2022年4月の東証市場区分再編以来、日本市場の状況は目まぐるしく変わっている。印象的な数字から、市場の今を見る。文=和田一樹(雑誌『経済界』2025年4月号巻頭特集「東証改革の勝者と敗者」より)
上場廃止は94社 2013年以降で最多
2024年に東京証券取引所で上場廃止した企業は94社だった。これは東証と大阪証券取引所が13年に経営統合して以降で最多だ。上場廃止の理由は各社それぞれだが、経営陣が自社株を買い取って非公開化し上場を廃止するMBOが急増している。
23年度のMBOによる株式取得額は前年度比で5倍の1兆4688億円と過去最高を記録していた。注目を集めた事例としては、7千億円規模となった大正製薬ホールディングスと2千億円規模となったベネッセHDだろう。
MBOを巡っては、創業家や経営陣が、適正とされる価格以下で非上場化に踏み切り、少数株主が不利益を被る事例が問題視されていた。先の大正製薬のほか、シダックスやファミリーマート等のMBOにおいても、適正価格を下回るという申し立てがなされている。今年1月、東証はMBOする際に守るべきルールを厳しくすると表明。今後、企業側には買収を受け入れる妥当性や価格の根拠に関する説明を義務づける。MBOのハードルが上がった格好だ。
リーマンショック前年以来 17年ぶりの100件超え
活発なのはMBOだけではない。TOBも盛況で、24年は07年以来の100件超えとなった。ベネフィット・ワンの事例では、当初エムスリーが名乗りを上げたが、後から第一生命HDも参戦し、TOB合戦が勃発。結果的に第一生命HDが勝利している。
思い返せば日本で初めて敵対的TOBを行ったのは村上ファンドだった。TOBを仕掛けられた昭栄(現ヒューリック)の株価が上昇し村上ファンドは断念。日本初のTOBは失敗に終わった。その後も、00年代中頃にかけてライブドアや村上ファンドなどによる買収劇が繰り広げられ、その印象も相まってか日本でTOBは積極的に活用されてこなかった。流れを変えたのは、23年8月の経済産業省の指針。これにより、TOBの提案を受けた企業も真摯に提案を検討することが求められるようになり、「敵対的買収」は「同意なき買収」へと名前を変えた。
23年、ニデックはスタンダード上場企業TAKISAWAに同意なき買収を仕掛け、当初は拒否されたものの最終的に賛同を取り付けた。そして今、ニデックは牧野フライス製作所に対するTOBに動いている。しかも、今回は買収の事前申し入れすらしなかった。ニデックの動向に対する反響次第では、さらにTOBが活況になってもおかしくない。
日経225VS読売333 ベンチマーク争奪戦
これだけ動きがある状況だからこそ、日本経済の現在地を正確に把握する指標が欲しい。株価指数に関しても新たな動きが注目を集める。読売新聞グループが3月から、新たに創設した株価指数「読売株価指数」(愛称は読売333)の算出・公表を始めるのだ。
特徴は「等ウェート型」と呼ばれる算出方法だ。日系平均株価(日経225)は「株価平均型」と呼ばれる算出方法を用いており、1株当たりの株価が高い〝値がさ株〟の影響が大きくなる傾向がある。また、現在見直しが進むTOPIXは「時価総額加重型」と呼ばれる算出方法で、こちらは時価総額の大きい銘柄(大型株)の値動きに影響を受けやすい。 読売333が用いる等ウェート型は、指数を構成する銘柄をすべて同じ比率で組み入れることで構成銘柄の値動きを均等に捉えるため、大企業や特定企業の動向に左右されにくく、幅広い企業に目配りした指数になることが予想される。
指数については、日本取引所グループが算出するTOPIXよりも日経平均の方が、さまざまな場面でベンチマークになっている。読売333はどこまで定着するのか。