の食卓に貢献する

 業界の慣習にとらわれず、常に消費者の食生活を見つめチャレンジを続けてきた。少子高齢化の流れの中、現在は惣菜などの中食にも力を入れている。共働き家庭などに「食卓代行」として貢献し、消費者から高い評価を得ている。これには外食産業に向けて長年培ってきた食品加工の開発技術が生きた。日常使いによりなじませるべく、価格を含め、さらに磨きをかけていく。「世の中が便利になるほど1分1秒の価値が高まる。時短は重要なテーマ」と沼田社長は語る。

 今後目指すのは、日本にとどまらず、海外にまで同社の「食」を届けること。1500店舗を目標としながら、日本の全ての消費者へ商品を届ける環境をつくるため、Eコマースもテスト運用を開始した。そこには消費者の豊かな生活に対する想いがある。最低限の生活基盤である食に対し、同社が時間と価格でサポートすることによって、消費者の日常に「ゆとり」をもたらしたいという。

 「業務スーパーの存在によって、消費者の生活に前向きなモチベーションを生み、レジャーや教育などの『コト消費』の増加を推進したい。消費に対するポジティブな感情は、より元気な世の中を創る」

 挑み続け、ニッチトップを走り続ける視線の先には、食卓から広がる人々の豊かな生活がある。

会社概要
設  立 1985年11月
資 本 金 5億円
売 上 高 4,615億4,600万円(2023年10月期・連結)
本  社 兵庫県加古川市
従業員数 1,565人(2022年10月末現在・連結)
事業内容 業務用食材等の製造、卸売および小売業
https://www.kobebussan.co.jp/