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スポーツビジネスの世界でゼロからイチを創出する 葦原一正 ZERO-ONE

葦原一正 ZERO-ONE

スポーツビジネスに関する相談が数多く持ち込まれる会社がある。2020年設立のZERO-ONE(ゼロワン)だ。代表の葦原一正氏は、外資系コンサルでキャリアをスタートし、野球、バスケットボール、ハンドボールとスポーツ界を渡り歩いた。ゼロワンで、スポーツの新しい価値の創造に挑む。文=和田一樹(雑誌『経済界』2024年4月号より)

葦原一正 ZERO-ONE代表取締役のプロフィール

葦原一正 ZERO-ONE
葦原一正 ZERO-ONE代表取締役
あしはら・かずまさ 1977年、東京都生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科卒業。外資系コンサルファームを経て、スポーツビジネスの現場を多数経験。2020年、ZERO-ONE設立。

「運だけは良いんです」好機をもたらした数々の縁

 ゼロワンのクライアントは幅広い。例えば、スポーツビジネスの本流とも言える各種競技のリーグやクラブチームだ。

 「日本のスポーツ産業は、社員の福利厚生や広告効果を目的として企業が支えてきた面があります。その結果、単独の事業として稼ぐ発想が希薄で慢性的な赤字体質に陥っているチームも少なくありません。当社はビジネスモデルの構築やマーケティングの面で支援しています」。ゼロワンの葦原一正代表はそう語る。

 また、近年はプロ野球日本ハムファイターズの新しい本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」を筆頭に、サッカー界やバスケットボ―ル界でも日本各地でスタジアムやアリーナの建設プロジェクトが進んでおり、そうしたスタジアム・アリーナ事業の支援も専門領域にしている。他にも、新たにスポーツビジネスに参入したい企業からも相談が多い。業種は通信やゼネコン、メディアと多彩で、NFTのような新たな技術の可能性を模索するベンチャー企業もある。

 これだけ幅広いクライアントから相談を受ける背景には、葦原氏が培ってきた戦略立案と再生実務の豊富な経験がある。

 葦原氏は、もともと外資系コンサルファームのアーサー・D・リトル(ジャパン)で、メーカーを中心に事業戦略やR&D戦略を多数立案してきた。スポーツ向けのコンサルティング会社での経験も持ち、通信会社の新規事業などを手掛けたこともある。スポーツビジネスの現場では、プロ野球DeNAベイスターズの立ち上げ初年度に参画し、社長室長として経営改革に挑んだ。また。2016年に男子バスケットボールで新たに立ち上がったプロリーグ「B.LEAGUE」(Bリーグ)では初代事務局長を務め、リーグの事業推進とマネジメントに奔走した経験がある。

 葦原氏は自身のキャリアについて「運だけは良いんです」と笑う。運の良さは縁の良さでもあり、縁を結んできたのは熱意と行動力があってこそ。野球小僧だった葦原氏は、『週刊ベースボール』を読んでいた時にトレーナーという職を知った。選手じゃなくても野球の仕事ができる。15歳の時には、スポーツの世界で食べていくと決めた。大学に進学してスポーツ界の関係者を訪ね歩き、関係を広げていった。しかし、いざ卒業を迎えた時は就職氷河期。求人がほとんどなかったうえ、スポーツビジネスに詳しい知人から、スポーツ界に身を投じるのであれば基本的なスキルセットを身に付けてからの方がいいとの助言もあり、外資系コンサルティングファームに就職した。

 そして2007年、転機が訪れる。就職時に助言をくれた関係者から、プロ野球オリックス・バファローズが人員を募集していると知らされた。今でこそスポーツビジネスの求人は増えつつあるが、当時は一人の採用に数百人が応募する狭き門だった。これを潜り抜けて念願のスポーツビジネスの現場に飛び込んだ。

 「大阪近鉄バファローズとオリックス・ブルーウェーブの統合から3年目のタイミング。私がいちばん下っ端のような感じで、泥臭い仕事もたくさんやりました」

 その後、12年にオリックス・バファローズを退職。今度はプロ野球横浜DeNAベイスターズから声がかかった。葦原氏を誘ったのは、現・北海道日本ハムファイターズ取締役で、新球場プロジェクトの中心人物である前沢賢氏だった。葦原氏がオリックス・バファローズで働いている時、前沢氏は北海道日本ハムファイターズで働いており、同じパ・リーグで仕事をしている縁で面識があった。DeNAでは事業地盤を作るべく3年弱奔走した。

スポーツ産業の経験は一般ビジネスでも役立つ

 その頃、男子バスケ界ではBリーグ立ち上げプロジェクトが進んでいた。初代チェアマンは、Jリーグ設立の立役者、川淵三郎氏。主な理事は、Jリーグで理事などを務めた大河正明氏。Bリーグを稼働させるために、実働部隊を牽引できる事務局長を探していた。Jリーグ時代の大河氏と縁があった葦原氏は、エージェントを通じて打診を受けた。

 「最初に話を聞いた時は、私よりも経験のある人がいいだろうと思いました。でも、川淵さんと働けるのならばと、思い切って引き受けたんです」

 15年、Bリーグに入局し、特にデジタルマーケティングに力を入れた。

 「バスケの試合に関心を持つ層のデータを分析すると、若い世代が多くて、しかも一人で見るよりも大勢で見るのが好きな人が多かった。また、スマホで情報を入手する人が多く、SNSで情報を発信・拡散するインフルエンサーも多いことがわかりました。そうした傾向を持つ人を取り込むために、アナログな仕組みは極力減らしてスマホファーストでいこうと決めました」

 試合の情報提供からチケットの購入、会場の入退場までスマホだけで完結できるように徹底した。また、各クラブが個別に設けていたチケットサイトをリーグへ集約し、顧客データの分析を行えるようにもした。Bリーグ発足1年目は、前年度の旧リーグにおける年間入場者数に比べ40%増の226万人の動員を達成し、順調なスタートを切った。

 その後、20年にBリーグを退職し、ゼロワンを立ち上げた。社名には、「既成概念にとらわれずゼロからイチを創り出していきたい」との思いを込めた。オリックスで働いたのは球団統合から間もない時期。DeNAベイスターズに参画したのは立ち上げ初年度。Bリーグでは初代事務局長を経験し、21年から23年まで日本ハンドボールリーグで初代代表理事を務めた。葦原氏のキャリアが、イチを創り出す経験に溢れている。

 最近、ゼロワンには新しいタイプの仕事が増えている。これまでは、リーグやクラブの支援、スポーツ界に関心を寄せる企業のサポートが主戦場だった。ところが、逆にスポーツビジネスのノウハウをその他のビジネスで生かせないかという相談が増えているのだ。

 「スポーツビジネスは、協会やリーグ、選手、スポンサー、自治体などステークホルダーが多く、事業を進めるための変数が複雑なのが特徴です。そうしたスポーツ産業でキャリアを積んだ人が一般ビジネスの世界で活躍すれば、スポーツビジネスの新たな価値にもなる。こうした仕事にも力を入れていきたいです」

 環境・社会への配慮や株主の尊重など、ビジネスの現場は複雑になっている。また、M&Aや複数社の共創事業など、利害調整が必要な場面も増えている。多様なステークホルダーの利害や期待値を調整しながら事業を進めたスポーツビジネス人材が、一般ビジネス界もリードする日が来るのかもしれない。