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大規模プロジェクトの始動を追い風に北海道のブランド力に磨きをかけてさらなる発展を 岡本宜樹 日本銀行

日本銀行幌支店 岡本宜樹

北海道では大プロジェクトや開発が続々と始まり、好況を迎えるためのさまざまな要素が揃う一方、物価高や人口減少などのマイナス要因も少なくない。北海道の現状とポテンシャルについて、日本銀行札幌支店長の岡本宜樹氏に聞いた。(雑誌『経済界』「攻勢に転じる北海道特集」2024年4月号より)

岡本宜樹・日本銀行 札幌支店長のプロフィール

日本銀行幌支店 岡本宜樹
日本銀行 札幌支店長 岡本宜樹
おかもと・よしき──1967年東京都生まれ。90年東京大学法学部卒業後、日本銀行に入行。松本支店長、発券局参事役、仙台支店長、金融機構局上席考査役などを歴任し、2023年5月より現職。

北海道ブランドは海外にも定着。世界市場に打って出るべき時

 2023年は、新型コロナウイルス感染症が5類に移行する中で人流が回復し、夏は観光分野が非常に好調でした。強制貯蓄、ペントアップ需要という言葉がありますが、まさにコロナ禍の間に消費が落ち込んだ分を取り返すように、観光需要が拡大したのです。物価高の影響、特に交通費で燃料代負担が重くなった影響が出るのではないかと注視していますが、心配したほどではありません。

 インバウンド需要はまだまだ成長が望めます。これまでは中国やオーストラリアの方々が多かったですが、近年は東南アジアの方が増えています。大きな需要がある地域のニーズをいかに見定めてうまくつかむかがポイントです。自国の経済成長に伴い、成熟したリッチな旅行を求める海外客が増えています。

 観光と共に、食が主要産業である北海道は、食料自給率にして約200%もの生産力を誇る一大供給基地になっています。しかし一次産業も、昔ながらの農林漁業とは変わっており、特に農業ではIT化・大規模化が進んでいます。ビジネスモデルは需要地に向けて組み立てていくことが基本ですが、現在はその需要地が、東京から世界市場へと広がっています。

 香港では日常的にスーパーで北海道フェアをやっていました。またドイツでは「Hokkaido」という名前のかぼちゃが売られているのを見たこともあります。海外にも「北海道産はおいしい」というイメージは定着しつつあるので、道産品を海外へ輸出するビジネスは今後も積極的に取り組んでいただきたいと思います。

 「北海道が大好き」という人は道外や海外にも多く、北海道の「個性」に人を呼ぶ力があるということは明らかです。北海道ブランドを活用するアイデアを持った人材を、どんどん呼び込んでいくことも必要です。

地理的、資源的な優位性が大プロジェクトを引き寄せる

 近年の北海道では、全国に類を見ないほど、さまざまな新しいプロジェクトが動いています。北広島にはボールパークができ、札幌では新幹線の延伸や中心部の再開発が行われています。ニセコのリゾート開発も旺盛です。さらに千歳ではラピダスの工場設立が決まり、工事が始まっています。石狩湾は、洋上風力発電プロジェクトで風景が一変しました。

 北海道はこれまで、全国的に見て輸出型の製造業が少ない地域でした。しかし、今後製造業で重要視されていくであろうGXに関して、グリーンエネルギーという点で極めて高いポテンシャルがあります。その伸びしろに注目し、ラピダスが北海道に来たのも自然な流れでした。気候変動が進む中、冷涼な気候も今後ますます大きな武器になり得ます。

 地理的な側面から見ると、アジアと欧米の中継点としても個性を発揮できる可能性が十分にあります。旅客や貨物の運輸だけでなく、データの中継点にもなり得ます。実際、日本と北欧を結ぶ海底光通信ケーブルの陸揚げ地点に苫小牧が検討されており、それを視野に入れて各社が道内でデータセンターの整備を進めていることが公表されています。

 地理的、資源的な優位性があるからこそ、そのポテンシャルが評価され北海道で多くのプロジェクトが動いていると思います。

厳しい環境下で培われてきたノウハウは大きな強みとなる

 一方、不安材料もあります。一つは物価高によるコストの増加です。実際、建築コストの高騰が採算面に影響し、市街地の再開発案件に延期や見直しが出始めています。

 もう一つは深刻な人手不足です。プロジェクトを進める上での悪影響もありますし、特定の分野に人員が集中することで既存企業の活動が萎縮してしまい、結果としてプロジェクトの地域全体への経済波及効果を減らしてしまう心配があります。

 人手不足への特効薬はなく、人を呼び込むためには、賃金を上げることも必要です。ニセコの例を見れば、魅力のある産業には海外からも人を集められる可能性があります。

 生産性を上げていくためには、さまざまな工夫があります。例えば、DXを進めることで、人員をかけずに同等のサービスを提供できる仕組みに変える解決策もあります。

 人手不足に関連する社会問題としては、物流の2024年問題が心配されていますが、もともと物流面の負担が大きい北海道では、20年ほど前から最適な供給システムを作り上げたチェーンストアが次々に登場してきました。全国展開に成功する企業も出ており、厳しい状況に直面して作り上げたノウハウは北海道企業の大きな強みになっています。

 現在進行する各プロジェクトは、関連産業の集積や個人消費などへの波及効果が広がれば、北海道全体がステップアップする絶好の機会となります。北海道のブランド力や、北海道ならではのノウハウを生かし、この追い風に乗ってさらに経済が発展していくことを期待しています。