「世のポテンシャルを飛躍させる」をミッションに、人や企業が持つ潜在的魅力を発掘し、最大限に生かすことに貢献する未知。下方社長自身が人が好き、という特性を生かしたビジネスだ。同社には、コーポレートコーディネート事業を通じて見据える、実現したい社会像があった。文=浅野 晶(雑誌『経済界』2024年9月号より)
わが社自慢を可視化。新たな出会いを生む戦略
未知の主な事業は、企業の商品・サービスの売りや想いを最適にウェブ上で可視化する「コーポレートコーディネート事業」だ。重点を置いているのは、クライアントへ綿密なヒアリングを行いながら世界観を整理して言語化する点であり、これによって届けたいターゲットにより鮮明に価値を伝えることができる。
「経営者の方々とお会いして、驚きや感動に満ちたお話を聞いても、ホームページにはその20%程度しか発信されておらず、とてももったいないと感じたのです」という同社の下方社長。本を読むよりも人との対話によって相手を知り、学びを得て互いに成長しあうという経験をしてきたという。その上で、打ち解けた時に話される価値をブランディングに生かせば、ビジネスを飛躍させられるはずと考えた。
人や会社の魅力は、自身では気づいていない可能性が高い。自負はあってもアピールされるに至らない、そんな秘められた宝物を引き出して伝えるこの事業から、どんな未来が拓かれるだろうか、その好奇心が「未知」という社名に表現されている。
ポイントは、社長の頭の中を整理することに注力している点だ。一般的な動画やサイト制作会社と異なり、想いを言語化し、最適な見せ方を提案することに重きを置いている。クライアントが本当に欲しいのはツールではなく、自社の価値を存分に表現することによって共感しあえる顧客と出逢い、ビジネスを通じてかけがえのないご縁を紡いでいくことだ。
同社の創業時は、検索エンジンからの流入を目的としたコンテンツマーケティング事業を手掛けていた。現在も、戦略的ウェブマガジンの企画制作は大きな事業の柱である。
「ブランディングでは、自社の情報整理が最も重要です。整理が不十分であれば、どこの会社も似通ったホームページになってしまい、どんな施策を実行しても失敗します。そうすると、圧倒的に宣伝拡散力のある大手企業に負けてしまいます」
同社の付加価値は、独自の世界観を見いだしてブランディング戦略を練ることにある。そのため、通常のウェブ制作と比べて決して安くはない費用にもかかわらず、喜んで依頼されるという。ウェブに特化しているのは、より拡散に適し仮説検証しながらブラッシュアップしやすい媒体だからだ。また、同社の専門性を尖らせることで、ブランディング会社と棲み分ける戦略がある。総合的なブランディングを必要とするクライアントに対しては、紙媒体や空間を得意とする外部企業と連携して対応する。
分かりづらく差別化しづらい。事業こそポテンシャルがある
どんなに目立つサイトを制作しても、人の心を動かす情報がなければ印象に残らず、忘れられてしまう。自社だけの事業への想い、こだわり、導入事例といった唯一無二の情報が伝われば、条件で他社と比較されないビジネスができる。同社に依頼が多いのはIT会社、建設・建築業、介護、部品製造業など。差別化しづらい業種や事業内容が難解な企業こそ、盲目になりがちな強みが客観的に引き出され、とても喜ばれるという。特に、人材採用サイトの施策は効果が顕著だ。1カ月足らずでエントリー数が大幅に増加したり、また応募者の質が格段に上がったりしたケースもあるという。
例えば、ある産業廃棄物処理場の運営会社が「自社には良いところがない」と諦めていたところに「小さなことでも自慢できる点はないか」と持ち掛けた。仮説を立てながら話を深く掘り下げていくと、この仕事が地域住民の日常を支えてきたという使命、安定性、働きやすさ、SDGsなど、いくつもの観点から魅力が出てきた。そんな魅力の数々を従業員自身の言葉でアピールするインタビュー記事を自社採用サイトで打ち出したところ、応募率が6倍に増加したという。
下方社長自身の特性から端を発したこの事業を支えているのは社員の存在だ。同社は人の突出した能力に着目している。例えば飲食接客業を経験している社員は、顧客との距離を瞬時に縮め、話を深く聞く能力に長けており表面上のヒアリングでなく意図や想いまで難なく引き出すことができるという。
同社では、そんな履歴書による選考では漏れてしまうような、一般的な企業で働きづらい経歴や特性を持つ「ポテンシャル人材」と呼ぶ人たちを積極的に採用している。
「今の経済社会では、人時生産性の観点からできる領域の広いゼネラリストが優秀と言われがちです。しかし、周囲から『できない』と言われてきた人でも、能力の高い領域を極めればその道のプロとして活躍することができます。組織全体で見れば、彼らによってむしろサービスの提供品質が上がります」
個々が持つ能力を見出し、生かすことによって、さらに能力を伸ばし広げることができる。コーポレートコーディネート事業にも、ディレクションが得意な人、ヒアリングを得意とする人、文章チェックが得意な人などのポテンシャル人材が活躍している。
人のポテンシャルとは潜在能力であり、本人も自覚していない秘めた才能だと下方社長は言う。盲点領域に価値があるという視点は企業も人も共通している。同社は、見出されていない大きな可能性を信じている人たちの集まりなのだ。彼らは画一的な評価が能力を眠らせていることを、身を持って認識している。
創業から7年が経過したが、下方社長には5千人を超えるような1つの大きな組織を作るのではなく、ポテンシャル人材による50人の会社を100社つくるという構想がある。
「成長意欲はあるが、劣等感に苛まれ本来の力を発揮しきれない人を、業務の中で適性を見いだすことで圧倒的な成果が出せるよう育てたい」
ニッチな領域から世の中に価値貢献できるまでに大成させる、そんなポテンシャル人材が活躍できるフィールドとして、すでに2社の子会社が設立されおり、いずれは日本全体に影響を及ぼすような企業体を目指している。
既存の枠組みにとらわれず、人や企業の知られざる力を引き出し、多様性が花開く世の中を実現していく。日本の次なる成長は彼らが切り拓いていくのかもしれない。