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イシバノミクスで日本経済はどうなる 平 将明

平将明 デジタル大臣

安倍晋三氏のアベノミクス、岸田文雄氏の新しい資本主義。中身の具体性や実行性は別にして、分かりやすい言葉で経済政策を表現する総理を、市場は歓迎してきた。しかし、石破新総理の経済政策は、いまいち全体像や独自色が見えてこない。イシバノミクスはあるのか。(雑誌『経済界』2024年12月号より)

平 将明 デジタル大臣のプロフィール

平将明 デジタル大臣
平 将明 デジタル大臣
たいら・まさあき 衆議院議員(6期)。現在、デジタル大臣、サイバー安全保障担当大臣、行政改革担当大臣、国家公務員制度担当大臣、内閣府特命担当大臣(規制改革)。早稲田実業中高・早大法学部卒業、大田青果市場仲卸三代目、元東京青年会議所理事長。

経済政策は岸田政権を踏襲

 過去の石破茂氏は、アベノミクスに反対姿勢を示し、財政再建や金融引き締めを重視してきた。ところが、先の総裁選では、「経済あっての財政」「デフレ脱却最優先の経済・財政運営」など、経済成長に重きを置くような発言が目立った。これらは岸田政権の経済政策と同じスタンスだ。恐らく総裁選で後押しを取り付けるために、岸田前首相と何らかの約束があったと想像される。石破氏は首相になってからも、「岸田政権の経済政策を踏襲する」ことを強調し、内閣発足後、「新しい資本主義」や「資産運用立国」など、岸田政権時代の看板政策の継続を強調している。

 対して、石破総理の特徴が色濃く出たのが地方創生だ。石破総理は第二次安倍内閣で地方創生担当大臣を務めた。所信表明演説でもそうした経験への言及があった。石破氏は、企業の地方進出や生産拠点の国内回帰により、雇用と所得の機会を創出すると、総理就任後に語っている。所信表明演説でも、地方創生を「地方創生2・0として再起動させる」と力強く表明。具体的には、「地方こそ成長の主役」と位置づけ、地方創生交付金の当初予算ベースでの倍増を目指すと明らかにしている。

 また、2021年に岸田政権が発表した、「デジタル実装を通じて地方が抱える課題を解決し、誰一人取り残されずすべての人がデジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしを実現する」、デジタル田園都市国家構想を発展させるべく、新たに「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設する。

 まだまだ具体的な政策に落とし込まれてはいないが、石破総理の経済政策は岸田政権時代を踏襲しながら、地方に力を入れていく形となりそうだ。経済政策含めて、石破政権が打ち出す具体的な施策は、衆議院選挙後に明らかになってくるであろう。 地方創生に関して、10年前に石破総理が地方創生担当大臣を務めた時、副大臣として共に汗を流した平将明・デジタル大臣に、石破政権の方向性と、デジタル大臣としての意気込みを聞いた。

地方創生2・0をテクノロジーで支える

―― 平さんはかつて石破総理の派閥、水月会に所属しており、今回の総裁選でも石破さんを支えました。

平 石破さんとの最初の本格的な接点は、2009年に自民党が野党に転落した時です。当時の谷垣総裁のもとで、石破さんが政調会長になった。その時点で、私は石破さんとそれほど付き合いがなかったのですが、いきなり経済産業部会長に抜擢されました。その後は、石破さんが14年に第2次安倍改造内閣で地方創生担当大臣に任命された際に、私が副大臣を務めました。ちなみに、その時は政務官に小泉進次郎さんがいて、大臣補佐官は、今回、衆議院予算委員長に選出された伊藤達也さんでした。懐かしいですね。

 石破さんは不器用な人だと思います。そして、人見知り。傍から見ると、なんというか、付き合いづらそうだと思われがちなのかもしれませんが、私も人見知りなので気持ちは分かります。過去の関係性も含めて、デジタル大臣としてしっかり内閣を支えなくてはと思っています。

―― 石破政権は発足直後から経済面の政策が見えにくいと言われています。その中でデジタル関連の政策が果たす役割をどう考えていますか。

平 やはり石破さんは地方創生にものすごく思い入れがあります。10年前に大臣、副大臣として地方創生に取り組んだ時も、打ち出したい施策は無数にありました。ただ、技術的な課題もあって、なかなか現実的ではないアイデアもありました。それが今、テクノロジーの進歩によって実現可能になっています。

 例えば、石破さんはよく「地方創生をするには地元の人たちだけで話し合っていてはいけない。よそ者、若者、ばか者を入れてアイデアを出すべきだ」と言っていました。ただ、そうは言っても奥まった地方に人が集まるのは難しかった。ところが、ブロックチェーンやNFTといった技術が進歩して、それらを活用して地方創生に取り組む自治体が現れ始めています。

―― 特徴的な事例はありますか。

平 新潟県長岡市の山古志(旧山古志村)は、錦鯉の発祥の地として有名です。その錦鯉をシンボルにしたNFTアート「Colored Carp」を発行し、それを電子住民票のように扱うことで、購入者は「デジタル村民」になれるという仕組みがあります。リアルの人口は約800人ですが、デジタル村民は倍の1600人を超えました。そして、デジタル村民たちはオンラインコミュニティを通じて山古志をどうやって活性化させるのか議論を交わしています。

 これは一例ですが、とにかく石破総理が取り組む「地方創生2・0」をテクノロジーで支え、本当に地方が元気になったよねと、国民が実感できる地方創生を成し遂げることが、石破内閣での私の使命です。

コストカット文脈だけでなく売り上げを伸ばすDX活用を

―― デジタル分野の遅れは日本の産業界全体の課題でもあります。

平 労務管理や会計などのソフトを導入したり、生産部門を自動化させたりするなど、コストカット文脈でのDXはそれなりに浸透してきたのが現状だと思っています。ただ、目指すはコストカット型経済からの脱却。損益計算書に落とし込んで考えれば、売り上げに相当する部分のDXはまだまだ伸びしろが大きい。

 売り上げを単純に分解すれば、数量×単価です。数量については、中小企業でも扱っている商材の質が高ければAmazonや楽天などのプラットフォーマーを活用することで販路は世界に開けますし、個人の飲食店でもInstagramでバズれば世界からお客さんがやってくる。単価についても、NFTを活用するなどして引き上げる余地はあります。例えば、ニセコのスキー場でリフトに優先的に乗れるチケットをNFTにして5千円で売り出したところ、最高で9万円の値段がついた事例がありました。しかも単なる転売と違って、NFTの場合は取引履歴が記録され元の発行者にも利益が還元できます。

―― デジタルの活用はコストカット文脈だけではないわけですね。

平 そうです。もちろん経費を削減するのも大切です。ただ、数量や価格が何倍にも膨れ上がる方が経営へのインパクトは大きい。日本は食や観光などアナログな体験価値に強みを持っているのが特徴だと思いますので、そこをデジタルで最大化させていく。ぜひ、何となくデジタルを毛嫌いしている経営者の皆さんも、活用してみてほしいと思います。