「一生でたった1日の大切な時間を共有し、年代や国籍を超えて感動を分かち合いたい」。そんな願いを胸に、会社員のセシリア渡辺明日香氏が立ち上げたOne Day School。子どもと大人が交流し学び合う新しい体験型教育とは。文=大澤義幸(雑誌『経済界』2024年7月号より)
「会社員として働きながらでも、1日だけの学校ならできるかもしれない。そう考えて立ち上げたのがOne Day School。ODSは年代や国籍を超え、さまざまな体験や異文化交流を通じて感動を分かち合う場です」
屈託のない笑顔と流暢な日本語でそう話すのは、代表理事のセシリア渡辺明日香氏。台湾生まれで、現在は日本の商社に勤務する傍ら、2021年から一般社団法人としてODSを運営している。
ODSは「食」「音」「学」「遊」の4つのコンセプトに沿って、子どもたちを含む参加者に対し、異文化交流を通した体験型の学びを提供する「1日学校」だ。学校や塾のように先生が子どもに一方的に授業をする形ではなく、子ども同士、また講師や大人たちも入り交じり、共通の体験を通して感性を養い、感動を分かち合う。
例えば「食」では料理や食事作法を、「音」では踊りや歌、楽器演奏を、「学」では着物の着付けや小物作りを、「遊」ではレクリエーションやスポーツを共にする。渡辺氏自身も「食」の講座で台湾料理やお菓子づくりを教えている。
渡辺氏は東京の大学に留学後、台湾にある日本の商社の現地法人に就職。営業職で能力を発揮し、数年後に日本本社に栄転、海外営業部門で食分野の仕事に携わるようになる。製菓学校にも通い、お菓子関係の国際コンクールで受賞多数、台湾ではレシピ本も出版する腕前を持つ。そんな渡辺氏がODS発足に着想したのが、休暇中に訪れたミャンマーでの邂逅だ。
「仕事や家庭の問題で疲れ果て、インド発祥の瞑想コースを受けるために訪れたミャンマーのヤンゴンとマンダレイで子どもたちと交流し、その笑顔とパワーをもらい、晴れやかな気持ちになりました。私も子どもたちのために何かしたいと考えながら、夜シャワーを浴びていると、『One Day School』という言葉が下りてきたんです。翌日村長さんと話し、村には500人の子どもたちがいることを知り、『1年半後にODSを開くために戻る』と伝え、帰国後に実行委員会を立ち上げました」
現在は協賛金と年会費による運営で、会員数は78人。将来的には学校法人化を目指す。
結局、世界的なコロナ禍でミャンマーへの凱旋は延期となったが、22年に千葉で開校した第1回は子ども64人を含む144人が参加。翌年の第2回は母国の台湾で現地の子ども300人を含む440人を集めた。第3回は今年8月24日にサマーキャンプ形式で、地域共創と国際交流をテーマに、『One Day School in 軽井沢』を開校する。コンドミニアム型施設を利用し、定員は50人。参加費は小学生以下5千円、中高生8千円、大人1万5千円。ランチやディナーも共にする。
「AI時代の子どもたちに必要なのは、人としての感性を豊かにし、個性を伸ばしていくこと。そのためには多くの人たちと出会い、どんな人間になりたいかを自ら追求していくことが重要です。次世代の子どもたちのためにも、使命感を持って現世の子どもたちに交流の場を提供していきます。夢は『世界のママ』となること。全世界でODSを開校します!」
次は渡辺氏の情熱が世界の子どもたちの顔を輝かせる番だ。