2024年4月に津山氏が新頭取に就任した北洋銀行。盛り上がりの兆しを見せる北海道経済において、地場銀行である同行の果たす役割は大きい。未来に向けた組織改革や、さらに力を入れるスタートアップ支援など、さまざまな取り組みの背景を聞いた。(雑誌『経済界』2025年4月号地方特集「たぎりたつ北海道」より)
北洋銀行頭取兼CEO兼CHRO 津山博恒のプロフィール

つやま・ひろのぶ──1968年北海道生まれ。91年横浜市立大学卒業後、北海道拓殖銀行入行。98年北洋銀行に入行し、経営企画部長、本店営業部副本店長、常務執行役員帯広中央支店長兼帯広西支店長兼帯広南支店長、常務取締役等を経て、2024年4月より現職。
自律的に考える風土を目指し職員の力で行内を改革
── 北洋銀行の頭取にご就任されてから、これまでにどんな改革をされてきましたか。
津山 私が就任時に掲げたのは「五方よし」です。三方よしから一歩進んで、「お客さま、地域、株主、職員、銀行」の五方が良くなるようにという考え方です。この基盤となるのは「職員」だと思っています。サービス業である銀行の最大の差別化要素は職員の質だからです。
そのためには組織体制や教育の仕組みの抜本的な変革が必要です。それはトップにしかできないことですので、就任後最優先で取り掛かりました。まずは新人研修のプログラムを変更しました。これまでは2週間程度の研修後、営業店に配属して全部で3年ほどかけて育成していましたが、本部で3カ月みっちりと基礎を教え、1年間で育成する体制に変えました。
職員の質を具体的に表すと、「自主自律で考える力」だと思っています。自主性を養うには組織風土にも変革が必要です。そこでTPOを踏まえるという前提で、服装を自由としました。試験導入の際には「当社も実施したいが勇気が出なかった。北洋銀行が先導してくれてありがたい」という声が上がるなど、他社からも好意的に受け止めていただいています。
2025年7月には人事制度も変更する予定です。そのプロジェクトチームメンバーを募ったところ、55人から希望がありました。だんだんと自主自律の風土が形成されてきていると実感しました。
新産業が稼働を始めポテンシャルは現実の力に
── 貴行では北海道の景気や産業について、現在の状況をどのように見ていますか。
津山 現在も北海道の景気は決して悪くなく、さまざまなところに盛り上がりの可能性を感じています。
例えば札幌市は札幌五輪から50余年がたち、中心部の建物の更新時期を迎えていることから、各所で大規模な再開発が進められています。北海道の産業を支えてきた、とりわけ第一次産業は、国内外で北海道ブランドの強さを発揮しています。気候変動により農産物や獲れる魚は変化していますが、国内外の人に「北海道産ならばおいしい」と思ってもらえる土壌があるというのは強みです。経済界として消費拡大や輸出などに協力していきたいです。
中心産業の一つである観光に関しても、海外観光客が戻ってきたほか、国内客も増えていると聞きます。24年6月には日高山脈襟裳えりも十勝国立公園が誕生しました。集客のポテンシャルは大きいと見込んでおり、当行もPRなどを応援していきたいと思っています。
従来産業のほか、半導体・GX・データセンター・宇宙産業などの新産業が次々と興っています。長らく北海道はものづくり産業が少ないとされてきましたが、ラピダスの半導体試作ラインが25年に稼働し、周辺産業が集まってくることで、北海道の産業構造が大きく変わることを期待しています。
北海道・札幌市はGX金融資産運用特区でもあり、工場やセンターの稼働をさまざまな再生可能エネルギーで賄うことができます。これまでポテンシャルとして語られてきたことが実際の事業に向かって収束しており、25年は広く道民の方々に、北海道の可能性を実感してもらえる年になるのではと期待しています。
重要産業となる半導体。人材育成が急務となる
── 北海道における銀行の役割とできることは何かを、貴行の具体的な取り組みを含めて教えていただけますか。
津山 地域の課題へ率先して挑んでいくことが地方銀行の使命です。当行は「お客さま本位を徹底し、多様な課題の解決に取り組み、北海道の明日をきりひらく」を経営理念に掲げています。
北海道にはたくさんの強みがありますが、同時に課題先進地域と言われていることも事実です。当行は法人・個人共にメインバンクとしてご利用いただいている方が多く、預金量や取引先数でも道内トップの銀行です。当行がDXに取り組むことで普及の一助となり、さまざまな課題解決につながると思います。
また、お客さま同士をつなぐことで、販路開拓や産品のPR、地域活性化など、さまざまな場面でシナジーを生むことができるようになると思います。
未来に向けては、北海道の20代人口は毎年5千人程度流出していることに危機感を抱いています。挑戦できる風土や応援してくれる仕組みがあることで地域に残る、または外からここに来て働きたいと思う若者が増えるのではないかと思い、スタートアップへの支援には長年注力をしています。
18年に「北洋SDGs推進1号ファンド」を立ち上げ、これまで1号・2号ファンドで39社に約7億円の出資をしてきました。24年11月には新たに3号ファンドを立ち上げ、20社をめどに出資を行っていく予定です。
私が北海道拓殖銀行の破綻後、当行への入職を決めたのは、「北海道が好きだから、この地域のために役に立ちたい」という思いからでした。当行の職員は皆、同じ思いを持っていますので、一丸となって北海道を盛り立てる事業に取り組みたいと思います。