ゲストは、化粧品ブランド「マナラ」を展開するランクアップ代表の岩崎裕美子さん。2,500万本(2024年7月末時点)を売り上げる「ホットクレンジングゲル」の生みの親です。たった一人の悩みの解決のために、自らもワーママとして信念の経営を続けてきた岩崎さんと、「子育てと仕事」をテーマに語り合いました。聞き手&似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=梅田信幸(雑誌『経済界』2025年3月号より)
岩崎裕美子 ランクアップ代表取締役のプロフィール

いわさき・ゆみこ 前職の広告代理店では取締役営業本部長として活躍。15年間勤務した後、2005年に独立し、ランクアップ設立。女性の肌の悩みを解決する「マナラ」ブランドの「ホットクレンジングゲル」は大ヒット商品に。
悩みに真剣に向き合い、本当にいい製品だけを開発
佐藤 ランクアップは創業20周年を迎えますね。私もマナラの「ホットクレンジングゲル」を長年愛用していて、地方出張にも携帯しています。岩崎さんが起業したのは、前職の広告代理店で昼夜働き続け、ボロボロになった肌と将来を考えて、というのが動機でしたよね。
岩崎 長年のご愛用ありがとうございます。おっしゃる通り、私は以前ブラック企業に勤めていて、休む間もなく働いていました。しかし、いくら仕事が好きでも結婚して出産したら閑職に追いやられてクビになるという恐怖がありました。30代になり、未婚のまま働き続けるか、違う仕事を探すかを考え、せっかくなら起業してみよう、自分の肌をきれいにする無添加で肌に優しい化粧品をつくってみようと考えたんです。
佐藤 女性にとって結婚や出産は人生の転機になりますしね。
岩崎 はい。私も当初は女性の人生や活躍を応援する存在になろうと考えていましたが、会社を経営してみると、悩みを解決したい対象は母親や子ども、ペットなど、女性に限らず「自分が大切にしたい存在」であると気付きました。そこで掲げたのが、「たった一人の悩みを解決することで、世界中の人たちの幸せに貢献する。」という企業理念です。
佐藤 だから男性用化粧品や日用品も取り扱っているんですね。
岩崎 そうです。いろいろな悩みの解決のために、社員からの企画提案で多くの商品が生まれています。例えば、「着圧タイツ」は足の太さを気にする副社長から、「ニキビを防ぐクレンジング」も肌荒れに悩む別の社員から、子ども用「除毛クリーム」もお子さんが毛深いといじめられないようにとの配慮から、「ハンドクリーム」も肌の弱いお姉さんのため、など。当初は「化粧品会社なのに、そんな製品までつくるのか」という声もありましたが、どれもたった一人の悩みに向き合ってできた製品です。この積み重ねで、今期は過去最高売上高の137億円を達成しました。
佐藤 異業種からの創業で、売り上げが右肩上がりなのはさすがです。
岩崎 ありがとうございます。でも実は、弊社では売り上げ目標は立てていません。数字ありきでは、社員が本当に欲しいもの、納得できるものをつくれないからです。100億円を突破した時もそうでした。他社は売るためにつくるので、原価率を下げて利益を出しますが、弊社では理想があるかを重視し、今何が欲しいのか、誰が困っているのかを考えます。だから化粧品以外の製品もできるし、いい成分を惜しみなく使うのでいい製品ができます。効果を確かめてから原価を圧縮するので、原価率が下がらず、最終的に製品化されないものもあります。
佐藤 「ホットクレンジングゲル」もいい製品なのにリーズナブルで、企業努力を感じますね。
充実の子育て制度を仕組み化。悩み解決カンパニーを目指す

佐藤 現代は男女ともに子育てをしながら働くのが当たり前の世の中ですが、「ワーママ」(ワーキングマザー)という言葉は、岩崎さんが流行らせたのではないかと思っています。今は企業も子育て中の社員が働きやすい職場づくりに努めていますが、その点でも御社は先進的です。
岩崎 弊社で出産や子育てをしながら働いた第一号が私だったんです。41歳で子どもを産み、それから社内で出産ラッシュが起こりました。そこで生じる子育て中の悩みを解決するため、5~22時に自由に勤務できる「スーパーフレックス制度」、子どもが病気になった時に1日約2万円のシッター料金を会社が負担する「病児シッター制度」、夏休みなどに子連れで出勤できる「子連れ出勤制度」などを導入してきました。これらは「7つの子育てランクアップ術」としてまとめています。
佐藤 御社の取り組みの集大成ですね。こうした仕組みがあると、社員も安心して仕事に打ち込めます。
岩崎 社員が第一子を産んだ時でも育てやすい環境だと思いますし、転職者はその効果をより強く感じてもらえます。おかげで復職率100%なんですよ。大きな人材投資ですが、女性に責任ある仕事を任せて、キャリアの断絶なく長く働いてもらうためにも必要です。
佐藤 今は誰かが辞めたら、代わりを探せばいい、すぐに探せるという時代ではないですからね。
岩崎 中小企業ならなおさらです。独身時代から働いている社員は皆エースなので退職はリスクです。現在は社員約100人のうち男性が2割を占めますが、そうした男性も含め、他の社員宅で子育てを疑似体験する「育業体験制度」もあります。これはチームで仕事をする時に、ワーママの生活を想像し、思いやりの気持ちを持てるようにするためです。
佐藤 最近の新しい取り組みは。
岩崎 24年4月に教育事業を始め、小学生低学年を対象としたスクール型民間学童「Craver Kids(クレイバーキッズ)」を東京・外苑前に開校しました。詰め込み型ではなく、好奇心を持ち楽しく学ぶ場の提供です。これも塾講師経験者の社員の発案です。今後は「悩み解決カンパニーになる」というビジョンに向かって突き進んでいきます。
佐藤 仕事も、家族や子どもとの時間も大切です。子育てをしながら働く人たちの環境を整え、悩みを解決し応援する御社は素晴らしい。今後の展開を楽しみにしています。
