物言う株主、アクティビスト。彼らは長らく、「強欲な金の亡者」だと扱われてきた。しかし、近年急速に進む企業のガバナンス強化や投資家を意識した経営は、ずっと彼らが主張してきたことだ。2000年、日本で初めて敵対的TOBを行った村上ファンドの創業メンバーが、変わり始めた日本市場の今を語る。聞き手=和田一樹 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2025年4月号巻頭特集「東証改革の勝者と敗者」より)
丸木 強 ストラテジックキャピタル代表のプロフィール

まるき・つよし 1982年東京大学法学部卒業。野村證券入社。99年、M&Aコンサルティング(後のMACアセットマネジメント)の創業メンバーの一人として、日本初となるアクティビストファンドの運用に従事。12年にストラテジックキャピタルを設立、代表に就任、同年12月からアクティビスト戦略のファンド運用を開始。
相変わらずダメな企業はダメ。差が付いた企業の実情
―― 丸木さんは東証改革をどう見ていますか。
丸木 資本コストや株価を意識した経営ができている、やろうとしている会社と、そうではない会社の差が開いた感じがします。僕は経営状態に改善余地のある会社を見極めて投資し、改善策を提案してリターンを得ることを仕事にしているからこそよく分かります。相変わらず悪いところは悪い。それが現実です。
―― 今、どんな経営者に問題を感じていますか。
丸木 いろいろあるけれど、特に気になるのは報酬。株価が振るわないのに高過ぎる報酬をもらっている人がいっぱいいます。去年から有名な企業同士の統合話が注目を集めていますが、片方の企業は株価が低迷してPBRも0・3程度。それなのに社長は6億円以上の報酬をもらっていた。とんでもない話ですよ。
最近、企業の有価証券報告書を見ると、固定報酬がいくらで、業績連動がこのくらい、株式報酬はこれだけなど、経営者の報酬体系が細かく公表されていることもあります。逆にこれが良くなくて、一見するときちんと決めているのかなと思うわけですよ。
でも、そういう開示がされていたからこそ、その基準に則って株価に見合わないような報酬が支払われたりするわけです。だから見た目にごまかされてはいけない。しかもやっかいなのは、株主から文句を言われないような役員の報酬体系を上手に助言する会社もあるようです。
―― 個人の投資家はなかなか見抜くのが大変そうです。
丸木 本来であれば、機関投資家がきちんとやるべきです。でも日本の投資家は優しい。例えば、アメリカの議決権行使助言会社であるISSは、過去5期平均のROEが5%を下回り、かつ改善傾向にない場合は取締役の再任議案に対する反対投票を推奨しています。でも、実際日本の機関投資家はなかなか反対しない。
基準はROEでもいいですが、僕は株価のパフォーマンスで判断してほしいと思います。PBR1倍以下、あるいはパフォーマンスがTOPIXに大きく劣後していたら反対投票する。先ほどの例のように、株価が低迷しているのに高額な報酬をもらっている経営者には×をつけなきゃだめです。そこがどうも甘い。現に、長いことROEが2%、3%を下回っているのに再任決議に賛成する投資家が多いのです。
―― 日本の機関投資家はどうして反対投票しないのでしょうか。
丸木 僕が思うに理由は大きく2つ。まず、日本の機関投資家の多くは銀行や証券会社の関係会社ですから、親会社がいろいろな上場企業と付き合いがあってなかなか反対投票しにくい。
もう一つは、運用のパフォーマンスが運用者の報酬と強く結びついていないのではないか。言ってしまえば、〇をつけようが×をつけようが、自分が運用する資産のパフォーマンスが良かろうが悪かろうが、自分のボーナスは大きくは変わらないんです。
―― 東証改革は日本に何を残すのでしょう。
丸木 日本企業、日本経済の活性化になると思いますよ。世の中の付加価値というのは、営利企業しか生みません。地方自治体や国の投資は付加価値を生まないものが多いんです。公共投資が結果的に付加価値を生み出すことはありますが、基本は営利企業が儲かって付加価値を生むから社会が豊かになるわけです。
もし日本企業のROEがずっと低ければ、世の中に付加価値を生めていないということです。東証改革でそこが変わっていくのは、日本にとっていいことです。
非事業会社による同意なき買収が増える?
―― 東証改革に引っ張られるように、日本企業の経営を巡って変化が起きています。これからどんな状況に直面していくのでしょうか。
丸木 未来のことは分かりませんが、同意なき買収を巡る環境に変化が起きていきそうな気配を感じています。経済産業省が23年8月に策定した「企業買収における行動指針」によって、「敵対的買収」は「同意なき買収」と呼ばれるようになりました。この指針では、企業価値の向上につながるような同意なき買収は、提案された企業も真摯に検討するように求められています。
最近もニデックのM&Aが注目されていますが、今後は非事業会社による同意なき買収が盛んになるかもしれません。
―― 昨年、富士ソフトがKKRとベインキャピタルの取り合いのような状況になりました。
丸木 今後も変化のきっかけを作るのは外資系の大手PEファンドだと思います。外資の大手が買い手になるということは、アドバイザーに外資大手のインベストメントバンクがつくでしょうし、ファイナンシャルアドバイザーや弁護士事務所も同様です。過去、日系のインベストメントバンクや弁護士事務所は敵対的な買収案件は扱わない風潮がありました。それが外資から雰囲気が変わり、徐々に同意なき買収のプレーヤーが厚くなっていくのだと思います。時間はかかるでしょうけど。
―― 東証改革で議論が不十分だと感じる部分はありますか。
丸木 あえて言えば上場審査基準でしょうか。現状、増益基調であることに重きを置いていますが、そうではなくて資本コスト以上のリターンを出せる、または出せる見込みがあることを基準にするべき。それから、上場の段階で取締役の皆さまに「株主価値向上のために努力します」と一筆取る(笑)。
少し冗談っぽく言いましたけど、株主価値の向上が株式会社の目的であるのは会社法の教科書に書いてあるようなことです。でも、分かっていない経営者が多過ぎる。それなのにすぐに三方良し、五方良しとか言うわけですよ。本当に「株主も良し」になっているならいいんです。でも、PBR1倍以下では五方良しでも何でもないでしょう。
株主は株式会社の主権者なわけだから、個人投資家ももっと意見を言ったらいいと思います。政治だったらその辺のおじちゃん、おばちゃんも政治家の悪口を言うでしょう。同じように株主が、今の社長はダメだとか、代わってほしいなとか気軽に言えばいいんです。そしたら日本が良くなる。
―― 耳が痛くなる経営者が多そうな話をありがとうございました。
丸木 僕は日本を活性化したいと思ってアクティビスト活動をしています。だから厳しいことも言います。あまり言い過ぎると「丸木は怖い人だ」と思われてしまうから優しい顔の写真を使ってくださいね(笑)。