(雑誌『経済界』2024年4月号より)
田村征也 千葉ジェッツふなばし社長のプロフィール
経営手腕が問われる千葉ジェッツふなばし
4394人――千葉ジェッツふなばしの2022-23シーズンの平均観客動員数。チケット収入は5億8千万円を超え、売上高も25億円を超えて過去最高を記録した。
「新アリーナで観客動員トップを奪還します」
2023年8月に開催されたFIBA男子バスケットボールW杯2023で、男子日本代表はアジア最上位を獲得。今年開催されるパリ五輪への出場権を得た。代表チームの盛り上がりは、B.LEAGUE(Bリーグ)にも好影響を与え、チケット完売が続出している。千葉県船橋市をホームタウンとする千葉ジェッツふなばし(千葉ジェッツ)も、富樫勇樹、原修太ら人気選手を擁し、完売状態が続いた。Bリーグは2026-27シーズンからクラブに対して高い事業力を求める構想を発表。経営者の腕が問われている。
―― 千葉ジェッツは、2016年のBリーグ開幕から4年連続で観客動員数がトップでした。しかし、今シーズンの平均動員数を見るとリーグで10番目前後です。(1月時点)
田村 実は動員数自体は大きくは変わっておらず、今シーズンも完売状態が続いています。ただ、琉球ゴールデンキングスを筆頭に、近年ホームアリーナを大きくするクラブが増えて、相対的に私たちの順位が下がっています。
完売状態が続いたことも幸いしチケット単価は高い水準を維持できましたが、新しく観戦したいと思った方がいても購入できないという場面もあったので歯がゆさがありました。今年の春、新たなホームアリーナ「LaLa arena TOKYO-BAY」(仮称)が開業します。収容客数が約1万人と、現在の約2倍のキャパシティの大型アリーナです。必ず観客動員トップを奪還します。
最大の敵は“飽き”観戦体験を磨く
―― 倍の人数を集客するのは苦労も多そうです。
田村 新アリーナ開業を見越して、お客さまに直接アプローチするための顧客IDを2年前から計画的に蓄積してきました。IDはすでに数十万人規模になっていますし、SNSの発信にも力を入れてきました。1万人規模でも集客ができる組織をつくってきたつもりです。
また、全体のキャパシティは倍増しますが、コートサイドや1階席の席数は今と大きく変わりません。現状も価格の高い席から売れていきますし、むしろ新アリーナでは2階以上の席をどう埋めていくかが重要になると考えています。また、アリーナの使用料が倍以上に上がることから、事業として成立させるためにも需要に合わせて価格設定をすることや価格に見合ったサービスを新たに提供していくことが必要です。そこに注力することで、より多くの方に満足感を持って〝ご搭乗〟いただくことができると期待しています。
―― 千葉ジェッツがミクシィの傘下に入ったのが19年。20年7月に社長に就任した田村さんは初のミクシィ出身社長です。ミクシィ時代は大ヒットゲーム「モンスターストライク」のマーケティングに深く関わっていました。コンテンツの価値を引き上げるコツは何でしょうか。
田村 エンターテインメントの最大の敵は飽きです。ですから、常に変化を起こし新しい要素を提供していくことが欠かせません。スポーツは基本的に同じルールで同じゲームをしているだけですが、選手が入れ変わったりクラブの歴史が積み重なったりすることで新たなストーリーが生まれます。そうした要素を発信し、観客を飽きさせない工夫を常に考えています。新アリーナも、基本は音と光の演出になりますが、体育館然としたものからアリーナになってスケールが大きくなるので非日常的な観戦体験をお届けできると思います。
動員数が増えればチケット収入が伸び、紐づいてパートナー(スポンサー)もファンクラブもマーチャンダイジングも拡大できます。それを投資に回して観戦体験の質を磨いていきます。
―― Bリーグ全体のチーム人件費は、19年度の95億円から22年度は182億円と高騰しています。選手への投資も拡大しますか。
田村 もちろん一定数はチーム人件費に投資します。ただ、以前は売り上げ全体の50%くらいをチーム強化に使うべきだと言われた時代もありましたが、今は40%くらいに調整しています。といっても選手はクラブにとって一番のコンテンツであり、大切な財産ですから、その人件費を削っているのではなく、売り上げの伸びに比例して選手人件費を機械的に上げているわけではないため、比率が下がったということです。
大前提として千葉ジェッツは地域クラブとして成長してきた歴史があり、親会社に頼らず自分たちで独立して経営していくスタンスです。だから稼ぐことが重要ですし、そのためには事業サイドの人材にも投資する必要があります。私が社長になってからすべての雇用形態を合わせると社員が3倍近くに増えました。チームへの投資に資金を回し過ぎてじり貧になってしまわないようにバランスを見極めています。
競技と同じように経営もフェアにやるべき
―― 親会社が強烈にバックアップしているクラブもあります。
田村 親会社の資金が大きく入っているクラブにどこまで追随できるかは悩ましいところです。スポーツビジネスが盛んな欧州では、クラブに経営の健全化・安定化を求めるファイナンシャルフェアプレーという言葉が知られています。バスケットの試合を同じルールでやっているように経営面でもある程度フェアにやる必要性は感じます。Bリーグも26年から選手の人件費に上限を設けるサラリーキャップが検討されていますし、今後いろいろな構想が進んでいくはずです。
―― 社長になって3年半が経ちました。スポーツビジネスの難しさをどこに感じてきましたか。
田村 クラブ経営はチームもフロントも、とにかく人材が要のビジネスです。ですから、人の配置など組織に関する意思決定は悩むことが多いです。ですが、最大の意思決定は社長を引き受けることでした。社長になって最初にやったことは、千葉という地域を知るために家族を連れて船橋市に移住することです。苦労も多いですが、あの時の覚悟で全てやり切ってきました。今後も千葉ジェッツをさらに魅力的なチームにし、世界に対する影響力を大きくしていきます。「千葉といえばバスケット」と言われるような、バスケ王国の構築に貢献したいです。