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新市場のプラットフォーマー マイナカード×アプリで本人確認 梅本滉嗣 ポケットサイン

ポケットサイン 梅本滉嗣

今や8割の国民が登録済みのマイナンバーカード。その普及とともにカードを活用した本人確認アプリを提供するプラットフォーム事業者も出てきた。ポケットサインはベンチャーながらも既にユーザーは10万人を超え、プラットフォーマーとして存在感を示している。(雑誌『経済界』総力特集「注目企業2024」2024年5月号より)

ポケットサイン 代表取締役CEO 梅本滉嗣氏

ポケットサイン 越智晶
ポケットサイン 代表取締役CEO 梅本滉嗣 うめもと こうじ

スマホでICチップ読み取り 高セキュリティー機能が特徴

「マイナポイント」の給付とともに登録数が跳ね上がったマイナンバーカード。7年かけてわずか4割だった普及率は1年で約8割にまで倍増し、多くの国民に行き渡った。

そんな中でマイナンバーカードが持つICチップの機能に注目したのがポケットサインCEOの梅本滉嗣氏だ。東京大学法学部を経て、さらに物理に引かれて京都大学大学院で基礎物理学を修めた理学博士。金融系IT企業で高速株取引などを手掛けるうちにマイナンバーカードと対峙することとなった。

「証券取引には本人確認が必要です。一番良い方法は何かと調べているうちにマイナンバーカードに興味を持ちました」

鍵になるのはカードに埋め込まれているICチップ。ここに電子署名の機能があり、個人情報のうち、最も重要な基本4情報(氏名・住所・生年月日・性別)を偽りなく証明する。これにより唯一無二の本人確認ができる身分証となる。これをスマートフォンのアプリで登録・利用できるようにしたのがポケットサインだ。非接触対応のスマホにアプリをダウンロード後、マイナンバーカードのパスワードを入力してICチップを読み取り、登録してログインすれば使用できる。

「マイナンバーカードは国が運営している次世代型本人確認システムで、電子実印を配っているようなもの。誤解されがちなのがICチップを読み取ると『12桁の個人番号も同時に取得されている』と思われる点です。電子署名機能の中に個人番号は含まれていません。電子署名と個人番号は全く違う仕組みです」

マイナンバーカードを活用した身分証は電子署名に紐づけされている唯一無二のものだ。1人1アカウントで複数のアカウントを持つことはできないため、犯罪の防止にも役立つ。転居しても紛失しても同一人物であることを判定できるのが強みの一つだ。

ポケットサインの着想は金融会社時代に知り合った村井嘉浩・宮城県知事の助言も大きい。原子力発電所の災害発生時は住民の避難誘導とともに本人確認が重要になる。

「原子力災害は自然災害と違ってより遠くに避難しなければならず、さらに途中で放射線検査などもあり、そのままでは避難所の混乱が予想されるので本人確認のためのチェックイン機能も必要です。本人確認はICチップが埋め込まれたマイナンバーカードでもできますが、普段から持ち歩く人は多くありません。そこでスマホにその機能を読み取って使えれば防災にも貢献できると思い付きました。避難所でQRコードを読み取るだけですし、住民アンケートなども簡単にできるようになります」

こうして一昨年、金融会社の傍らで仲間とポケットサインを立ち上げた。アプリは自社製で、共同創業者でCTOの澤田一樹氏が開発を担った。

「彼は東京工業大学出身のスーパーエンジニアです。プログラミング競技大会などIT系コンテストで何度も優勝しており、ポケットサインのマイナンバーカードの個人情報を扱うための高いセキュリティー機能の開発と運用を担っています」

事業者は大臣認定が要件 「ミニアプリ」で機能増やす

マイナンバーカードを利用したプラットフォーム事業者となるには、国による大臣認定が必要要件となる。監督官庁は総務省とデジタル庁で、ポケットサインはベンチャーでありながらも国の厳しい審査を通過した。

「大臣認定を取得している企業は20社もありませんが大手ばかりです。審査は本当に厳しくて、システム管理室には私も入室できません」

現在、力を入れているのがポケットサインの機能を活用した「ミニアプリ」だ。「防災」「地域ポイント」「休日保育」など使えるメニューを増やしている。例えば「地域ポイント」では店舗にQRコードさえあればスマホをかざすだけでポイントの利用が可能。ポイントの二重付与などの不正も防止できる。女川原発のある宮城県女川町ではポケットサインの普及がかなり進んでおり、「日常使い」で慣れてもらうための実証実験も始まっている。

ポケットサインのユーザー数は約10万人。新進のプラットフォーム事業者でありながら、既に銀行や保険、会員制サービス、ボランティア団体など本人確認を要する事業者や自治体から続々と引き合いの声が寄せられている。

「共通しているのはオンライン上で登録する人物を、実在する個人と間違いなく紐づけしたいということです。公的個人認証を必要としている事業者は多く、プラットフォーム事業者として委託されれば、必然的に登録者も増えていきます。デモ環境も用意しているので、自社向けに使いたい場合などでもトライアルが可能です。機能もどんどんブラッシュアップして、継続進化させて使い勝手を向上させます」

5年後にはユーザー数1千万人を目指す。目標は「デジタルアイデンティティ」の確立だ。

「将来的にはバラバラのデジタルサービスを統一した『デジタルアイデンティティ』が必要です。そのためには数百万人の利用では話になりません。LINEのように日本中に普及させるつもりです」

プラットフォームを制する力を秘めたポケットサインに注目だ。 

会社概要
設立 2022年8月  
資本金 6億円  
本社 東京都中央区  
従業員数 7人(外部高度人材含め40人)  
事業内容 電子署名・認証サービスの企画、開発、販売  
https://pocketsign.co.jp/