(雑誌『経済界』2025年4月号巻頭特集「東証改革の勝者と敗者」より)
馬渕磨理子 日本金融経済研究所代表理事のプロフィール
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まぶち・まりこ 京都大学公共政策大学院 修士課程を修了。トレーダーとして法人のファンド運用を担う。その後、金融メディアのシニアアナリストを経て、現在は、一般社団法人日本金融経済研究所代表理事として企業価値向上の研究を大学と共同研究している。イー・ギャランティ社外取締役。楽待社外取締役。国会衆議院財務金融委員会で参考人として意見陳述し、事業性融資の法案可決に寄与。
東証は上場企業に対し、投資家の目線を意識した経営を求め続けている。要請の概要は理解しつつ、では自社は何をどうしたらいいのか、打ち手に悩む経営者も多いはず。そこでおすすめなのは、IR(Investor Relations)人材を育てることだ。
自分の会社のIR人材は、何人いますか。その担当者はIR業務の専属ですか――。東証が資本コストや株価を意識した経営を求めてから、IR人材を充実させる企業が増え始めています。
IR担当者は、まさに投資家と対話をする立場。なぜ自社の株は買ってもらえないのか。どんな施策を打てば不安は払拭されるのか。投資家から自社がどう見られているのかを、最も理解している人材がIR担当者です。また、ROEやPBR、ROICなど、投資家が注目する指標のトレンドを察知することもでき、IR担当者の声を経営に反映させれば、投資家目線を意識した経営の具体策がはっきりとします。
愛嬌と論理性。IRは総合格闘技
とはいえ、まだまだ日本企業ではIR人材の地位が低い現状があります。プライム上場企業の場合は、英語ができる人材を配置したり外部から採用したりするなど、IRだけで5人程度を充てている企業もあります。一方で、スタンダード上場企業ですらIR人材の手薄感は否めず、グロース市場に関しては実質IR担当者がおらず社長自ら一人でやっていたり、担当者がいても総務や広報と兼務だったりするのが実情です。
また、せっかくIR担当として成果を上げても、数年後には別の業務の担当になっていたり転職していたりするケースも目にします。背景には、IR人材がなかなか評価を受けられていない状況があるのではと感じます。
IR人材の役割は、投資家の名簿を揃え、それぞれがどんな企業の株を買っているのかをリサーチし、片っ端からアプローチしていく地道で泥臭い側面があります。加えて、プロの機関投資家と対峙するため、自社の業績について倫理的かつ精緻に説明するスキルも必要です。こうした日々の活動を通じて、自社の名前を多くの投資家に知ってもらい、理念やビジネスモデルの特徴を丁寧に伝え、株主数を徐々に増やし、その先に株価が上がってくる。仮に少し業績が落ち込むことがあっても、応援しているよ! と言ってもらえるような関係を構築することも大切です。ですから、私が常々感じているのは、IRとは営業マンのような愛嬌と、コンサルタントのような論理性が要求される総合格闘技のような役割だということです。
東証改革は今後も続き、上場企業はますます投資家目線を意識した経営を実践することが求められます。ぜひ、設備投資だと思ってIR人材を採用したり社内で育てたりしてみてはいかがでしょうか。IRには前述のような特性が求められますから、思い切ってトップ営業マンを充ててみると思いがけない成果を生み出すはずです。国としても「高度IR人材」のようなイメージで、IR職にスポットを当ててくれたら素晴らしいと思います(談)。