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変わりゆくコミュニケーションの在り方 人とのつながりを復活させる事業を 木村弘毅 MIXI

木村弘毅 MIXI

6月、設立25周年を迎えたMIXI。SNS「mixi」に始まり、家族、友人間など狭い間柄でのコミュニケーションを重視して幅広い事業を展開してきた。現在社長を務める木村弘毅氏は、スマホゲーム「モンスターストライク」の開発を主導した人物だ。社長就任後はスポーツ事業への参入を決めるなど、コミュニケーションの在り方の変化に合わせて柔軟な経営を行ってきた。MIXIの事業変遷、木村氏自身の経営哲学が生まれた背景について聞いた。聞き手=小林千華 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2024年8月号より)

木村弘毅 MIXI社長CEOのプロフィール

木村弘毅 MIXI
木村弘毅 MIXI社長CEO
きむら・こうき 1975年、東京都生まれ。東京都立大学工学部を中退後、父の経営する電気設備会社へ入社。携帯コンテンツ会社を経て、2008年、MIXIに入社。ゲーム事業部で「モンスターストライク」などを手掛ける。15年、取締役就任。18年、社長就任 (現任)。経済同友会「スポーツとアートによる社会の再生委員会」委員長。

誰も信じてくれなかった成功。モンストをリリースした理由

MIXI

―― MIXIは6月、設立25周年を迎えました。率直な感想をお聞かせください。

木村 やれていることとやれていないことがあると思っています。私たちはコミュニケーションをテーマにする会社で、SNS「mixi」、スマホゲーム「モンスターストライク(以下モンスト)」といったサービスもスポーツ事業も、それを通して、主に家族や友人など親しい間柄のコミュニケーションを生み出すことを軸にしています。共通の軸がある中で異なるサービスを創出し、それぞれヒットを出せているのは良いことだと思います。

 一方、海外でのサービス利用者数を伸ばせる余地はまだあります。家族間で写真や動画を共有できる「家族アルバム みてね(以下みてね)」については、海外の利用者増加ペースが国内を上回っていて、この勢いで利用者を増やしていきたいです。

 モンストも、これまでアメリカや中国で展開してきましたが、今後インドでのリリース準備を進めていきます。友人同士でゲームを楽しむ文化が既にあり、モバイルゲーム市場の成長も著しいインドでは、ヒットの可能性が十分あると考えています。コミュニケーションの機会が必要なのは日本も海外も同じなので、海外展開への投資は今後も強化していきます。

―― モンストといえば、mixi低迷期に木村さんが先頭に立って開発し、会社を業績回復に導いた思い入れのあるサービスかと思います。

木村 そうですね。私は2008年、mixi最盛期に入社しましたが、10年頃からTwitter(現X)、Facebookといった海外SNSが日本展開を開始すると、mixiの人気が落ち始めました。モンスト以前に「mixiパーク」という、ゲームと連動したコミュニケーションサービスも作ったのですが、ユーザーの支持が得られず早々に撤退することになりました。その間にも会社の業績は落ち、13年4~6月期には赤字転落。もう後がないという時にリリースしたのがモンストです。

 実はモンストを作るとき、協業を依頼したゲームデベロッパーの多くから断られたんです。当時流行っていたオンラインゲームのほとんどが、画面の向こうの顔の見えない相手と戦い合うようなモデルでした。一方モンストは、たった4人の仲間同士でスマホを実際に持ち寄り、共闘して敵を倒すことを想定したゲームです。これからの時代にそんなゲームが流行るなんて、なかなか信じてもらえませんでした。

―― それでも世に送り出したのはどうしてですか。

木村 mixiの運営を通して、人々の中にあるコミュニケーションへの強いニーズに気付いていたからです。その意味でモンストは、MIXIにとっての原点回帰でした。自分の周りにあるネットワークは小さくても、人から人へのバイラル(拡散)が起きれば、ものすごい勢いでネットワークは広がっていき、果ては世界中の人口を網羅してしまうほどの力がある。かつてmixiが証明してきたことです。

 mixiという「プラットフォーム」が低迷したことで、全社的にその自信が揺らいでいました。しかし今度は固有の機能を持つ「アプリケーション」として、コミュニケーションを追求するサービスで再起を図ろう。そうすれば今までの知見を生かして、新しいニーズにも応えられる。私はこれで絶対勝てると信じていました。

―― 戦略が当たり、その後業績はV字回復します。18年に木村さんが社長に就任した後、新たにスポーツ事業に参入していますね。

木村 モンストがヒットしたのは良かったのですが、私が社長に就任した頃は、売上高の約9割をモンストが占めている状況でした。そんなモンスト頼みのポートフォリオを脱するために決めたのが、スポーツ事業への参入です。競輪・オートレースのベッティングサービス「TIPSTAR」などの運営の他、19年にはプロバスケットボールチーム「千葉ジェッツ」、22年にはプロサッカーチーム「FC東京」を買収しました。

 私は、スポーツというのはファミリーコンテンツだと思うんです。例えば父親が息子をプロ野球の試合に連れて行って、息子までそのチームのファンになるというのはよくあること。一家みんなで同じチームを応援する家庭もあります。家族間でウイルスのように人気が広がれば、広告費をかけずに集客ができるので、収益性も高まります。mixiやモンストといった既存のサービスでも、同じやり方で集客を行ってきました。現在のBリーグができたのが16年なので、バスケットボールではまだ世代を超えたバイラルが起きる時期は来ていないかもしれませんが、今後歴史が長くなればそうした効果も見込めるはずです。

 この春には、千葉ジェッツの新たなホームアリーナとなる「LaLa arena TOKYO-BAY」を、三井不動産と共に開業しました。コミュニケーションはソフト、ハードの両面を強化させないと成立しません。コンテンツを充実させ、家族や友人と楽しめる機会を提供するとともに、アリーナのような施設も運営する。両方を揃えて経営していくことが重要だと思います。

経営に生きる父の教え。商売人の矜持を忘れない

MIXI

―― 木村さんが社長に就任して7年目になります。創業者の笠原健治氏含め、歴代社長3人の経営を見てこられたことと思いますが、木村さんの経営が持つ特徴は何でしょうか。

木村 私は創業者の笠原と同じく、実際に現場でモノづくりをしてきた人間です。ただ同じプロデューサーでも、笠原は比較的マネタイズを急がないタイプ。私は稼ぐ意識がものすごく高いプロデューサーだと思います。私にとって、経営の中で最も重要な指標は利益率です。当社はサービスごとの利益率を公表していませんが、世界的に優れたインターネットサービスの利益率が20~30%だとすれば、mixi全盛期や、現状のモンストの利益率はそれを上回っています。

 MIXIはコミュニケーションを軸に事業を展開していますが、コミュニケーションというのはある意味、高い利益率を目指しやすい領域です。家族や友人などの狭いネットワーク内で一緒に使うサービスは、個人が飽きて離れていくことが少なく、長持ちします。また、親しい相手とのコミュニケーションが絡むと財布の紐が緩みやすい。だからコミュニケーションのサービスをやっている以上、トレンドに乗ったインターネットサービスよりも利益率が上回っているべきだと思っています。

―― 稼ぐことを重視する考えは、どこから身に付いたのでしょうか。

木村 祖父と父も経営者だったので、無意識にその影響を受けているかもしれません。特に父からは、子どものころから説法のように商売の何たるかを言い聞かせられていました。

 例えば「人に何かを売るときは、これをくださいと言う人に売るのではなく、自分で相手にプレゼンして買ってもらうんだ」とよく言われました。相手になぜそれが必要なのか、ニーズを汲んで説明することで付加価値が生まれるものだと言いたかったのだと思いますが、子どもの頃はそんなことを言われても分からず、自分はビジネスの方面に行きたくないと思っていた時期もありましたね。

 ただ大学を中退した後、父の会社で働く中で、現在の経営ポリシーの源流になる学びも得てきました。商売人として、相手がお金を払いたくなるサービスを届けなければ駄目だという考えは、その頃から持ち続けているのかもしれないです。

―― MIXIの会社としての方針の中に、お父さんからの教えが生きている面はありますか。

木村 モンストの開発時にゲーム事業部で掲げていた「ユーザーサプライズファースト」でしょうか。単なるユーザーファーストではなく、ユーザー「サプライズ」ファースト。顧客の意見を聞いてそれに合うサービスを届けるユーザーファーストの考えは、当時多くの会社が持っていたものだと思います。でも私は、全てユーザーに答えを求めるのはおかしいと思う。ユーザーの1歩先を行き、お節介にも相手が「驚く」ような提案をするのが商売人の矜持です。

 過去そう考えてモンストを作り、今は制作現場から経営判断まで、全てに共通する意思決定の軸としてユーザーサプライズファーストを掲げています。ここには無意識に、父の教えが生かされているのかもしれません。

コミュニケーションが阻害される現代で

―― インターネットの誕生以降、コミュニケーションの在り方は変化し続けています。木村さんはコミュニケーションの未来についてどう考えますか。

木村 私が今注目しているのは、娯楽のオンデマンド化です。映画でもアニメでも、各々が自分の好きなものを好きなときに楽しめる。かつては家族みんなで、お茶の間でテレビを見る団らんの時間がありましたが、今はバラバラに楽しむことが容認される時代です。私たちは事業を通して、家族や友人間など親しい間柄のコミュニケーションの機会を取り戻して、薄れつつあるネットワークを強める働きができないかと考えています。

 そのために今後もっと活用していきたいと考えているのがAI。家族、親戚同士や昔の友人同士でリアルに集まる際の旗振り役をAIに任せられないかなどと、いつも考えを巡らせています。

―― 木村さん自身も、コミュニケーションの在り方の変化を実感することはありますか。

木村 私の家族が今オーストラリアで生活しているんです。物理的距離も時差もあるし、連絡を取りたいときに取り合えないこともある。それなのに、ふと時間ができて「今ならビデオチャットしようと思えばできるな」というとき、「ああ、でも最近配信されたアニメも見たいな」と迷うことがあって。個人消費の誘惑に、コミュニケーションが阻害されていると感じますね。恐らくどこの家庭や友人間でも、同じことが起きていると思います。

 その中で、モンストやみてねのように、人とつながる選択肢がひとつでも多くあれば、そちらが選ばれる可能性も高まるはず。今まで一緒に楽しんだり共感し合ったりしていた機会を再び提供していく事業を、今後もやれればと思います。