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アカデミー賞受賞の快挙につながった東宝・最高ゴジラ責任者のブランド戦略 大田圭二 東宝

大田圭二 東宝

大田圭二 東宝
大田圭二 東宝常務執行役員
エンタテインメントユニットアニメ本部長兼チーフ・ゴジラ・オフィサー(CGO)
おおた・けいじ 1989年東宝入社。2010年映像事業部部長、13年取締役、21年より常務執行役員(現任)。17年よりチーフ・ゴジラ・オフィサー(CGO)を務め、ゴジラの国内外のブランディング戦略を手掛ける。

日本映画界の歴史的快挙となった『ゴジラ-1.0』の「第96回アカデミー賞」視覚効果賞受賞。その瞬間を誰よりも喜ぶ東宝のゴジラルームは、日本を代表する世界的IP「ゴジラ」のブランディングを統括する部署だ。総責任者となるチーフ・ゴジラ・オフィサー(CGO)の大田圭二氏に、ゴジラの次なる戦略を聞いた。聞き手=武井保之 Photo=逢坂 聡

日本映画初の歴史的快挙。アカデミー賞視覚効果賞受賞

―― 「第96回アカデミー賞」視覚効果賞受賞おめでとうございます。日本映画の歴史を動かす快挙になりましたが、CGOとしてのお気持ちをお聞かせいただけますか。

大田 プレゼンターのアーノルド・シュワルツェネッガー氏から「ゴジラ」という言葉が聞こえた瞬間、思わず叫んでいたくらい驚きと感動の一瞬でした。まさに歴史的な快挙だと思います。

 『ゴジラ-1・0』という作品を生み出してくれた山崎貴監督と白組のみなさん、そして故・阿部秀司プロデューサーに心からの拍手を送りたいです。そして、ゴジラ誕生から70年、苦難を乗り越えバトンをつないでくださった先輩方に心からの敬意を表したいと思います。

―― 今回の受賞は、この先のゴジラブランディングにどう影響があると考えますか。また、どう生かしていきますか。

大田 誕生から70周年という記念すべき年に、改めて世界から認められたことはゴジラにとって非常に大きな成果だと考えています。世界中でゴジラに追い風が吹いている状況ですから、われわれはこの追い風をしっかりと捉え、全世界でゴジラビジネスを加速度的に拡大させていきたいと思っています。

アニメ事業を立ち上げ、4つ目の柱に成長させた

―― 東宝に入社されてからCGOに就任されるまでの経歴を教えてください。

大田 最初は財務部に配属されました。銀行か証券のどちらかの業務に就きますが、私は銀行担当になり、日々の入出金管理から余剰資金の運用まで3年ほど従事しました。そのあと、演劇部に異動し、芸術座(現シアタークリエ)の運営において劇場収支全般を見る機会があり、今につながる経営の力を養った時期でもありました。そして、1999年に映像事業部に異動し、DVD(パッケージ)が全盛期だった二次利用部門を、来るノンパッケージの時代に向けて変革するのがミッションになりました。

 メディアは将来的に移り変わるものであり、その変遷のなかで重要なのは、権利を主体的に保有する意識を持つことです。そこから、東宝では本格的に手がけていなかったアニメ事業を立ち上げ、2013年にTOHO animationというレーベルを起こしました。

 22年に発表した中期経営計画「TOHO VISION 2032」では、従来の3つの柱「映画事業」「演劇事業」「不動産事業」に加えて、「アニメ事業」をこれからの成長牽引役と位置づけて、4つ目の柱としています。

―― 権利ビジネスへ向けたアニメ制作への参入を指揮されたんですね。

大田 基本的にアニメ作品は、テレビシリーズを展開してから、商品化、劇場版、舞台化、ゲーム化、イベントも仕掛けたりして、お客さまのロイヤリティを落とさずに、IPを大きく成長させていきます。代表作は10年前に立ち上げた『ハイキュー!!』ですが、今年公開した劇場版『ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』は興収100億円以上を狙える大ヒット(取材時)になっています。そのほか、『呪術廻戦』『SPY×FAMILY』『刀剣乱舞』『葬送のフリーレン』などもIP自体がより太くなり成功しています。

ゴジラを世界的IPに専門部署が発足

―― 同時にゴジラの戦略も手がけてきたのでしょうか。

大田 ゴジラは映画を製作していない時期もあり、00年代までは会社として版権事業に消極的な体制でした。そのような中、ゴジラ生誕60周年の節目にハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』(14年)が全世界で興収530億円を超える大ヒットとなります。そこから東宝が世界に誇れる大切なIPであるゴジラを大きく育て、世界中の人に愛されるキャラクターにすることが東宝の使命だという気運が高まり、14年にゴジラ戦略会議(通称ゴジコン)が発足しました。映像部門だけでなく、演劇から管理まで、あらゆる部署から社員が集まり、その後17年に当時の島谷能成社長(現会長)から私は最高ゴジラ責任者(CGO)を拝命しました。大げさな役職ですけど(笑)。

 ゴジコンでは、映画が公開していない時期にもさまざまなタッチポイントを作っていくことで、その認知度を上げ、キャラクターを育てていくことを行ってきました。

―― それまでゴジラ映画の製作に関わっていたわけではない大田さんに白羽の矢が立ったのはなぜでしょうか。

大田 島谷会長に聞いてください(笑)。私が担当していたセクションの中でゴジラの版権管理も行っていたことや、キャラクタービジネスでもあるTOHO animationをゼロから立ち上げて成功させた実績もあるのかもしれません。

10年後の80周年に向けたゴジラ長期ビジョンを策定中

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―― 戦略会議だったゴジコンは、19年にはゴジラルームという専任組織も誕生しました。

大田 アニメ版やハリウッド版といった映像作品のほか、マーチャンダイジングを含めたライセンス事業の拡大、イベント化などビジネスとしてより拡張していきました。そうなると、関係する人も多くなり、より一層のブランドコントロールが必要になります。ゴジラというIPのブランドを棄損せず、明確な方向性を持ってスピーディーに成長させていくための企画戦略コントロールタワーとして専任チームが発足しました。

 引き続きタッチポイントを作ることもゴジラルームのひとつのチームが担っています。最近だとゴジラバーガーで話題になった、マクドナルドとのコラボをはじめ、今後もさまざまな企業とのコラボを手がけていきます。

―― ゴジラルームのこれからの課題はどう考えますか。

大田 小さいお子さんや若い世代のファンを増やしていくことです。『シン・ゴジラ』や『ゴジラ-1・0』は、往年のゴジラファンだけでなく、女性も含めて幅広い世代の観客に支持されました。そういったアプローチをどう広げていくか。10年計画の中で議論しています。

―― この先のゴジラルームのビジョンを教えてください。

大田 やること自体は、ゴジラの長期ビジョンを作成して、それを具現化させるための戦略と組織を作り、実行すること。ゴジラは今年70周年ですが、80周年に向けたビジョンを今まさに練っているところです。

 映像作品だけではなく、グッズやゲームもさらに広がり、世界中でイベントが開催され、シンボリックなテーマパークにもなっているかもしれない。10年間のスケジュールを立てて、ゴジラを立体的、重層的に盛り上げていきます。世界中があっと驚くような企画を構想中です。

歌舞伎町ゴジラヘッド発案「もっと暴れろ」との思い

―― 印象に残っているCGOとしての仕事を挙げていただけますか。

大田 新宿東宝ビルの屋外テラスの巨大ゴジラヘッドが最初の仕事でした。当初の計画には入っていなかったので、ゴジラヘッドの大きさと重量のビル構造上の問題をクリアし、8~30階に入るホテルグレイスリー新宿の藤田観光さんに説明し、「歌舞伎町のど真ん中で新宿を見渡すゴジラは、新しいランドマークになる」と各所を説得して、実現しました。当時は「ゴジラも今のままではいけない。もっと暴れろ」っていう気持ちだけでしたね(笑)。

―― 『シン・ゴジラ』『ゴジラ-1・0』のヒットなどここ数年でゴジラというキャラクターが有するポテンシャルの高さが改めて示されています。これからゴジラ作品をどう拡張していきますか。

大田 ハリウッドのモンスター・ヴァースの日本版になるゴジラワールドがあってもいい。それは映画に限りません。テレビシリーズかもしれないし、配信での人間ドラマかもしれない。一方、マーチャンダイジング展開を考えると、ゴジラはキャラクターの数が少ない。メカや新しい怪獣も含めてどうしていくか、など課題はあります。また、世界に出ていく上では、映画だけでなく、グローバルプラットフォームとどう向き合っていくかも重要です。メディア戦略も多角的に進めていきます。

―― ハリウッド版ゴジラ最新作『ゴジラxコング 新たなる帝国』が4月26日に公開されます。本作にはどう関わっているのでしょうか。

大田 ゴジラや他の怪獣キャラクター造形のほか、全体の脚本も製作前にチェックし、指摘事項を戻す監修として携わっています。製作のレジェンダリーとはこれまでの作品からの信頼関係があり、われわれからも積極的に意見を出し、反映してもらっています。

 今回のアダム・ウィンガード監督は、ゴジラへの造詣が深く、われわれが驚くほどのゴジラ愛とリスペクトにあふれた方です。『ゴジラ-1・0』のアカデミー賞視覚効果賞受賞が話題になったばかりですが、次のハリウッド版も期待してください。日本版との違いも楽しんでいただきたいです。

ゴジラ画像クレジット

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