国内のインバウンド回復は北海道にも好影響を及ぼしている。道では従来の食や観光産業に加え、新たにGX・DXの集積を目指し、投資や人材確保、企業誘致など国の動きに合わせたさまざまな施策に取り組んでいる。道の未来に向け、鈴木直道知事が語る。(雑誌『経済界』2025年4月号地方特集「たぎりたつ北海道」より)
北海道知事 鈴木直道のプロフィール

すずき・なおみち──1981年埼玉県生まれ。99年東京都庁入庁(2010年退庁)。08年夕張市へ派遣。10年内閣府地域主権戦略室へ出向、夕張市行政参与。夕張市長(2期)を経て、19年4月北海道知事就任。
食や観光産業に加えGX・DX産業の集積地へ
世界的な異常気象や大規模災害などを背景に、気候変動対策として脱炭素化の動きが広がり、わが国でもグリーン・トランスフォーメーション(GX)実現に向けた対応が強化されようとしています。
また、AIの普及により消費電力の増加が見込まれる中、電力消費量を大幅に削減できる次世代半導体は、省エネ、脱炭素のキーテクノロジーとして注目されています。
さらに不安定な国際情勢も相まって、今、エネルギーの安定供給とともに食料の安定供給に対する関心も急速に高まっています。
北海道は国内随一の再生可能エネルギーのポテンシャルを有しており、次世代半導体の製造拠点整備が進み、食料供給地域として日本の食を支えています。北海道の発展は日本、そして世界にも貢献するものと考えています。
2024年に日本を訪れたインバウンドが過去最多となる中、道内を発着する国際線もコロナ禍前を上回り、来道される方も回復しつつあります。これまで強みとしてきた食や観光に加え、GX・DX産業の集積を目指し、人を呼び込み、投資を呼び込んで、北海道の創生を進めてまいります。
ラピダス社の次世代半導体の製造拠点では、昨年末に国内初となるEUV露光装置が搬入されるなど、今春の試作ラインの本格稼働に向け、プロジェクトが着実に前進しています。
昨年末に国が示した総合経済対策には、30年度までに10兆円以上の公的支援を行う「AI・半導体産業基盤強化フレーム」が盛り込まれ、次世代半導体の量産等に必要な法案も国会において審議される予定です。27年の量産開始に向けて、道としてもインフラ整備や人材育成・確保、受入環境整備など必要な支援を実施してまいります。
昨年8月には、道内の産業界や学術界を代表する方々と一緒に、私も米国ニューヨーク州を訪問し、半導体エコシステム先進地との連携協力関係を構築しました。内外の知見を生かし、半導体の製造、研究、人材育成等が一体となった複合拠点の実現に向けて取り組むとともに、この次世代半導体をトリガーとして、AIデータセンターの誘致などデジタルインフラの面的整備を進めています。世界最先端・最高水準の半導体を北海道から世界へ届けるというプロジェクトを通じて、わが国のデジタル化や経済安全保障に貢献してまいります。
昨年6月、北海道・札幌「GX金融・資産運用特区」が国に認められました。東京、大阪、福岡も同時に認められましたが、北海道は、GX投資の集積拠点にしようという他にない特色を持たせています。また、昨年末に国が公表した「GX2040ビジョン(案)」においては、グリーンエネルギーの豊富な地域へ産業集積を進める方針が示されました。再エネが豊かな地域は、まさに北海道であり、大きな意義があると捉えています。
道内では、風力発電に適した地域、太陽光発電に適した地域、地熱が豊富な地域など、各地に多様なエネルギーが賦存しており、全道域でGX産業集積を目指しています。特区による規制緩和のほか、今年4月より開始する道税優遇措置、さらに企業立地補助金も活用しながら、再エネ供給拠点かつ利活用拠点として、わが国におけるGX実現を牽引してまいります。
食の北海道ブランド確立と「観光立国北海道」の実現へ
昨年、「食料・農業・農村基本法」が改正され、食料安全保障の確保が法の基本理念に位置付けられました。食料供給地域として本道に求められる役割は、ますます高まっていくと考えています。
21年の北海道の食料自給率223%から、30年には268%にすることを目指し、農地の大区画化やスマート農業の推進など生産力を強化するとともに、輸入依存度の高い麦・大豆の増産や自給飼料生産基盤の構築など、食料安全保障において役割を果たしてまいります。
道産食品の輸出については、23年にこれまでの目標を上回る1511億円となる見込みであり、今般、新たな目標水準を1650億円として検討を進めているところです。私もシンガポールやニューヨークでPRを行い、北海道の食に対する高い評価を実感しました。北海道のアンテナショップ「どさんこプラザ」の海外店を拠点としたプロモーションなどの取り組みを展開するとともに、関係者と一丸となって、道産食品の輸出先国・地域の多角化や輸出品目の拡大に取り組みます。
23年9月に、アジア初のアドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)が北海道で開催されたことが、本道におけるAT推進の大きな転機となりました。海外の参加者から高い評価を得ましたが、さらなる高付加価値化に向け、コンテンツの磨き上げやアウトドアガイドの育成など、関係者が一丸となって取り組んでいます。
本道経済の持続的な発展を図るためには、交流人口の増加によるにぎわいの創出や、地域における消費の拡大といった観光振興と地域経済活性化の好循環を生み出すことが重要と考えております。
こうした考えを元に、昨年12月に北海道宿泊税条例を制定し、早ければ26年4月の導入開始を目指して準備を進めています。宿泊税による安定的な財源の下、「観光の高付加価値化」、「観光サービス・観光インフラの充実・強化」、「危機対応力の強化」の3つの政策目的に整合する施策を展開し、他の地域に後れを取ることなく、「観光立国北海道」の実現を目指してまいります。
本年は道庁赤れんが庁舎のリニューアルオープン、知床世界自然遺産の登録20周年、北海道で57年ぶりの全国菓子博など、さまざまな節目の年であり、多くの皆さまに北海道にお越しいただきたいと思います。
足元では、原材料やエネルギー価格の高騰をはじめ、物価高の長期化により、道民の皆さまの生活や事業者の方々の経営環境に大きな影響を及ぼしており、道としても、「物価高緊急経済対策」を速やかに実施し、物価高の影響が緩和されるよう努めてまいります。
今年は道民の暮らしを守り、事業者の経済活動を支えながら、本道の強みやポテンシャルを最大限に生かして、北海道の飛躍に向けた大きな一歩を踏み出す年にしたいと考えています。