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北海道の持続的発展に向け好機を生かし全道で挑戦する 藤井 裕 北海道経済連合会

北海道経済連合会 藤井裕

GXや次世代半導体といった新産業を契機に、北海道経済に転機が訪れている。この好機を生かし、地域差なく成長・発展につなげていくために、どのような対応が求められているのか。北海道経済連合会の藤井裕会長に、これまでの取り組みや目指す姿について伺った。(雑誌『経済界』2025年4月号地方特集「たぎりたつ北海道」より)

北海道経済連合会会長 藤井裕のプロフィール

北海道経済連合会 藤井裕
北海道経済連合会 藤井裕
ふじい・ゆたか──1956年北海道生まれ。81年宇都宮大学工学部電気工学科卒業後、北海道電力に入社し、2019年代表取締役社長執行役員、23年6月代表取締役会長。同年6月に北海道経済連合会会長に就任。

変革が進む年だった2024年。GX推進に邁進

 2024年は北海道の経済界にとって、さまざまな新しい動きが表立ってきた変化の年でした。北海道・札幌市のGX金融・資産運用特区への指定やラピダス社の次世代半導体工場建設の進展、ソフトバンク社などのデータセンター造成、大樹町の宇宙産業などの動きも進んでいます。こうした産業活動への支援や北海道が抱える課題の解決などに向け、23年の会長就任時から力を入れてきました。

 道経連は24年度の重点目標に「GXの推進」を掲げています。北海道は再生可能エネルギー(再エネ)の宝庫と言われ、国のエネルギー安全保障や脱炭素化などに貢献できる地域です。「ポテンシャルがある」で終わらせないよう、GX投資の促進や脱炭素化などに向け洋上風力をはじめGX産業・プロジェクトへの道内企業の参入支援や、道内の再エネを生かした企業・産業誘致なども行っています。

 「ゼロカーボン北海道」の実現には、再エネの導入拡大をはじめ、北海道のGXをしっかりと前進させ、道内の社会・経済に実装していくことが欠かせません。また、原子力発電所を最大限活用し、北海道の脱炭素化を進めることも重要です。産官学金で連携し、北海道の産業振興や経済の好循環につなげていきます。

次世代半導体の本格稼働へ。基盤整備と支援を継続

 現在、ラピダスの工場建設は、25年4月の試作ライン稼働、27年度の量産開始などに向けて山場を迎えています。

 半導体事業は道内への経済効果も大きく、国益に関わる事業でもあります。

 道経連では、23年に「北海道新産業創造機構(ANIC)」と「北海道次世代半導体産業プラットフォーム」を創設しました。創立以降、道内関連企業とのマッチングや立地支援・人材育成を進めており、現在までに十数件の業種でのマッチングが成立しています。長期的な目標はGX・DX産業の集積であり、半導体産業を起点とした北海道バレー構想の実現を目指し、取り組みを進めているところです。

 工場の本格稼働はもとより、デジタル産業基盤の強化を行うには、北海道の半導体関連企業の裾野を広げ、世界の半導体拠点と比べても遜色のない水準まで引き上げる努力が必要です。国からの長期的かつ継続的な支援を要望していくとともに、国内外の良好事例で得た知見も活用しながら挑戦し続けたい考えです。

人材不足は喫緊の課題。産官学金で連携し支援を強化

 半導体関連事業の基盤整備には、今後需要が見込まれる半導体人材の育成・確保が重要です。23年6月、産官学金で連携し「北海道半導体人材育成等推進協議会」を設立しました。研究者や技術者、O&M従事者など、半導体関連産業への就職者数を30年度までに約3倍に拡大する目標を掲げ、産と学の接点づくりや道内大学でのカリキュラム強化などを図っています。

 人手不足は人口減少が加速する北海道全体の課題でもあります。GXや半導体などの新たな産業分野での人材確保はもちろん、他の産業においても人手不足は顕著で、対策の重要性が年々増しています。道経連では、DX等を活用した業務の効率化・省力化、研修等による人材育成、情報発信など、会員企業の実情を踏まえたサービスを提供してきました。働き手や働き方の多様化も推進しています。外国人人材や、女性・シニア層の労働参画を進めることは、人材確保だけでなくビジネスに多様な視点をもたらす効果も期待できると考えています。 

人とのつながりを重視し持続的発展に向けた活動を

 半導体やGXなどの産業分野は今後の北海道経済の強みとなり得ますが、経済効果が全道に及ぶまでには時間がかかります。全ての地域が格差なく発展していくために、北海道の強みである食と観光の分野の成長も変わらず重要と考えています。観光については、周遊型観光の実現を目指し、各地域の魅力発信に一層力を入れていくとともに、シームレスな交通ネットワークやインフラ整備なども必要になります。北海道観光機構などと共同実施の「交通と観光との共創による北海道MaaS構築人財育成事業」で北海道MaaSのグランドデザインづくりを進めるとともに、昨年9~11月にかけて網走バス等を中心に行った実証事業を関係者とともに支援しました。

 これらから得られた知見やデータを観光振興や地域交通の確保などに役立てていきます。北海道の持続的発展に向けて大切なのは、足元の経済状況とのギャップをどのように埋めていくかといった視点も交えながら、変化を恐れずに挑戦することだと思います。「安定」は良い言葉として語られることが多いですが、私としては「活性化していない状態」を示すものと捉えています。

 北海道が抱える課題は多く、時間を要する難解なものもありますが、各企業や団体が協働することで解決への大きな力が生まれると考えます。人のつながりをつくっていくことが道経連の使命でもあり、役目です。北海道の目指すべき姿を見据えながら、今後もオール北海道、魅力ある北海道の創造に取り組んでいきます。