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オリジナル枕の企画開発と在庫ゼロの次世代ECで注目 河元智行 まくら

河元智行 まくら

枕や寝具市場でのECサイトを切り開いてきたまくら。枕というニッチな商品に特化し、顧客のニーズを捉えたオリジナル枕を企画するだけではなく、ECサイトが業績拡大する中で抱える課題も自社開発のシステムで改善してきた。その取り組みが次世代のECの形として評価され、EC業界全体から注目されている。文=井上 博(雑誌『経済界』2024年6月号より)

河元智行 まくら
河元智行 まくら代表取締役 枕一筋19年。今までに試し寝した枕は800種類以上。現在、全400種類以上の枕を販売、年間20種類以上の枕を新規開発。枕を通じて世界に安眠と眠るシアワセを届けている。

枕専業ECサイトで睡眠ビジネスを切り開く

 新素材のマットレスや熟睡効果のある入浴剤、リカバリー機能のパジャマがヒットし、睡眠ビジネスが注目されている。2004年に枕のECを始めたまくらは、枕と寝具のECサイトの草分けとして睡眠ビジネスを切り開いてきた。 

 「当初は、『枕は新規性のない商品。それも店頭で買うものでネットでは売れない』と、周りから言われ、問屋やメーカーから仕入れるのに相当苦労しました」と、語るのはまくらの河元智行代表取締役。

 実は、枕やマットレスはJIS(日本産業規格)では寝具のカテゴリーに一括されるため、国内での枕やマットレス単体の明確な市場規模は分からないのが現状である。マットレスは畳からベッドという生活様式の変化、寝起きが楽なベッドを利用する高齢者も多いため市場の拡大が見込まれるが、枕はベッドでもそのままの人がほとんど。市場規模が分からず買い替え需要も少ない枕市場への参入の判断は難しいところだが、河元氏はあえてECで参入する。

 「私自身が買い替えた枕が合わず困っていた時、枕についてネットで調べると自社商品の宣伝サイトばかりで正しい情報や選び方を紹介したサイトはほとんどなかったのです。それならば、と自分で枕の情報サイトを立ち上げたことが起業につながっています」

 自身の経験から開設した枕の情報サイトには予想以上にアクセスが殺到する。中でもサイトを通じて枕が合わずに困っている、いわゆる「枕難民」の多さを知った河元氏は、同サイトで枕のECを開始する形で起業する。

 「当初より当社のECサイトは3つの施策を行ってきました。ひとつは枕の正しい情報、特に素材や中身の違いによるメリットデメリットを明確にしました。これによって顧客は枕について正しく理解した上で購入してくれます。2つ目は定価販売。安売りをしないことで仕入れ先との信頼関係を築き、他のECサイトにない品揃えは顧客の選択肢を増やしました。3つ目は20日間の返品保証を付けたことです。枕はいつもの部屋やいつもの布団やベッドで何日か寝てみないと合うか合わないは分からないものです。返品保証があれば実際に寝て、納得した上で購入できます」と、河元氏は説明する。

 これらの顧客本位の施策が「枕難民」から大きな支持を獲得し、さらに社名の「まくら」と、ドメインの「pillow.co.jp」というSEOの優位性もありネットからの注文も順調に増えてきた。しかし、それに伴い受発注業務の増加と在庫の負担という課題がでてきた。

 「一時期、枕や寝具など5万点の商品を扱っていましたが、そうなると当社の企業規模では受発注業務も在庫の負担も大きくなってきました。そこで需要を予測し、仕入れ先に自動発注するシステムを自社で開発。受発注業務の省力化と棚卸資産の回転日数を8日まで短縮でき、在庫負担を一気に軽減できました」

 また、同社は業績が拡大する中で起きるさまざまな業務の課題を自社開発のシステムで改善してきた。その取り組みが高く評価され、12年に経済産業省の「中小企業IT経営力大賞」の優秀賞を受賞する。

自社で企画開発した枕でも枕市場をリードする

 枕のECサイトの草分けであるまくらは、今では自社で枕を企画、開発までを行い、メーカーとして枕市場そのものをリードしている。

 「当社のロングセラー商品である100万人が安眠した『王様の夢枕』シリーズと、それに続く『王様の夢枕Ⅱ』も好調です。中に入っている発泡スチロールの超極小ビーズが体圧を適度に分散し、素材特有のプニプニ感の心地よさが安眠を誘います」と、河元社長。

 同社は、ストレートネック用からタオルの肌触りが好きな人向け、枕を使わない人向けまでさまざまなオリジナル枕を販売している。それだけの枕を商品化できるのは、顧客の多様なニーズを把握しているから。

 「情報サイトの時からの顧客の要望や意見、さらにECでの購入履歴など20年以上の枕に関するビッグデータがあり、それをネットマーケティングや商品開発に生かせるのが当社の強みです」

 同社のデータによると枕の買い替え時期は女性で約3年、男性は長く使う人が多いという。買い替え時期のデータが分かるだけで同社にしかできないネットマーケティングが可能になる。また、男性は「いびきがうるさい」と周りから言われていびき対策枕に買い替えるように、データを活用すれば本人ではなく周りにきっかけとなる情報を提供することで男性の買い替え需要も開拓できる。

 「枕は使う人の体形や生活習慣、身体のクセによって合う枕が違いますし、年齢と共に身体も変化します。ですから定期的な枕の買い替えをお勧めします。その時、使っていただきたいのが当社のビッグデータを活用したオーダーメイド型枕『THE PILLOW』です。オンラインで性別、年齢、生活習慣・睡眠スタイル、睡眠の悩み、枕の好みや寝姿勢、BMI値など20の質問から診断し、AIが70万通りの中から一人一人に最適化した『今、合う枕』を作ることができます」

 中央部分を縦3分割、左右部分は縦2分割された7つのポケットがある枕をベースに、ポケットごとに入れる素材や硬さ、グラム数を変ることで70万通りを実現した。さらに、注文があれば各ポケットにオンラインでの診断通りの素材を詰めるだけというシンプルさが当日注文翌日納品、つまり在庫ゼロをも実現する。

 オリジナル枕だけではなく、「在庫ゼロEC」をミッションに「材料は持つが在庫は持たない」「商品廃棄ゼロ」「長期保管ゼロ」を目指すまくら。次世代のECサイトとして同社の取り組みに注目したい。