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高性能・高品質・安全なバッテリーがモバイルの可能性を広げる 猿渡 歩 アンカー・ジャパン

猿渡歩 アンカー・ジャパン

2011年に中国で創業したAnkerグループ。モバイルバッテリーからオーディオ、プロジェクターまで数々のデジタル製品を米国・日本・欧州を中心に世界100カ国以上に展開する。ユーザーの声に基づいた製品開発・改善を行い、高機能・高品質・安全の製品を提供し、そのシェアは世界中で拡大している。文=井上 博(雑誌『経済界』2024年7月号より)

猿渡 歩 アンカー・ジャパン代表取締役CEOのプロフィール

猿渡歩 アンカー・ジャパン
猿渡 歩 アンカー・ジャパン代表取締役CEO
えんど・あゆむ コンサルティングファームおよびPEファンドを経て、アンカー・ジャパンの事業部門創設より参画。現アンカー・ジャパン代表取締役CEOおよびアンカー・ストア代表取締役CEO。

高品質の小型バッテリーで高い競争力を持つ

 世界で覇権争いが続くEV。その動力源となる大型のリチウムイオンバッテリーの開発では世界各国の大手企業が凌ぎを削っている。そんな中、小型のリチウムイオンバッテリーに目を向けると、スマートフォンやパソコン関連商品、音楽・映像関連の黒物家電など小型バッテリーを内蔵する製品では中国のAnkerグループが米国・日本・欧州で高いシェアを占めている。中でも充電関連製品の「Anker」、オーディオ製品の「Soundcore」は人気ブランドとなっている。

 「当社は小型のリチウムイオンバッテリーのコア技術や制御システムを本気で研究開発をしています。小型化に特化した研究開発による性能と信頼、安全といった高い品質のバッテリーが内蔵されていることが当社の製品の強みです」と、説明するのはAnkerグループの日本法人であるアンカー・ジャパンの猿渡歩代表取締役CEO。

 日本市場では同社のモバイルバッテリーのシェアは50%を超え、ワイヤレスイヤホンでもアップル、ソニーといった世界的ブランドに次ぐ3位と、2013年に日本法人を設立した新興勢力でありながらその躍進は目覚ましい。その躍進を支えているのが自社工場を持たず生産を外部に委託するファブレスの製造体制で、研究開発から品質管理までを自社で行える専門チームの存在である。

 「当社の開発拠点もある中国・深圳には多くのハイテク関連の工場があり、中には格安で作れる工場もあります。しかし、適正な品質管理のもと製造しないと安全性に問題が残るのがリチウムイオンバッテリーの難しさです。当社には安全性を保つための品質管理の専門チームがいて、委託先の工場と『一緒にいいものを作ろう』とタッグを組んで安定した品質を維持しています。また、当社の求める技術と品質を持つ優秀な工場を探す調査専門のチームもいて、常に中国国内にアンテナを張っています。それぞれの専門チームが性能と品質という当社の強みを支えています」と、猿渡氏。

 同社が高いシェアを持つモバイルバッテリーだが、今やスマホの内蔵バッテリーも性能がアップし、以前より充電時間は短く、使用時間も長くなっている。そうなるとスマホユーザーのモバイルバッテリーへのニーズも減っていくように思える。

 「スマホの内蔵バッテリーの質が向上しても、一日一度は充電する人が多いと思います、それはゲームに音楽や動画、ネットショッピングにフリマアプリ、QR決済やオンラインバンキングと、便利なアプリのために内蔵バッテリーの消費量が格段に増えているからです。特にスマホのヘビーユーザーが多い若い世代は、使用するアプリが増え、ツールとして便利になればなるほど内蔵バッテリーでは追いつかず、モバイルバッテリーが欠かせませんし、充電時間を短くできる当社の急速充電器も好調です」 

 スマホに限らずワイヤレスイヤホンなどの小型バッテリーを内蔵する製品は機能が増えるほど、便利になるほど、音質や画質が良くなるほどバッテリーを多く消費する。つまり、機能や性能面で他社よりも優位に立つためには、バッテリー性能の高さが勝敗を分ける。

 同社の完全ワイヤレスイヤホンの最高峰「Soundcore Liberty 4」は、シリーズ最高の音質、ハイレゾ再生、3Dオーディオへの対応など最新技術と機能がありながらイヤホン本体だけで9時間、バッテリー内蔵ケースを併用すれば28時間と長時間の再生を実現した。まさにAnkerのバッテリーの性能の優位性を証明する製品といえそうだ。

バッテリーがさまざまな商品のモバイル化を実現

アンカー・ジャパン イヤホン
アンカー・ジャパン イヤホン

 今やアンカー・ジャパンは売り上げが500億円近くなり、グローバルの売り上げも1400億円と毎年売り上げを伸ばしている。20年にはAnkerグループの本社となる「Anker Innovations」が中国の深圳証券取引所の新興企業向け市場「創業板(ChiNext)」へ新規上場を果たし、中国発のD2Cブランドとして注目されている。

 「まずはいいものを作る。そしてアマゾンなどのユーザーレビューを日本法人だけでなく本社の開発部門にも共有し、製品の改善や新製品の開発に反映させ、さらにいいものを作る。そうすれば購入者の高評価のレビューが増え、それを見て購入する人も増えます。高い評価が増えればおすすめ商品として上位表示され、製品や会社の認知度向上につながります。認知度が上がったことで、『指名買い』も増えています」と、猿渡氏は自社製品に自信を持つ。

 進学や就職で一人暮らしが始まる時期になると家電量販店などで「指名買い」が増えるのが同社のモバイルプロジェクターブランド「Nebula」。今までの小型だがプロジェクター機能しかない機種とは違いAndroid OSを搭載し動画配信やゲームアプリなどが使用可能なスマートプロジェクターで、今までにないエンタメ系ガジェットとして進化した。この高画質と高機能を両立しモバイルで長時間視聴できるのは同社のバッテリーであればこそ。

 「テレビを見ない若い世代にスマートテレビが人気ですが、形はテレビと同じだけにワンルームなどの間取りでは設置場所が限られます。当社の製品はバッテリー内蔵で持ち運びも自由、設置場所も自由、天井など映す場所も自由。その自由さが『指名買い』の理由です」

 また、同社は災害用の非常電源やアウトドア用電源、節電対策用として普及が進むポータブル電源にも進出し、世界シェアのトップ3にも入っている。

 「リチウムイオンバッテリーは大きくなると蓄えるエネルギーが増えるため、より高い安全性が求められます。当社のポータブル電源は独自開発の制御システム『BMS』によって高い安全性を確保するだけではなく、モバイルバッテリーで培った技術で世界最高水準の充電速度も実現しました。昨年には、EVも充電できる超大容量のモデルも発表しました」

 高性能・高品質・安全なバッテリーで従来からある製品の「モバイル化」を推進するAnkerグループ。今後、同社からどんな「モバイル化」した製品が発売されるのか期待したい。