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春闘2024いざ本番賃上げ率向上への課題と道筋 芳野友子 日本労働組合総連合会

芳野友子 連合

連合会長に就任して今年で3年目を迎える芳野友子氏。2023年は記録的な高水準での賃上げを実現し、24年はそれを上回る賃上げへの機運が高まっている。一方で原資の確保に苦戦している中小企業や非正規社員に対して、この流れをどう波及させていくかが課題となっている。聞き手=佐藤元樹 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』巻頭特集「『安いニッポン』さようなら~日本の給料を考える~」2024年4月号より)

芳野友子 日本労働組合総連合会会長のプロフィール

芳野友子 連合
芳野友子 日本労働組合総連合会会長
よしの・ともこ 東京都出身。1984年、18歳でミシンメーカーのJUKIに入社。入社1年後に同社の組合活動に専従。以降、数々の組合に参画し女性の社会進出に尽力。2021年連合初の女性会長に就任。

歴史的賃上げと物価対応の両立

―― 春闘が本番を迎えました。連合は今年5%以上の賃上げを目指していますが、2022年2・07%、23年3・58%(連合調べ)と比べて手応えはいかがでしょうか。

芳野 過去を振り返ると22年はコロナ禍前の水準に回復する賃上げができました。そして23年は30年ぶりの高水準の賃上げが実現できました。しかし、それを上回る物価高があり、実質賃金が減少になりました。24年はこれから具体的な交渉が始まってきますので、手応えはこれからという感じですが、23年11月に行った政労使の意見交換会でも労務費を含めた価格転嫁が重要だという意識合わせができたと思っています。

 また、その時に連合としてお伝えしたのが、中央だけで議論を進めていても、地方の中小がどれだけ賃上げ可能なのかが大きな課題であり、地方版の政労使会議をやっていただきたいと要望を出しました。この要望が通り、1月から2月に地方版の政労使会議が開催されることが決まりました。そういう意味では24年は23年以上に賃上げの機運が高まっているという期待を持っています。

―― 大手に限れば賃上げについては労使の合意がほぼできています。他の重点目標は何でしょう。

芳野 まず1点目として中期的視点になりますが、連合では「未来づくり春闘」をスローガンとして掲げています。未来づくりということで、経済成長や企業業績の後追いではなく、経済社会の活力の原動力となる「人への投資」を起点として、経済の好循環を目指していくステージへの転換を図り、力強く経済を回していくということになると思います。

 14年闘争以降、底上げ、底支え、格差是正を連合として掲げています。短期的な視点からの労働条件決定にとどまらず、過去20年以上にわたる賃金水準の低迷、その中で進行してきた不安定雇用の拡大と中間層の収縮、貧困や格差拡大について、中期的な分配構造の転換を図り、全ての働く人の総合的な生活改善を図る必要があると考えています。

 2点目は物価上昇への対応です。23年は歴史的な賃上げを実現できたものの、先述の通りそれを上回る物価高があり実質賃金のマイナスが今も続いている状態です。決して物価高が悪いというわけではなく、それを上回る賃上げができなかったので、その点では労務費を含めた価格転嫁が重要だという認識があり、意見交換会で政府、経済界、労働界で認識が共有されたと思っています。

 3点目が持続的な賃上げです。今、日本では20年以上続いたデフレマインドが変化しつつあります。24年春季生活闘争では、経済も賃金も物価も安定的に上昇する経済社会へのステップアップが必要とされています。そのための最大の鍵として、社会全体で問題意識の共有をしていくこと、そして24年度だけの話にとどめず、25年度以降の賃上げも持続的に行えることを目指していきます。

中小企業や非正規の賃上げを実現するには

―― 日本商工会議所の小林健会頭(三菱商事相談役)は中小企業にとって5%以上の賃上げはハードルが高いと言っています。

芳野 24年は中小企業、小規模事業所がどれだけ賃上げできるかがポイントです。23年は皆さんすごく頑張っていただきましたが、「今年はもう原資がない」とか、「無い袖は振れない」という声が聞こえています。賃上げには原資が必要なので、それをどのように確保していくか、ということになります。そうなると何度も言うように労務費を含めた価格転嫁が非常に重要になってきます。

 政府は昨年、価格転嫁に関するガイドラインを出しましたが、出して終わりではなく、きちんと企業の調達部門にまで落とし込んでいく必要があります。一方で地方に目を向けると、やはり人手不足は深刻化していて、地方活性化の意味も含めて、良い人材の確保は重要な課題です。そのために「人への投資」が重要となります。地域ごとに産業構造が違うため、地方に根付いた活動を地方版の政労使会議で話し合ってもらいたいと思います。

 その機運を盛り上げるためのひとつが「連合アクション」です。これは街頭でのアピール、SNSでの発信などにより世論喚起するものです。中央本部だけではなく、47都道府県にある地方連合会と合わせて、それぞれの地域で行動を起こしていきます。

―― 賃上げが実現できたとしても問題は物価高です。23年は物価高を非常に実感した年でした。そのため生活水準はむしろ悪化しています。今年はそれを払拭できるでしょうか。

芳野 物価高によって、家計に影響が出てきているというのは事実で、実質賃金は下がり続けています。そのため若い世代の将来不安も増えてきたと感じています。

 正規雇用で共働き世帯の場合、危機感があったとしても2人で働いていれば、生活に困ることはないでしょうが、非正規雇用の方や片働き世帯、特にシングルマザー世帯は厳しい状況におかれています。彼女たちの中にはトリプルワークで必死に生活費を稼いでいる人もいます。それが子育てにも影響するため、この人たちをどうカバーしていくかは非常に重要な問題です。

 さらには非正規雇用の人たちの大半は労働組合に加入していません。組合があるからこそ、会社へ要求し協議交渉の上で賃金決定ができますが、それもできない。そういったところに、どれだけ賃上げの流れを波及させるかが私たちの役割だと思っています。

記事は1月18日に行ったインタビューをもとに作成。