(雑誌『経済界』2025年5月号「注目企業」特集より)

「シンギュラリティ」――直訳すると「技術的特異点」となるが、「AIが人間の頭脳を超える日」という意味で使われることが多い。
このシンギュラリティという言葉を、日本の経営者でもっとも早く使い始めたのが、ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長だ。十数年以上前から、「2045年にはシンギュラリティが起き、世界が大きく変わる。同時に大きなビジネスチャンスが訪れる」と語っていた。
孫氏に一つ誤算があったとしたら、オープンAIの登場により、シンギュラリティの時期が大幅に早まったことだろう。実際、孫氏は23年秋の段階で、「シンギュラリティは10年以内に必ずやってくる」と言い直している。そしてその日に備えた準備を孫氏は着々と進めてきた。
今年2月3日、孫氏は500人の日本企業のトップを前に、オープンAI創始者のサム・アルトマンCEOと共に登場した。ここで孫氏は、SBGとオープンAIが合弁で「SB OpenAI Japan」を設立することを発表した。しかもそれに先立ち孫氏は、トランプ米大統領に対し米国で最大5千億ドルのAI投資を行うことも表明した。
AIの進化に対して警戒する人も多い。しかし孫氏の元側近は「孫さんは集合知を信じている」と言う。つまりAIが膨大なデータから見いだした知見が、人々をより豊かにすると確信している。孫氏は創業以来「デジタル革命で人々を幸せに」を社是としてきた。その目指す世界が間もなく到来する。