会員企業の取引適正化を最重要課題に挙げる福岡商工会議所の谷川浩道会頭。実態把握のためのヒアリングにも力を入れ、「中央と地方では価格転嫁の浸透に差がある」と指摘する。一方、福岡・博多の歴史的・文化的魅力を再発見する活動にも余念がない。
TSMC効果が波及。インバウンド需要も回復
── 福岡県ならびに会員企業の景況感についてどう受け止めていますか。
谷川 半導体受託生産の世界大手であるTSMCの熊本進出を契機に半導体関連企業の積極的な投資の動きが福岡にも波及しています。
また、円安を追い風に訪日外国人観光客数がコロナ禍前の水準を上回るペースで回復するなど、インバウンド需要のさらなる増加にも期待が高まっています。国内需要も併せて取り込めるといいですね。
一方、当会議所会員企業を対象に2024年6月に実施した経営動向調査では、自社業況指数が2期連続で悪化し、4期ぶりのマイナス値になりました。経営上の課題として、コスト増や価格転嫁の難しさを挙げる企業が多くありました。そういったことからも、「取引適正化」が中小企業にとって最も重要な経営課題になっていると言えます。
価格転嫁は中央と地方で差。人事評価までチェックを
── 24年度から3カ年の中期方針においても、取引適正化の推進はメインテーマの一つですね。
谷川 中期方針では、1つ目に取引適正化の推進、2つ目に新たなステージに挑戦する中小企業を後押しする、3つ目に福博のまちの魅力を高める、を活動方針に掲げています。1つ目と2つ目はお互いに連関します。中小企業の新たな挑戦には生産性向上のためのデジタル化などが不可欠ですが、その基礎となるのが取引適正化です。
原材料費や人件費が上がる中、中小企業はコストに見合った価格を付けること、同時に消費者は良いものにはそれなりの値が付くということを思い出すことが必要です。これを商慣行として定着させれば、中小企業が適正な価格転嫁によって本来得るべき利益を確保することができ、賃上げや自己変革のための投資の原資にもなるのです。
── 谷川会頭は企業の価格転嫁について「中央と地方で浸透に差がある」と強く指摘されていますがその真意は。
谷川 中央において、価格転嫁が進んだという論調もありますが、それは、大企業や経団連に加盟するような比較的規模の大きい中堅・中小企業が集積している東京の話です。地方においては「緒に就いたばかり」が実態です。実際に当会議所の23年12月の調査では、価格転嫁率は半分程度にとどまっています。
中小企業の従業者の割合は、全国で約7割と言われますが、東京は4割程度です。東京を除いた全国の割合を見ると、約8割まで上昇します。大企業が多い東京を含めた三大都市圏と地方とでは、働く人たちや取引の様相が異なるので、地方の実態もきちんと把握すべきです。
また、企業が自発的に価格転嫁に取り組める環境整備も重要です。公正取引委員会や中小企業庁のGメンが増員されていますが、各企業の人事評価態勢まで踏み込んだチェックが有効だと思います。私は日本商工会議所副会頭も務めているので、これらの点を引き続き関係各所に訴えていきます。
── 福岡商工会議所では、会員企業の価格転嫁の実態把握に、特に力を入れたとか。
谷川 24年1~4月にかけて、当会議所の議員企業約120社全てを職員が直接訪問し、ヒアリングを重ねてきました。BtoC企業では転嫁に踏み切れない企業が多く、BtoB企業も取引先企業との関係性で十分に転嫁できていないことが分かりました。そのような中でも、取引先との共存共栄を目指す「パートナーシップ構築宣言」の登録についても説明して回り、取引適正化の必要性や重要性にご理解とご協力をいただいています。
福岡城天守の復元的整備で議論。市民から意見を収集
── 「福博のまちの魅力を高める」活動にも積極的に取り組まれていますね。
谷川 福岡・博多のまちは、古代から2千年間にわたって大陸との交流窓口として栄え、歴史的・文化的な資産が豊富にあります。ただ、それらが市民の間であまり知られていないのです。
当会議所は22年から「福岡・博多の歴史・文化を活かしたまちづくり」に取り組み、23年には有識者らと共に「15の提言」も発表しました。その中の一つに、福岡城天守の復元的整備の検討があります。24年秋には市民に意見を求めるアンケートを実施しますので、その内容を踏まえて、福岡城址の今後の整備のあり方・活用法について、さらに議論を深めていきたいですね。