北海道経済を下支えして、企業の成長戦略を後押しする北洋銀行。取引先は多岐にわたるが、近年はスタートアップ支援に積極的なことで知られている。現在の話題は10兆円を超える経済波及効果が期待されている次世代半導体製造拠点の北海道進出だ。今後の経営戦略を聞いた。(雑誌『経済界』「攻勢に転じる北海道特集」2024年4月号より)
安田光春・北洋銀行 頭取のプロフィール
半導体関連企業の進出は北海道の産業構造を変える転機に
── 昨年は北海道の主力産業である第一次産業や観光業にとって厳しい年だったと思いますが、現状と新たに掲げた中期経営計画の狙いを教えてください。
安田 2023年の国内経済は、新型コロナウイルス感染症5類移行による行動制限の緩和やインバウンド回復による人流の増加など、「ウィズコロナ」から「アフターコロナ」への転換が進んだ1年でした。
北洋銀行グループが営業基盤とする北海道は、足元では物価高、幅広い業種で直面する人手不足、中国の水産物禁輸や酷暑に伴う農業への悪影響といった景気下振れリスクがありますが、「再生可能エネルギーなどのGX」、「次世代半導体製造拠点の進出」という、2つの大きな産業が芽吹き始めており、今後の道内経済を展望するに当たって、大きな変化が生まれようとしています。
こうした先行きが見通し難い環境下において、北洋銀行グループでは23年4月よりスタートした中期経営計画「新たな成長へのチャレンジ」の下、足元の課題解決に向けた支援を進めるとともに、これら成長分野に対する積極的かつ主体的な取り組みを進めています。
GX分野では、昨年6月に始動した、札幌市を国際環境金融都市に位置付けるプロジェクトにおける産学官金連携組織「Team Sapporo-Hokkaido」に参画し、「北海道札幌GX・金融特区」設立に向けたワーキンググループ長として、北海道の特性を踏まえた、環境投資を加速させる規制緩和や税制優遇等の検討を行っています。
次世代半導体製造拠点進出により、道内経済への波及効果は10兆円から18兆8千億円までと各種機関が試算するなど、北海道にとっては、これまでにないビッグプロジェクトとなっています。北海道の産業構造変革への大きな原動力になるとともに、道内事業者にとっては、ビジネスにおける千載一遇のチャンスが訪れています。
当行では頭取直轄の組織である「成長戦略企画室」を中心に、正確で鮮度の高い情報やソリューションメニューを提供すべく、全行挙げての推進体制を整備し、工場が建設される千歳市や関係団体に行員を派遣するなど、積極的に取り組みを進めていきます。
ファンドを組成して宇宙関連や環境関連企業15社に支援
── スタートアップ支援に長年、注力されておりますが、北海道のポテンシャルをどのように評価されていますか。また、具体的な支援策を教えてください。
安田 北海道の特徴的なスタートアップ分野として宇宙産業および環境・再生可能エネルギー分野があります。大樹町には世界有数のロケット射場、そして大規模農業や道内各地に太陽光や風力など再生可能エネルギーに適した立地条件があり、これらの分野の中からスタートアップが生まれています。
スタートアップがまず直面する課題として、資金調達があります。当行では、「北洋SDGs推進2号ファンド」を通じて、宇宙関連や環境関連企業を含めこの1年半の間で既に15社に支援してきました。また、新技術や新製品の研究開発をサポートするため「北洋銀行スタートアップ研究開発基金」の取り扱いを行っています。
資金調達以外には、ヒトとモノの確保という課題があります。展示型商談会である「北洋銀行ものづくりサステナフェア」ではスタートアップブースを設けることにより、それらの課題に応える出会いの場を提供しているほか、グループ会社である北海道共創パートナーズではスタートアップ専門の人材紹介事業を行っています。
スタートアップが少ないという課題に対しては、大学でのスタートアップ指導により、金融教育を通じて北海道内のアントレプレナーシップの育成に取り組んでいます。
SDGs経営をトータルで支援するソリューションを提供
── これからの企業経営はSDGsやカーボンニュートラルの施策が重要になってきます。現在、どのような施策を行っていますか。
安田 当行ではSDGs経営の実践をサポートする「SDGsコンサルティング」やCO2排出量の算定から削減目標の設定、オフセット、情報開示まで、一貫したサポートを行う「脱炭素コンサルティング」、SDGsや脱炭素への取り組みを支援する「ほくようサステナブルローン」など、お客さまの将来ビジョンの実現に向けたソリューションを提供しています。
また、発行金額の一部を小学生向けSDGs教育教材制作に充当する私募債の取り扱いや成年年齢引き下げを踏まえた金融教育の促進、希少種保護や生育環境の整備など北海道の生物多様性保全に取り組む団体に対する助成など、地域社会の持続的発展に貢献するさまざまな取り組みを行っています。