1961年に全国で4番目の総合経済団体として立ち上げられた九州経済連合会。設立60周年の2021年4月に策定した「九州将来ビジョン2030~共生・共感・共創アイランド九州」実現のために掲げた中期計画は24年度から第2期に突入。就任から3年を迎えた倉富会長に九州経済の今とこれからについて聞いた。
地域交通をリ・デザインする九州MaaSが本格稼働
── 24年度は「九州将来ビジョン2030」実現に向けた第2期中期計画の初年度でした。振り返ってみていかがですか。
倉富 アクションプランの達成率を見れば順調に推移しています。重点戦略の一つは「成長産業を九州に」というビジョンでしたが、特に半導体が目覚ましく、シリコンアイランドとして一気に力が加速しました。熊本のJASM・TSMCが中心となり九州各県に経済的な恩恵をもたらしてくれることは間違いありません。われわれが掲げる「九州はひとつ」という基本理念と将来ビジョンの「共生・共感・共創アイランド」実現に向けて、まさに追い風が吹いています。
── 九州MaaSの現状はいかがでしょうか。
倉富 検討開始から2年を経て、24年8月にサービスの提供を開始しました。九州MaaSは、今後さらに利用者を増やして回遊性を高めることを狙いとしています。地域の足の確保につながるデータとフィジカルの連携構築は、各県にとってもプラスになるはずです。
プロジェクト初年度は100事業者が参加しています。鉄道、バスをはじめタクシー、船舶、航空など、九州各地の事業者に参画いただいています。それだけの事業者が、九州を回遊してもらうためのビジネスモデル構築に賛同し、交通連携を果たしたのは素晴らしいことです。
九州MaaSのアプリ稼働についてはスモールスタートとなりましたが、11月からJR九州の在来線・特急列車・九州新幹線・西九州新幹線と九州・下関・長門の高速バス・路線バスおよび一部船舶が利用できる「ALL KYUSHU PASS」を発売しました。広大なエリアで交通事業者が連携し、かつソフトも整備されるのは全国初です。九州全土をシームレスに移動できると国交省からも注目されています。
── 国際自転車ロードレース大会「ツール・ド・九州」はインバウンド誘致の狙いもありますか。
倉富 そうですね。欧米の方に認知していただき、かつ九州の素晴らしい自然やおもてなしに触れていただくことを一つの目的としています。第3回目となる25年はこれまでの福岡、大分、熊本に加え、長崎・宮崎の5県に広げます。九州7県で実現するのもそう遠い未来ではありません。
欧米の方に「ツール・ド・九州」を認知してもらうことで、これまで東京から京都に集中していた訪日エリアをさらに西に延伸するきっかけになります。「ツール・ド・九州」で西のゴールデンルートを作り、九州を周遊してもらう手段として九州MaaSを活用していただく。良いプランではないでしょうか。
── 現在の九州経済が直面する課題は。
倉富 半導体産業を支える電力確保とさらなるインフラ整備です。今後、飛躍的に進むであろうデータセンター開設や半導体を扱うAI事業の開発にもエネルギーは必要です。
それらを下支えする労働者も欠かせません。半導体の人材については、九州半導体人材育成等コンソーシアムを中心とした各県の連携が進んでいます。また九州大と熊本大の連携、北海道大・東北大・九州大・熊本大はそれぞれ台湾の陽明交通大学などと連携しています。実業界の連携では、九経連がそのプラットフォーム的な役割を果たし、情報をつなげて無駄のない人材育成を本格的に稼働させるところです。
農業の後継者育成も課題です。遊休地が多く農業が大きくなりません。企業としての経営もなかなかうまくいかない。ただ食料安全保障上、農業の重要性は高いので、解決するべき大きな課題と認識し、九経連で動いています。
新生シリコンアイランド九州。実現の勢いが増す1年に
── 25年の九州経済の展望と意気込みを聞かせてください。
倉富 いよいよ九州の真価を発揮するステップに入りました。一つはTSMCの第1工場の本格稼働が始まること。それから第2工場が着工します。半導体の基幹部分です。加えて半導体の材料、製造装置などに各所から投資も本格化する1年になる。半導体の需要を契機に、設備投資が右肩上がりの高水準で続くのは九州経済に大きなインパクトを与えるでしょう。
九経連でもスタッフたちの情熱が高まっています。日本中、そして世界への架け橋としての役割も大きくなります。将来ビジョン実現のために走り続けます。