「ゲームばかりしていないで、勉強しなさい!」そんな言葉を、何度聞いただろう。かつて娯楽だったゲームは、今やeスポーツとして教育・地域活性化・ビジネス創出の場に。大阪府は世界的eスポーツ都市を目指してラウンドテーブルを設立し、万博を契機に国際発信を強化する。文=佐藤元樹 Photo=©️STAGE:0 eSPORTS High-School Championship(雑誌『経済界』2025年4月号「『ゲーム』を超えるeスポーツ」特集より)

大阪をeスポーツの聖地に! 万博が生む新たな未来
大阪が世界的なeスポーツ都市を目指している。万博を契機に、教育・ビジネス・地域活性化の分野でeスポーツを活用し、都市ブランドの確立と国際的な発信を強化している。
特に近年、eスポーツは教育、地域活性化、ビジネス創出のツールとして注目されるようになった。
戦略的思考やチームワークを育むだけでなく、新たなデジタル技術との融合により、都市のブランド価値向上や観光振興にも寄与している。
大阪府はeスポーツの成長可能性を見据え、2024年11月に「大阪eスポーツラウンドテーブル(Osaka eSports Growth Guild、以下OeGG)」を設立した。これは、自治体、教育機関、企業、関連団体が参加し、eスポーツを活用した地域活性化や人材育成を推進するためのプラットフォームである。
OeGGは万博期間中、週ごとにテーマを決めて対話やビジネス交流に取り組む「テーマウィーク」と連携。7月の「学びと遊び」の週で、ゲーム・eスポーツの発信イベントを開催予定だ。世界中から注目が集まる万博を活用し、「eスポーツといえば大阪」というブランドの確立を目指している。大阪府のeスポーツ戦略は、単なる競技振興にとどまらず、教育、地域活性化、国際交流、都市ブランディングと多岐にわたる。万博を契機に、eスポーツを活用した新たなビジネスや観光資源の創出を進め、世界的なeスポーツ都市としての地位を確立しようとしている。
この他、eスポーツ推進に寄与する企業のひとつが、メタバース技術を活用したデジタルコンテンツを手がける大阪の企業Meta Osaka(代表・毛利英昭)だ。24年に同社主催で開催された「eスポーツ大運動会」では、世界大会で活躍するプロ選手が直接指導し、子どもたちにゲームを活用したコミュニケーション教育とチームワーク教育を提供。本格的な機材を使用したeスポーツ体験を通じ、参加者は自然と協力し、互いを応援し合う姿を見せた。また、イベントでは大阪城やなんばパークスといった名所をメタバース空間に再現し、地域への愛着を育む試みも実施。さらに、Meta Osakaは「こども万博mini in なんば」をはじめとするイベントを展開。ARや3Dスキャン技術を駆使し、子どもたちにデジタル技術の学びの場を提供するほか、大阪の街並みをデジタルで再現したマップを活用し、地元の魅力を国内外へ発信する取り組みも進めている。
加えて、Meta Osakaは大阪・関西万博内で複数のプロジェクトを展開予定だ。5月27日・28日には「メタバース・XR・AIアワード」を開催し、デジタル技術の最前線を紹介。
さらに、10月10日・11日には「未来のトビラをひらくこども万博」を主催し、メタバース技術を活用したバーチャルイベントを実施する。特に「こども万博」では、遠方に住んでいたり、何らかの理由で万博会場に足を運ぶことができない子どもたちが、デジタルツイン技術を通じてオンライン参加できるような仕組みを導入する予定だ。
毛利代表は「今年の大阪・関西万博は、大阪におけるeスポーツの可能性を世界に発信する絶好の機会と捉えています。『いのち輝く未来社会のデザイン』に呼応し、eスポーツやデジタル技術を通じて、子どもたちが新しい価値観や可能性に出会える場を提供したい」と語る。
eスポーツ日本最強高校が万博の舞台で決まる
大阪・関西万博では、eスポーツが未来社会を象徴する重要なコンテンツとして位置付けられている。中でも多くのeスポーツファンが期待を寄せるのが、全国高校生が競う「STAGE:0 eSPORTS High-School Championship 」(以下、「STAGE:0」)の25年度大会だ。
STAGE:0は19年にテレビ東京と電通によって開始された、日本最大の高校生eスポーツ大会だ。今年の大会は8月、大阪・関西万博会場内の「EXPOホール」で開催されることが決定している。このホールは、座席数約1900席を保有する大催事場。世界的な注目が集まるこの場での開催は、全国の高校生プレーヤーを奮起させている。
この大会は、賞金やエントリー料を設けない純粋な競技の場であり、学校単位での協力やチームビルディングを促す役割を果たしている。また、大学のAO入試での実績活用や、プロを目指す高校生の登竜門としても注目されている。
一方で、学校活動におけるeスポーツには課題もある。部活動としての普及は進んでいるが、高額な機材が必要なため、都市部に参加校が集中し、地方の学校には導入のハードルが高い。また、eスポーツに対する大人側の理解が十分でないケースもあり、部活動としての認知を広げるには時間を要する。
それでも、eスポーツが持つ教育的価値は計り知れない。戦略的思考、チームワーク、語学力、国際的なコミュニケーション能力の向上に寄与し、オンライン対戦を通じて世界とつながる経験は、グローバル人材の育成にも貢献する。
また、不登校の子どもたちが社会とのつながりを持つ手段となり得ると同時に高齢者や障害者が生きがいや自己表現の場を見つける機会を提供する。こうした側面からも、eスポーツの社会的価値は今後さらに高まると考えられている。
企業や自治体にとっても、eスポーツは地域活性化の重要な鍵だ。大会の開催や関連イベントを通じて、観光客や投資を呼び込み、都市の価値を向上させる。
大阪・関西万博の大舞台も活用し、大阪のeスポーツを通した都市ブランディングは進む。教育や福祉などの現場でも活用されるeスポーツは、地方創生のツールとしてもぴったりだ。大阪が世界的eスポーツ都市の先駆けとして、他の地域の模範となるか。