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特定技能人材と企業をマッチングし人手不足の課題解決 杉原尚輔 トクティー

杉原尚輔 トクティー

人口減少に歯止めがかからない日本にとって、企業の人手不足は大きな課題となっている。製造業や宿泊業、外食産業などはスタッフ不足でサービスが滞ることも珍しくない。この問題意識から杉原尚輔代表は外国人の「特定技能人材」と雇用企業をウェブ上でマッチングするプラットフォーム事業のトクティーを立ち上げた。現状と今後の戦略を聞いた。聞き手=清水克久(雑誌『経済界』2024年4月号より)

杉原尚輔 トクティー代表取締役CEOのプロフィール

杉原尚輔 トクティー
杉原尚輔 トクティー代表取締役CEO
1985年生まれ、東京都出身。2008年慶應義塾大学卒業。10年一橋大学公共政策大学院修了。在学中にウェストミンスター大学に留学。同年ドイツ証券に入社。14年英語教育事業ファンデミーキッズを設立。16年ドイツ証券を退社、同年外国人人材派遣業のエムティックを設立し18年にトクティーを設立。

「BtoBtoC」のプラットフォームでマッチング

―― 特定技能人材の在留資格で働いている外国人が増えており、今後も増加すると見込まれていますが、この分野で起業した理由は。

杉原 2018年にトクティーを立ち上げた当初は在留外国人向けの求人サイトの運営をやっていました。そして次に在留カードの真贋を判定するアプリの開発をしたのですが、そもそもマーケットが小さくて伸び悩んでいました。そんな時に、世間では特定技能人材が注目され飛躍的に伸びていたのです。特定技能人材は現在約20万人ほどいますが、21年当時は4千人程度。それが21年を境に毎月約1万人のペースで増えていったのです。

 日本は人手不足といわれていますが、一番足りてないのはサービス業や製造業などのブルーカラーです。そこに特化しているのが特定技能人材なので、21年に特定技能人材と日本の雇用企業をウェブ上でマッチングするプラットフォームをリリースしました。

―― 人材ビジネスで、先行する他社との差別化は。

杉原 特定技能人材の一般的な求人フローは雇用主が日本の人材会社に募集をかけ、その会社が海外の人材会社数社に人材を募ります。しかしながら、人材募集しても良い人材からの応募がなかなか少なく内定までに時間がかかっております。一方で、当社は現地の人材会社と提携することが鍵と考えて、212社とパートナーシップを結ぶことに成功しました。普通の会社は3~5社程度しか提携できておりませんが、当社がこれだけ海外の人材会社から評価されるのは質のいい雇用主の情報を多く持っていることと言葉のハードルなしにプラットフォームを使えるようにしているからです。

 求職者と国内外合わせて212社の人材会社をBtoBtoCのマッチングプラットフォームでつないでいるので、より良い人材を早く簡単に採用できるのが強みです。

―― 料金体系やマネタイズのスキームはどうなっていますか。

杉原 雇用主から頂くのは成功報酬の広告費と毎月の管理費になります。特定技能人材は毎月の管理業務が必要ですが、当社は登録支援機関の免許を持っているのでワンストップで雇用主さまを支援させていただけることが強みとなっています。特定技能人材は派遣と誤解されることがありますが、あくまでも直接雇用です。特定技能人材の雇用希望企業を増やして収益を伸ばしていくことが現在の課題です。

―― 国別ではベトナム人が多いですが、アジア圏の人は日本を最優先で希望するのですか。

杉原 アジアでは日本の人気が引き続き非常に高いです。英語圏で行けるのはフィリピンをはじめオーストラリア、カナダもありますが、それでも日本が人気です。時差が小さいことや治安が良いこと、人種差別が欧米と比べて、少ないことが理由です。ベトナムやインドネシアは国策として日本語教育を強めており、ベトナムとミャンマーの宗教は仏教がベースです。アジア各国にも技能実習生のような制度があり韓国の人気も伸びていますが、受け入れのキャパシティーが日本ほど大きくないのが現状です。

地方銀行や企業、団体と提携して需要を掘り起こす

―― 外国人労働者は今後も増え続けていきますか。

杉原 在留外国人は320万人超で、そのうち労働者は200万人を超えており、21年から22年にかけて30万人増えています。現在注目されている特定技能人材は、建設など一部を除いて5年と定められていた在留期間が来年度から試験に合格すれば、期間の上限が無くなる特定技能2号というビザが新設されます。これまでは穴の開いたバケツで受け入れていたようなものですが、それがなくなるので増加のペースは30万人以上となる可能性が高いです。

―― ニーズは高いと思いますが、営業はどのような手法で行っていますか。また、雇用主の地域性や職種の傾向はどうですか。

杉原 われわれが営業に出向くことはなく、ホームページの問い合わせから来たお客さまに業種や必要な人材のイメージを聞いて、料金を含むサービス内容をお伝えします。サイト上で実例などを詳しく載せているので、最初から契約の意思が高い方が多いですね。

 お客さまのエリアに関しては、関東など都心部だけではなく、地方からの問い合わせも多いです。北海道、中四国、九州は深刻な人口減に苦しんでいます。興味深いニュースを最近見たのですが、大卒と高卒の割合は30年前は高卒が多く、その人たちは製造業やホテル、飲食などのサービス業に就職する傾向がありました。でも大卒が増えた今はホワイトカラーを目指す人が多い。つまり製造業などの業種の方にとっては、人口の自然減と若者に敬遠される二重の要因から採用しづらい構造となっております。そこで救世主となっているのが外国人であり、地方を中心に外国人労働者を受け入れるというのは自然な流れだと思います。

―― 介護の現場も人手不足が深刻です。言葉の壁で難しいと言われますが、実際はどうですか。

杉原 介護も食品製造や建設と並んで需要の量が最も多い分野ですね。海外から直接来るパターンと、日本の日本語学校を卒業して試験に合格して特定技能になるパターンもあり、留学生は日本語が非常に上手なので介護職で活躍しています。(日本語能力試験で)N3程度の力があれば問題なく働けます。

―― 銀行や企業、団体との事業提携も積極的ですね。

杉原 地方銀行では取引先が人手不足に悩んでいても、直接人材紹介のサービスができませんが、当社と連携させていただければ、その問題を解決することができます。北海道銀行、沖縄銀行、中国銀行と提携していますが、他にも多くの銀行からお話を頂いています。地方銀行と提携できたきっかけは、X-Tech Innov

ationという地銀さまが主催のビジネスコンテストに応募したのが縁です。またJTBのグループ会社や外食産業の団体とも提携し、傘下のホテルや旅館、飲食業の企業に特定技能人材を送客しています。

―― 今後、注力していくテーマはなんですか。

杉原 21年から始めた事業ですが、予想以上に業績が伸び、マッチング件数も大幅に増加しています。今後は営業の強化、人材採用など課題は山積みですが、マッチングのDXを進めていきます。人材業はライバルの多い分野ですが、勝ち残る鍵はテクノロジーにより省人化と質の高い人材データだと思っています。