いよいよ2025年大阪・関西万博の開幕まで1年余となった。準備はラストスパートに入る中、建設費は膨らみ、メキシコなど海外の複数国から参加辞退の申し入れがあるなど課題は山積している。一部で「中止・延期」論もささやかれたが、万博開催は地盤沈下の著しい大阪・関西経済が攻勢に転じる起爆剤となり得るのは間違いない。政官財も手をこまねいているわけではなく、成功に向けてあの手この手の策を模索している。(雑誌『経済界』2024年3月号「関西経済の底力特集」より)
建設費高騰や中止論を乗り越え。工事は急ピッチで進む
当初1250億円と想定されていた会場建設費は1850億円に引き上げられ、原材料価格の高騰を受けて2023年10月に最大2350億円まで膨らむ見通しが示された。さらに、パビリオンの出展を予定していた一部の国が撤退意向を示し、万博はやや逆風に見舞われた。
それでも中止・延期の合理性は乏しいのではないか。そもそも、万博の開催地は博覧会国際事務局(BIE)加盟国の投票で決まり、天変地異や新型コロナウイルスのような感染症のパンデミックでもない限り、中止は想定されていない。
「EXPO2025登録申請書」によると、仮に中止した場合、政府は参加国とBIEに費用を補償しなければならない。現段階の補償上限額は2億3239万2千ドル(約350億円)で、開幕1年前の4月13日以降は5億5700万ドルとなる。
このため、一部から「早期に中止を決断すべきだ」との声も出たが、そんなことをすれば日本の対外的な信用は失墜してしまう。そもそも、万博のメリットにもっと目が向けられるべきだろう。
開幕500日前の23年11月30日には前売り入場券の販売がスタートした。会期中の1日券が7500円なのに対し、開幕2週間のみ入場できる「開幕券」は4千円、夏休み前の7月18日まで入場できる「前期券」が5千円とコスパに配慮した。
万博には、海外パビリオンだけでなく、13の企業・団体も民間パビリオンを計画。既に全てのコンセプトは出揃い、工事も始まっている。
例えば、バンダイナムコホールディングスはアニメ「機動戦士ガンダム」の世界を表現した施設を造る。パソナグループのパビリオンでは手塚治虫の代表作アニメの主人公「鉄腕アトム」が案内役を務める。吉本興業ホールディングスは笑顔を表現した球体(直径約20m)をメイン玄関として設置し、所属芸人によるショーなどを企画。住宅大手の飯田グループホールディングスと大阪公立大の共同出展パビリオンは西陣織の生地をまとわせる。各社趣向を凝らした出展に期待が膨らむ。
インバウンド増加で経済波及効果は最大2・9兆円
今後、実用化が期待される最先端技術もさまざまな形でお披露目される。会場と大阪府、兵庫県の数カ所を次世代モビリティーの「空飛ぶクルマ」が結ぶほか、NTTが実現を目指す次世代の情報通信技術「IOWN(アイオン)」も注目される。超高速、低遅延、低消費電力が売りで、電気信号を全て光に置き換えるため、映像や音声などの伝達の遅れを従来の200分の1程度に抑えられる。離れた場所にいる人とオンライン会議をしても隣にいるかのようにタイムラグを感じなくなる。
インターネット上で万博会場にいるかのような体験ができる「バーチャル万博」も目玉の一つだ。アバター(分身)を3タイプの中から選択し、翻訳機能を使って海外客とも交流できる。
また、会場中心部を取り囲むように世界最大級の大屋根が設置される。高さ12~20m、幅30m、1周約2㎞で、屋根の下では直射日光や雨を避けることができるほか、上部を歩けば大阪湾を一望できる。
民間シンクタンクのアジア太平洋研究所(APIR)は23年版の「関西経済白書」で、万博の経済波及効果を約2兆4千億円と算出した。APIRは「拡張万博」という概念を唱えており、普段は観光客が入れない町工場を地域一体で公開する「オープンファクトリー」などの関連イベントが増えて、「関西全体をパビリオン化」できれば、周辺府県にも恩恵が広がると分析する。
近畿経済産業局によると、オープンファクトリーは東京都台東区の「台東モノマチ」(11年初開催)が先駆けと言われるが、22年度は関東経産局管内の13カ所に対し、近畿経産局管内は14カ所と上回っており、近畿はオープンファクトリーの盛んなエリアになった。
これらの取り組みが軌道に乗れば、国内宿泊客の宿泊日数は1泊から2泊に、訪日外国人客(インバウンド)は3泊から5泊にそれぞれ増える。さらに、国内日帰り客の交通費・飲食費・娯楽サービス費も20%増えるとの想定が見込めるため、APIRは、波及効果が一気に約2兆9千億円まで膨らむと試算する。
万博の全貌がより明らかになるにつれ、期待感はいやがうえにも高まるはずだ。