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完成品の輸出は困難だがコンポーネントに商機あり 数多久遠

ウクライナで発見された日本製の砲撃砲弾。「60耗」、「頭信管」、「高級榴弾」などが書かれている

2023年12月に武器輸出三原則が一部改正され装備品の輸出規制が緩まった。これに基づき、日本はライセンス生産している地対空ミサイルシステム「パトリオット」を、ライセンス元のアメリカに輸出することを決定。日本の装備品輸出における課題とビジネスチャンスを元幹部自衛官の数多久遠氏が分析する。文=数多久遠(雑誌『経済界』巻頭特集「防衛産業の幕開け」2024年5月号より)

数多久遠 作家・軍事評論家

数多久遠 あまた・くおん 元幹部自衛官で現在は作家、軍事評論家として活動している。著書に『黎明の笛』、『深淵の覇者 新鋭潜水艦こくりゅう「尖閣」出撃』、『北方領土秘録 外交という名の戦場』などがある。

武器輸出の一部解禁で業界のタブーを覆せるか

ウクライナで発見された日本製の砲撃砲弾。「60耗」、「頭信管」、「高級榴弾」などが書かれている
ウクライナで発見された日本製の砲撃砲弾。
「60耗」、「頭信管」、「高級榴弾」などが書かれている

 一昨年のロシアによるウクライナ侵攻後、ウクライナで日本製迫撃砲弾が確認された。写真では状態が良いように見えたため、自衛隊向けに製造された兵器が闇ルートで流れた可能性も懸念された。ロットナンバーなどから追跡したところ、戦後に旧名古屋陸軍造兵廠高蔵製造所の払い下げを受けた大同製鋼(現大同特殊鋼)が70年も前に製造したものである可能性が高いことが判明している。その迫撃砲弾は、米軍の発注を受けて製造されたもので、法令に従って輸出されたようだ。

 この調査の過程で、朝鮮戦争当時の貿易雑誌を読んで驚かされた。ほとんど全ての記事が、武器の輸出に関するものだったからだ。いわゆる朝鮮戦争特需である。その熱狂とともに、筆者は、武器輸出がかけらもタブー視されていないことに驚かされた。

 これをタブー視する考えは、その後の安保闘争時代を通じて形成されたイメージなのだと知ってはいた。しかし、私のような防衛装備生産に賛成する者にさえ、武器生産・輸出を忌避する雰囲気が昔からあったような思い込みがあった。タブー視についての理解が表面的だったのだと、この調査で反省させられた。

 そして、この武器輸出に対するタブー視は、今また変化しようとしている。

 2014年、実態として輸出を禁止していた武器輸出三原則が、厳しい条件が付けられながらも、基本的には輸出を認める防衛装備移転三原則に変更された。そして、昨年12月、同三原則が一部改正され、ライセンス生産品のライセンス元への輸出が解禁されている。これによって、地対空ミサイルのパトリオット用ミサイル弾(※)がアメリカに輸出されることになった。

 日本のGDPが世界4位に転落し、日本を抜いた中国が、アジアにおける最大の軍事的脅威となっている今、この動きは止まらないだろう。イギリス、イタリアとの共同開発が決定している次期戦闘機をはじめ、今後に開発される防衛装備は、輸出を強く意識して開発されると思われる。

 日本の防衛力を高めることにつながるため、筆者は、基本的にこの動きを歓迎している。しかしながら、今までにビジネスとして輸出が決定している装備は、ウクライナ支援により迎撃ミサイルが不足しているアメリカへの輸出で、事実上のウクライナ支援といえるパトリオットミサイル弾を除けば、フィリピンに輸出される警戒管制用のレーダーだけだ。この点を見ても、完成品の輸出は容易ならざる道と言わざるを得ない。

 その理由にはさまざまなものがあり、それに触れることは本稿の趣旨ではないため、一つだけ指摘しておくにとどめたい。それは、日本が防衛装備を開発する際、今まで徹底して〝同種の装備品が海外に存在しない〟という条件が付されていたことだ。

 それを要求していたのは財務省だ。開発せずに輸入すれば開発費用は必要ない。そのため、予算の効果的な使用という点では、この条件が付されることは正しい。しかし、実態的には国産を目指しながらこの条件が付されると、開発される装備は必然的にニッチなものとなり、世界的には潜在需用者が少ない装備品となってしまう。

 一例を挙げるなら輸送機のC­-2がこれに当たる。上記の条件が付された結果、一般的には経済性が重視される輸送機に、高価格化不可避な高速性が付与された。結果として、運用コストを含め、C­-2は必要以上に高価になってしまった。輸出を期待する声は大きく、経産省が主導となり、開発時に民間転用に必須な形式証明を取得する便宜を図ることまで行われた。しかし、10年に初飛行を遂げ13年以上が経過した今も、輸出には至っていない。この条件を外して開発し、売れ筋商品を作らない限り、いかに性能が高くとも輸出が大きく伸びることはないだろう。

狙い目は海外メーカー。次期戦闘機開発に続け

 しかし、部品あるいはコンポーネントの輸出には、大きな可能性がある。

 昨年3月、幕張メッセにおいて防衛装備の展示会DSEIジャパンが開催された。日本からの出展社は、三菱重工など大手が目立っていたが、そうしたB2C企業だけでなく、B2B企業も出展していた。

 そうしたB2B企業の出展意図は、防衛省・自衛隊や訪れる他国の軍関係者に技術力を見せることではない。彼らの目的は、出展社や情報収集にやってきた防衛装備メーカーにアピールすることだ。

 イギリスやドイツなど、海外のB2B企業には、国がブースを確保し、その一角を小さな出展スペースとしている企業も多かった。

 輸出を目指す国内B2B企業の中で、大きなブースを確保し目立っていたのは、高度な鋳物技術を持つTANIDAだ。震災の影響で、本稿執筆に当たって話を聞くことはできなかったが、会場で話を聞いたところ、やはり出展の狙いは国内の防衛企業だけでなく、海外からの出展社を含めた防衛関係企業だと言っていた。実際、会期中に出展している外国企業から接触があったようだ。

 軽金属鋳物に技術を持つTANIDAは、複雑な形状で、高い精度、強度を求められる航空機用エンジン部材などを製造可能だ。航空関連だけでなく、戦闘車両用のエンジン部材など、海外の防衛装備メーカーの需要に応えられる可能性を持っている。同様の潜在力を持つ日本企業は多いだろう。

 また、組み込み用のコンポーネントとして特殊なレーダーを製造するアルウェットテクノロジーや電磁波シールド資材などのメーカーによる出展も見られた。これらも、海外の防衛企業に採用されれば、大きなセールスにつながる可能性がある。ウクライナで確認されているドローンには、カメラや模型用エンジンを含め、民生用として輸出された多くの日本製コンポーネントが組み込まれていることが確認されているくらいなのだ。

 次期戦闘機が、日英伊による共同開発が決まっているように、今後アメリカ以外の防衛装備メーカーへの輸出は、国としても歓迎する方向になるはずだ。

 部品・コンポーネントの場合、規制は防衛装備移転三原則ではなく、外為法などになるが、輸出先がイギリスのBAEシステムズなど有名防衛企業であれば、大川原化工機事件のように警察に無用な疑いをかけられる恐れもなく、関係法令に沿った形式さえ整えれば、輸出は奨励されるようになると思われる。円安傾向なこともあり、大きなビジネスチャンスがあるだろう。

 従来、企業は武器製造を隠すことも多かった。企業イメージの悪化を危惧していたのだろう。

 これからは、時代が変わるはずだ。

※ 発射機やレーダーを含むミサイルシステムではなく、ミサイル弾部分のみを指す。