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多様性のある社会の実現に向け 全ての子どもたちに国際交流を 冨田啓輔 HelloWorld

冨田啓輔 HelloWorld代表取締役Co-CEO

「全ての子どもたちに国際交流の機会を提供する」。ピッチ会場で出会った二人の起業家の想いは一つに重なり、多様性のある社会インフラづくりという目標に向けてHelloWorldは動き出した。急成長を続け注目を集める同社。今回は共同代表の冨田啓輔氏にその取り組みを伺った。文=大澤義幸 Photo=川本聖哉(雑誌『経済界』2024年9月号より)【経済界GoldenPitch2023グランプリ受賞】

冨田啓輔 HelloWorld代表取締役Co-CEOのプロフィール

冨田啓輔 HelloWorld代表取締役Co-CEO
冨田啓輔 HelloWorld代表取締役Co-CEO
とみだ・けいすけ 三重県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、2011年企業側の人事労務専門の弁護士に。18年カリフォルニア大学バークレー校の上席客員研究員。弁護士業を辞めて起業し、国際交流アプリをローンチ。コロナ禍に帰国し、20年沖縄でHelloWorldを野中光氏と共同創業。多様性のある社会の実現に挑戦中。

HelloWorldを沖縄の地で共同創業

 「世界に1カ国ずつ友達がいることが当たり前の社会をつくる」。そんなグローバルビジョンを掲げ、独自の英語教育サービスを通じた多様性のある社会の実現を目指すのが、冨田啓輔、野中光の両代表が2020年に創業したHelloWorld(本社・沖縄県沖縄市)だ。

 同社が手掛けるのは、日本に住む外国人宅で留学(ホームステイ)体験ができる「まちなか留学」、外国人とチームを組み英語で探究型フィールドワークを行う「まちなかENGLISH QUEST」、ICTツールを使って世界と日本の教室をつなぎオンライン学習や国際交流を図る「WorldClassroom」の3つ。これら英語教育サービスを通して、延べ8万人以上の子どもたちに国際交流の機会を提供している。

 「われわれがやりたいのは英語教育そのものではなく、その先にある異文化理解と多様性の受容です。今の英語教育を否定はしませんが、子どもが英語を勉強するのは受験などのためという理由が大半です。そうではなく、英語の勉強は友達をつくるため、異文化コミュニケーションを図るためという本質的な楽しさに気づいてもらいたい」

 そう話す冨田氏は元人事労務専門の弁護士。カリフォルニア大学バークレー校の上席客員研究員も務めたが、スタートアップを多数輩出するシリコンバレーの風に吹かれ、起業家に転身。起業後に異文化コミュニケーションを図る国際交流アプリを開発して臨んだピッチコンテスト「StartupGo!Go!」(福岡市)で、同じく登壇者として出会ったのが、「まちなか留学」の原型のビジネスを手掛けていた沖縄生まれの野中氏だった。

 「ピッチ会場で意気投合して一緒にビジネスをやりたいねと話したのが最初。その後、緊急事態宣言が落ち着いた頃に沖縄へ2週間のワーケーションに行き、改めて野中とやりたいビジネスの考え方や方向性が同じだと分かったので、お互いのプロダクトを合体させ、HelloWorldを共同創業しました」

 今度は沖縄の風に吹かれて起業に至ったわけだが、2週間の滞在予定が移住3年目となり、創業から3年がたった。この間、冨田氏は組織開発・構築、ファイナンス、リスクマネジメントに専念し、野中氏は沖縄やアジアを中心に営業で飛び回ってきた。「個別に動いた方が、ソーシャルインパクトが強まるから」という理由で、二人が一緒に行動することはほとんどないのだという。

 その甲斐あって業績は右肩上がりで推移し、23年度3月期の売り上げは前年度比約2倍の2億7800万円となった。この急成長は、沖縄の地の利を生かしたスタートが切れたからだと冨田氏は分析する。

 「沖縄は競合が少ない分、学校や教育委員会との距離が近く、補助金を含め数多くのサポートを頂くことができました。『万国津梁』(「南の島の沖縄は万国の懸け橋となり貿易で栄える」の意)という言葉がありますが、今の勢いをさらに加速させ、28年に売り上げ50億円を目指します。そのために日本全国やアジアを含む海外事業をどこまで積み増せるか。われわれが目指すのは、沖縄発でも日本発でもなく、アジア・グローバルのスタートアップです」

子どもたちが本物に触れる3つの英語教育サービス

HelloWorld

 同社の英語教育サービスは斬新なアイデアと価値創出があり、教育機会の体験格差の解消にもつながるスタートアップらしいものだ。プラットフォームとして展開しているのも特徴で、それぞれの事業に人材のプールが必要なこと、その人材の管理に労力がかかることなどから、他社がまねしづらいビジネス設計となっている。その特徴を見ていく。

 「まちなか留学」は、関東と沖縄に住む外国人のホストファミリー宅で、日本の子どもたちに24時間の国内留学体験の機会を提供するもの。現在60カ国以上の外国人ファミリーがホストとして登録しており、累計利用者数は9千人を超える。

 ここで気になるのが、知らないホストファミリー宅に子どもを預けることの安全性の担保だ。

 「そこは元弁護士として安全性には最大限配慮しています。ホストファミリーの審査では、2人以上の家族構成を条件に、ご自宅に伺って面談し、全ての部屋を見て回り、子どもたちが快適に過ごせる生活環境があるかを確認しています。ホストファミリーの合格率は35%程度で、合格後は研修を実施しています。また留学体験後は子どもたちのアンケートを元に継続審査も行います」

 他にも、食物アレルギーなどの情報共有、緊急対応窓口の設置、留学体験中の傷害・物損等の保険も用意している。「安心・安全な環境があってこそ、インド人のご家庭から帰ってきた子どもの服からスパイスのにおいがしたなど、本来の海外留学に近い体験ができる」と語る。

 「まちなかENGLISH QUEST」は、外国人と5~6人のチームを組み、英語のみで探究型フィールドワークを行うもの。これまでに北海道大学、お台場、ソラマチ、みなとみらい、大阪城、万博記念公園、首里城などで開催してきた。大人数でも楽しめるビジネス設計で、累計1万3千人が利用している。

 「いろいろな難易度のミッションをチームでクリアしていくことで、英語を話せない子どもも話した気になる。これが大事で、子どもたちが小さな成功体験を積み重ね、英語への苦手意識をなくして好きになってもらうことを目的としています」

 よくある留学生が英語で街歩きのガイドをしながらコミュニケーションを図るだけのものではなく、ミッションのクリアという目標を緻密に設定することで、子どもたちの英語で話したいという入り口の興味喚起を促すことに重きを置いている。

 「WorldClassroom」は、世界の教室と日本の教室をICTツールでつなぎ英語学習や国際交流を図るもの。世界40カ国・400校と提携しており、国内の導入数は80校・累計6万5千人に上り、今年度は倍増する見込みだ。

 国際交流授業を通して子どもたちのモチベーションを上げ、音声認識技術を活用したスピーキング練習機能やスコアリング機能を使った自主学習を促す。これにより先生の業務負担の軽減にもつながるという。

 「外国人の先生が話すオンライン授業と違うのは、世界と日本の子ども同士のガチンコのやりとりがあるところ。話が面白ければ盛り上がり、つまらなければ盛り上がりません。皆、最初は英語を話すのは不安です。それが成功体験で終われば楽しいし、失敗体験で終われば悔しいから頑張ろうと思う。同じオンライン授業でも、同世代で話す方が良い経験となり、子どもたちからも音読したいという声が自然と上がります。先生も喜んでいますよ」

 子どもたちに英語にいかに興味を持ってもらうかを追求し、興味の度合いに応じたサービスを提供する。この懐の深さが幅広い子どもたちの利用増につながっているのだ。

まちなか留学基金で「全ての子ども」を対象に

冨田啓輔 HelloWorld
冨田啓輔 HelloWorld

 同社にはもう一つ、「幅広い子どもたち」を「全ての子どもたち」に変える、体験格差を解消する受け皿的な仕組みがある。

 「従来、海外留学ができるのは成績優秀者や裕福な家庭の子どもに限られていました。しかし、例えば生活困窮世帯の子どもでも『まちなか留学』を無償で体験できるよう、あしなが育英会や教育委員会、NPOと連携して設置しているのが、『まちなか留学基金』です」

 基金は当初、沖縄県の地場企業からの支援を受けてスタートした。最近は数々のピッチコンテスト受賞等により同社の知名度が上がり、三菱UFJフィナンシャル・グループなどのメガ金融機関からも大きな支援を得ているほか、沖縄県出身のアーティストAwichとの共同プロジェクトも進行中だ。

 「単に機会提供するだけでは、『海外にも英語にも興味はない』と手を挙げない子どももいます。そうした子どもにも参加してもらい、英語で交流する楽しさを知ってほしい。さらにその周りで見ている子どもたちにも輪を広げたい。実際に留学体験後に、『英語の勉強をもっと頑張って、将来は海外で仕事をしたい』という子どもも出てきています」

 良いサービスを提供して終わりではなく、良いサービスだからこそ利用拡大する仕組みも同時に構築しておく。体験格差の解消を事業の根幹に据える同社にとって、これが当たり前のビジネスの在り方なのだ。

理想の社会の実現に向け貪欲に愚直に走り続ける

 現在は自治体や大学、企業との連携も増やしている。昨年は横浜市や北海道大学、内閣府とも共創プログラムを走らせた。特に力を入れているのがインフラ企業との連携だ。

 「JR東日本や京急電鉄と、電車を利用した『まちなか留学』を実施しました。インフラ企業との連携は、『分断のない持続可能な社会を実現するための社会インフラをつくる』ための土台となるものです。世界では思想や出身地などさまざまなバックグラウンドを持つ人たちが対立し、争いが起きていますが、これを日本の未来の姿としないために、争いの対極にある対話をいかに生み出していくか。われわれの英語教育サービスはそのための装置にすぎません」

 そう話す冨田氏は大きな理想を掲げながらも、リアリストとして売り上げにも徹底してこだわっている。

 教育系スタートアップ、EdTechというと、子どものため、未来のためというビジョンやパーパスのまばゆいイメージが先行し、それが人々の関心や共感を呼ぶきっかけにもなるのだが、その実態はビジネスを持続するだけの売り上げを確保できず、小規模な活動で小さなインパクトしか残せていないケースも多い。

 「国際交流や英語教育の機会提供はやろうと思えば学生でもできますが、じり貧で自走できなければ意味がない。われわれはプロフェッショナルとして、ビジネスとソーシャルインパクトの両立を図ります」

 同社は事業拡大に伴い雇用を増やしており、入社希望者も絶えないという。冨田氏は一緒に働くなら、「全社で共有しているバリュー(「Go Beyond」「All For Impact」「Be Professional」)をしっかりと受け止めた上で、どれだけ汗水たらして働き、泥水をすすれるかが大事」と話す。

 これらは全て、アジア・グローバルのスタートアップになるための動きだが、その先に冨田氏が目指しているのはユニコーンになることだ。

 「険しい道なのは百も承知です。それでも理想の社会の実現に向けて、ユニコーンになる。そのために僕自身が先陣を切って誰よりも速く走り続けます。私利私欲を捨てて、社内外の人々を巻き込みながら、ソーシャルインパクトの最大化に何が必要なのかを見極め、そこに全リソースを投入していきます」

 新しい英語教育サービスを通じて、次世代に継承する社会インフラづくりにつなげる。これを愚直に、貪欲に行うその姿勢こそが、子どもたちが今まさに踏み出そうとしている世界への扉をつくるのだろう。

子どもたちに世界と出会う機会を 野中 光

野中光 HelloWorld
野中 光 HelloWorld代表取締役Co-CEO
のなか・ひかり 琉球大学教育学部在学中にアジア8カ国を「流学」。東京のコンサル会社、宮城の震災復興支援等を経て、沖縄にUターン。起業家育成拠点Lagoon Koza代表を務める。「世界中に1カ国ずつ友達がいることが当たり前の社会をつくる」ことを目指し、HelloWorldを共同創業。

HelloWorldの取り組みは、学校現場などで子どもたちの変化を後押ししています。英語が苦手で交流なんて無理だと思っていた生徒が目を輝かせている姿はいつ見ても感動します。外国人科学者宅で「まちなか留学」を経験し、研究者になる夢を持ち、科学実験を重ねて論文を執筆し、中学2年生で「日本エネルギー学会100周年記念懸賞論文(中・高生部門)」で最優秀賞を受賞した子もいます。これからも子どもたちに世界と出会う機会をつくり続けます。(談)