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 コンブの廃液から水素を 発生低コストの代替エネルギーを実現 谷生重晴 バイオ水素

バイオ水素 谷生重晴

横浜国立大学名誉教授でバイオ水素生産の研究を長年続けてきた谷生社長。CO2排出量ゼロに向けて世界が動く中、コンブの廃液から水素を発生させることで、低コストでCO2フリーのエネルギーが容易に生産できることに注目。地産地消での技術確立を目指す。(雑誌『経済界』総力特集「注目企業2024」2024年5月号より)

バイオ水素 社長 谷生重晴氏

バイオ水素 谷生重晴
バイオ水素 社長 谷生重晴 たにしょう しげはる

オイルショックを契機にバイオマスの研究を開始

日本政府も2050年にCO2排出量ゼロを宣言したことで、化石燃料に替わるCO2を排出しないエネルギーとして水素が注目されている。谷生社長は50年も前から水素による日本のエネルギー自給を研究してきた。

「きっかけは1973年の第一次オイルショックです。エネルギーを外国産石油に頼ることへの危機を強く感じて水素生産を研究していた時に、78年にチューリッヒで開かれた第2回世界水素エネルギー会議で、化学工業と比べてバクテリアが40℃という極めて低い温度で水素発生するのを知ったことでした。この驚きから、バイオマスを原料にバクテリアの力を借りて水素を生産する技術開発をライフワークに定めたのです」と谷生社長は話す。

世界で最も高速で水素を発生するバクテリアの発見や、遺伝子操作で水素収率を極限まで高める方法を提案するなど数々の研究成果を上げてきた谷生社長。特に海のバイオマスであるコンブが陸上のバイオマスより生産性に優れ、水素発酵に適した糖質を多量に含蓄することから、コンブを原料とする水素生産が自前エネルギー生産に最適だと確信した。

「植物バイオマスは空気中のCO2と水を原料として造られるので、植物バイオマスから造られる水素はCO2フリーの再生可能エネルギーと位置づけられています。水素と同時に発生するCO2をCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)技術などと組み合わせて除去すれば、空気中のCO2濃度をも減らすことができます」

水素生産に当たり、重要資材などの他国依存性はなく、専管水域を利用すれば、完全に自前で多量のエネルギー供給が可能になる。しかしコンブによる水素生産でネックとなるのはコストだ。

「政府は2030年の水素のコスト目標を30円/N㎥、そして50年には20円/N㎥を目指しています。しかしコンブバイオマスの研究当初はコスト低減のめどが立たず、国を挙げて研究に力を入れるという機運が生まれなかったのです」

それでも谷生社長は研究を続け、コンブ産業の廃液を利用すれば30年目標が視野に入るだけでなく、50年目標も達成可能な開発計画を提案。

「水素収率が現有バクテリアより2割増しの新規水素細菌を獲得し、水素の原料となるコンブのマンニトール含有率を今より2倍ほどに品種改良するなら、廃液利用でコストは30円程度にまで改善できます。通性嫌気性の水素細菌を遺伝子操作するなら、発酵制御用薬品の使用量が激減するのでコストは20円以下になり、自家消費エネルギーを差し引いても90%を超える利用可能エネルギー量を得ることができるでしょう」

1㎞四方で栽培したコンブで年間600台の車が走行可能

現在の技術で水素生産すると、コンブを1㎞四方(=100ha)の面積で栽培して収穫できる量から、燃料電池自動車(燃費10㎞/N㎥-H2で年間走行距離1万㎞)を600台以上走行させることができるという。また、燃料電池で発電するなら350軒以上の家庭に電力供給が可能となり、石炭火力発電と比べて年間1100トン以上のCO2排出量を削減できる。

「コンブの品質改良には水産系の大学・研究機関の協力が必要です。また、新規水素発生細菌は人海戦術で当たれば間違いなく獲得できます。そのため、わが社で考案した簡単探索キットを提供して、広く学童・高校生らの協力を得ることを目指しています。遺伝子改良については、中国に帰国した同僚が、私の提案を取り入れた操作で一部成功したと報告しています。CRISPR-Cas9など最新の技術を使える研究室、研究者、大学院生の方々の協力を得られれば目標は達成できると考えています」

専門の研究者によって技術開発が行われれば、50年頃に14円/N㎥という低コストの達成も夢ではないという。

地産地消での技術確立を目指し共同研究者・協業者を求める

中国は2000年に248万haもの海域でコンブを栽培しており、今や1千万トン超を誇る世界最大の養殖コンブ生産国である。収穫物は食用だけでなく医薬用・工業用にも活用されているが、日本は食用が中心で、コンブの生産量は年々減少して10万トンにも満たない。

仮に日本が中国と同面積の栽培場を建設するなら、将来、電力消費量の35%以上を賄えるという計算結果も得ている。

「国土の12倍にもなる広大な海域を専管水域として利用できるため、代替エネルギー源として海洋バイオマスを栽培することは理にかなっているのです」

激しい気候変動を抑えるためにも外交問題に利用されないためにも自前の水素エネルギー獲得の必要性をあらためて強く感じているという谷生社長。「まずは地産地消での技術確立を目指したい」と呼びかけ、同社のウェブサイトでは研究資料を公開している。

「わが社の持つ知識・技術を広く皆さまにご利用いただき、共同で実現化を目指したい」

日本の自給エネルギー率を高めCO2排出削減を図るために、コンブバイオマスの実現を目指す共同研究者・協業者が求められている。 

会社概要
設立 2009年9月  
資本金 460万円  
本社 神奈川県茅ケ崎市  
従業員数 5人  
事業内容 バイオ水素製造システムの設計・製作・保守管理、バイオ関連製品製造システムの設計・製作・指導業務、微生物および酵素の製造・販売、教材・研究機器の製作・販売、バイオ関連物質の理化学分析および遺伝子分析など  
http://www.biohydrogen.co.jp/