(雑誌『経済界』2025年5月号「注目企業」特集より)

世界的投資家、ウォーレン・バフェット氏が「日本の総合商社に投資する」と宣言したのは2020年8月のことだった。その発言もあって商社株は大きく伸びた。
中でも大きく伸ばしたのが伊藤忠商事。現在、同社の会長CEOを務める岡藤正広氏が社長に就任したのは10年のことだが、それからの15年間で時価総額は10倍以上に増えており、現在では10兆円を超えている(2月28日現在)。
伊藤忠の特徴は川下ビジネスに強いことだ。「利は川下にあり」。これは岡藤氏がよく使う言葉だが、川下には消費者接点のデータがある。これを活用することで他社より優位に立つことができる。
ただし、川下ビジネスは、一つ一つの取引から得られる利益は極めて小さい。だからこそ、不断の経営努力が必要となる。それを象徴するのが、岡藤氏が発案した「かけふ」の三文字だ。
「かけふ」とは、「稼ぐ」「削る」「防ぐ」の頭文字を並べたもの。無駄な仕事を削り、無駄な損失を防ぎ、稼ぐ力を最大化する。これを岡藤氏は、社長就任直前に商社の決算書を見比べているうちに思い付いたという。当時の伊藤忠は5大商社の中で万年4位。上位を目指すには、「かけふ」を徹底するしかないと考え、ひたすら地道な努力を続けてきた。
その結果が、10倍以上に伸びた時価総額であり、今3月期の過去最高益更新見通しだ。凡事徹底こそが経営の王道であることを、伊藤忠の歴史は教えてくれる。