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東急・都市開発本部長が語る「だからまちづくりは面白い」 髙橋俊之 東急

髙橋俊之 東急

2019年、鉄道事業を分社化し、「東急電鉄」から商号を変更した東急。単なる電鉄会社から「まちづくりの会社」へ生まれ変わった。そんな東急の本拠地・渋谷の大規模再開発と、まちづくりの面白みについて、都市開発本部長の髙橋俊之氏に聞いた。聞き手=小林千華 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2024年9月号巻頭特集「東京 終わりなき進化」より)

髙橋俊之 東急
髙橋俊之 東急専務都市開発本部長

ハードとソフトの両面からまちづくりを見てきた

―― 「都市開発本部長」との肩書きをお持ちです。入社以来どのような事業に携わってこられたのですか。

髙橋 長年取り組んできたのは、再開発というより、沿線地域の土地区画整理事業です。建物の建つ地べたを整備する仕事ですから、まちづくりのベースとなる段階ですね。1982年に入社し、66年から順次開通を始めていた田園都市線の沿線地域、多摩田園都市の土地区画整理に携わってきたことが、私のキャリアのベースにもなっています。

 その後、国際事業などに携わった後、一度東急本社を離れ、2014年に東急ファシリティサービス(現・東急プロパティマネジメント)社長に就任しました。ここは都市開発というより、既にできあがったビルやマンションの運営・管理が仕事。これも、とてもためになりました。

 私は大学の土木工学科を出て東急に入り、作業服を着て建設現場に出て、建物をどう作るか、その基盤をどう整備するかを中心に考えてきました。建物を完成させた後、街の中でどう持続させていくかについては、意識が少しうすかった。でも、ビル管理を通して人々の過ごしやすさを追求することは、そのビルがある街の過ごしやすさにもつながると分かりました。これもまちづくりの一環だし、自分がそれまでやってきた仕事と等しく重要なものだと感じました。入社から約40年のキャリアの中で3年間の短い期間ですが、それまでとは違う方向からまちづくりを見つめられた貴重な経験です。

―― 東急に戻り、渋谷という地域に関わり始めたのはいつからでしょうか。

髙橋 17年からなので、まだ7年程度です。東急の社員としてまちづくりに取り組むだけでなく、一般社団法人渋谷再開発協会でも理事長を務めています。これは東急のほか、渋谷区や商店会、町会、その他さまざまな形で渋谷に関わる民間企業などで構成される協会です。1964年の東京オリンピックに合わせ、NHK放送センターが渋谷にできたことをきっかけに、地元関係者みんなでベクトルを合わせて渋谷のまちづくりに取り組もうという気運が高まり、この協会が設立されました。

渋谷周辺地図
渋谷周辺地図

 東急もこの時期から、本格的に渋谷のまちづくりに着手しています。そこから10年ごとくらいに、渋谷のまちづくりについてさまざまな提言をしてきましたが、2000年頃から、東急東横線と東京メトロ副都心線の相互直通運転の検討が加速化し、同時に駅を中心とした大規模な再開発計画も動き出しました。

―― 渋谷周辺の地形は、駅を中心としたすり鉢状になっています。開発のやり方も平地とは異なるのではありませんか。

髙橋 そうです。まず、谷ゆえに人の回遊が難しく、NHK放送センターのある代々木方面、表参道方面、桜丘方面など、同じ駅の周辺でもエリアによって特色が全く異なるのが渋谷。ですから、人々にエリアどうしをどう行き来してもらうかが重要な課題でした。駅から直結で周囲の建物に行ける歩行者デッキを整備したり、縦の移動をなるべくしやすくする仕掛けを作ったりと、回遊性の向上に注力しています。

 また、平地と同じようにただ高層ビルを乱立させていくのではなく、谷底に最も高いビルを建て、その周辺にかけてなだらかにスカイラインを描くような設計をイメージしています。この中心の役目を担うのが、渋谷駅の直上にそびえ立つ「渋谷スクランブルスクエア」です。東棟、中央棟、西棟とあり、230メートルの高さを誇る東棟が19年に竣工しました。現在渋谷の開発には他のデベロッパーさんも着手されていますが、標高、建物の高さを合わせても渋谷スクランブルスクエアが最も高くなるという街のグランドデザインを、皆さん守ってくださっています。

―― 渋谷のまちづくりについて、デベロッパーどうしでも合意があるということでしょうか。

髙橋 先ほどもお話しした、渋谷再開発協会がそのための場の一つです。ここには東急以外にも渋谷でまちづくりを行うデベロッパーが複数参画していて、渋谷に関わるさまざまな人や企業が合意の上でプロジェクトを進めていくための機関になっています。他の街はどうしても、デベロッパー1社の色に染まってしまうケースが少なくないと思いますが、渋谷では街全体のコンセプトをみんなでがっちり固めて、個人も商店もデベロッパーも、その中で最大のパフォーマンスを発揮しましょうね、という形をとっているんです。参画するデベロッパー側にとっても、普通なら自分たちで一から掘り起こさなければならない地域の人々の声を、協会に入ることでダイレクトに聞けるメリットもありますしね。

 この進め方をしているのは、東急のやり方というより、渋谷という街がもともと持つ空気感のためでもある。「来るもの拒まず」というオープンな街じゃないですか。さまざまな属性の人がさまざまな過ごし方をしている。渋谷再開発協会の構成員にもいろいろな立場の方がいて、考え方も本当に人それぞれです。そこで得た発想を持ち帰って自分たちのビジネスに生かせることは、やっぱり面白いですよ。

東急のまちづくりについて社内外に発信していく

―― 今年7月には、駅東口側で「渋谷アクシュ」が開業しました。今後も渋谷の再開発は進んでいきますし、既に完成した建物の管理も続けていかなければなりません。

髙橋 もちろんです。でも同時にわれわれが今やらなければならないことは、「発信」だと思っています。私は長年街の開発に携わっているから、街のコンセプトも理解していますし、それぞれの細かい仕掛けがどうつながってどのような効果をもたらすか熟知しています。でもそれをもう少し自分たちで発信して、渋谷を訪れる皆さんに理解していただければ、より面白い街になると思うんですね。

渋谷の中心に、ひときわ高い渋谷スクランブルスクエア東棟が
渋谷の中心に、ひときわ高い渋谷スクランブルスクエア東棟が

―― 渋谷は海外からの注目度も高い街ですし、既にメディアなどで取り上げられる頻度も高いのではないでしょうか。

髙橋 それは確かにそうです。でもその結果、街のイメージが先行してしまって、どの部分に街のもともとの魅力が残っているのか、逆にどの部分に新しい仕掛けがあるのか、意外と知られていないのではないでしょうか。パーツごとの表面的な魅力だけでなく、そのパーツが街の中でどのような役割を果たすのかを知ってほしい。これは自分たちでもっと発信しなければならないと思います。

 これは社外だけではなく、社内にもです。最近「まちづくりがやりたい」と言って入社してきてくれる若い社員が増えました。でも、「まちづくりって何?」と逆に聞きたくなることがあります。私がかつて携わってきた土地区画整理のように、山を切り開いて道路を敷いて住宅を建てることも、渋谷のように大きなビルを建てて、莫大なコストをかけて再開発を行うことも、また、完成した街を持続させていくさまざまな営みも全部まちづくりです。それらを全て、なんとなくかっこいいイメージで「まちづくり」とまとめられてしまっていますが、一方で、自分のやってきたような泥臭い一連の仕事もまちづくりには重要です。

 私も自分のキャリアを通して、これらの仕事ひとつひとつがまちづくりそのものなんだと学んできましたが、今度は自分たちがそれを若い世代に伝えていく番だと思います。