今年は関西経済にとっての正念場。トランプ米政権が誕生し、関税政策を相次ぎ発動。関西企業も逆風にさらされる懸念がある。4月からは大阪・関西万博が半年間にわたり開かれる。そこで示される革新技術を、関西の成長につなげられるかという課題もある。文=ジャーナリスト/小田切 隆(雑誌『経済界』2025年5月号より)

6つのテーマを議論した恒例の関西財界セミナー
2月6日と7日の2日間、神戸市の神戸ポートピアホテルで、毎年恒例の「関西財界セミナー」が開かれた。関西の経営者が集まって社会や経済の課題を議論する集まりで、関西経済連合会と関西経済同友会が共催。今回で第63回目となる。
通常、京都市で行われるが、今回は阪神大震災から30年という節目であることから、被災地・神戸で開かれた。
参加したのはおよそ700人。初日、関経連の松本正義会長(住友電気工業会長)は、今年が万博イヤーであることを踏まえ、「万博が示す未来社会の実現に向けて関西が羽ばたく年にしたい」と参加者に訴えた。
セミナー全体のテーマは「強靭に、果敢に、羽ばたく関西~未来社会のデザイン元年~」とした。そして、次の6つの議題を話し合う分科会をそれぞれ設け、2日間にわたって議論を繰り広げた。
6つは次の通りだ。①「ポスト万博を見据えた関西の未来図」②「日本発・日本型『循環経済(サーキュラーエコノミー)』で新産業創出を目指そう」③「未来社会を『教育』でデザインする~次世代人材育成における企業の役割~」④「災害対応における企業および地域の防災力向上にむけて」⑤「激動の国際情勢下におけるグローバルリスクと企業経営」⑥「これからの都市の力」
①は、国や自治体、研究機関、企業、スタートアップが万博で示す「社会課題の解決に向けた技術、アイデア」を、どう未来社会の構築や関西の飛躍につなげるか話し合われた。
②は、持続可能な社会を実現するため、大量生産・消費・廃棄を前提とする「線形経済」から、資源の効率的・循環的な利用を図る「循環経済」へ移行することが不可欠と定義。そのために企業や消費者は、どう行動を変えていくべきかを議論した。
③は、人材育成の中核を担う大学教育をテーマとし、学生・大学・企業それぞれが持つ期待と現実にはギャップがあるのではないかと問題提起。未来社会を「教育」でデザインするため、次世代人材をどう育てていくか意見交換した。
④は、阪神大震災から30年の節目の年であることや南海トラフ地震が起きる可能性が高まっていることなどを踏まえ、企業がどう防災・減災を進めていくかや、自治体とどう連携していくかなどを議題とした。
⑤は、企業はグローバルリスクをどう見極め、どのような戦略をとるべきか検討。「デカップリング(切り離し)」やロシアのウクライナ侵攻の長期化、中東情勢の不安定化、トランプ米政権の誕生などをグローバルリスクとして挙げた。
⑥は、これまでの都市づくりが効率性や大量消費を前提としており、人口減などを背景に、コミュニティーの衰退、公共への市民の参画意識の低下につながったと指摘。都市の構成員である企業人として、どんな役割を担うべきかを議論した。
カナダ、メキシコに対するトランプ関税
今回の関西財界セミナーで、より切迫感をもって議論されたのはトランプ米大統領への対応だ。
「トランプ政権がどう動くのか予測するのは難しい」(パナソニックホールディングスの佐藤基嗣副社長)といった危機感や懸念を示す声が、分科会の一つで出た。
「米国第一主義」を掲げるトランプ氏は、ほかの国からの輸入品に対し関税をかける方針を次々に打ち出している。
対象国による報復関税の動きも出ており、貿易戦争が広がって世界経済が停滞する懸念も高まっている。そうなれば、製造業が多く中国などへも多く輸出している関西企業は打撃を受ける。サプライチェーン(供給網)のつくり直しを迫られれば、企業にとって大きな負担となる。
トランプ政権は中国に対し、3月4日から新たに10%の追加関税を課した。2月4日から10%の追加関税をかけていたので、合わせて20%の追加関税となる。
さらにトランプ氏は、メキシコとカナダに対しても3月4日から、25%の関税をかけた。フェンタニルなどの薬物が大量に流入しているためと説明した。
メキシコとカナダに対してはもともと、2月4日から関税をかけるとしていたが、1カ月間猶予していた。メキシコ、カナダの両首脳との協議で、両国が薬物流入を阻むための対策をとるとの約束があったため、1カ月間、様子見しようとトランプ氏は発動を延期していたが、最初の予定通り、3月4日から、メキシコとカナダに関税をかけることを決めた。
このほかトランプ氏は2月26日、欧州連合(EU)からのすべての輸入品に関税をかけるともした。米国がEUから自動車を輸入しているにもかかわらず、EUは米国から自動車や農産品を受け入れていないと考えたからだ。税率は25%程度になることが予想されている。
またトランプ氏は、米国からの輸入品に高い関税をかけている国や地域に対して相応の関税(相互関税)をかける考えも示している。
これは日本も対象になる可能性がある。米国からの輸入品のうち、工業品にはほとんど関税をかけていないが、牛肉や穀物などの農産物には関税をかけているからだ。日本から米国へ輸入されている自動車などに関税がかけられる可能性がある。
米国の関税政策は、対象が広がるほど世界経済、さらには日本経済、関西経済への影響が大きくなる。
中国から米国へ輸入される電子機器・日用品などに関税がかけられ、米国内での販売価格にその関税分が上乗せされると、中国製品は米国で売れなくなり、中国経済は悪化する。
この結果、中国の購買力が落ちると、中国へ輸出している世界の国が打撃を受ける。日本にとって中国は米国に次ぐ第2位の輸出相手国であり、自動車や電子機器の部品などを中国へ輸出している関西の企業には逆風になる。また、米国が日本に相互関税で自動車などに関税をかければ、日本から米国への輸出が打撃を受け、やはり関連する関西の企業に悪影響が出る。
さらに、中国は米国に報復関税を発動しており、EUも同じく報復関税をかける方針。こうした動きが広がり世界の貿易が停滞すれば、世界経済が悪化し、やはり日本企業や関西企業に悪影響が出ることになる。
関西財界セミナーでは、トランプ政権が及ぼす影響への懸念が噴出。「日本は米国、中国どちらかに肩入れすべきではない」など、冷静な対応を求める声も出た。
いまだ人気薄の万博をどう盛り上げるのか
万博については、産官学の連携なども進め、新しい産業やまちをつくっていく必要性で合意した。
分科会の一つでは、万博会場で運用される、AIを備えた「AIスーツケース」が紹介された。
視覚に障害がある人を目的地まで誘導する機能がある。運用する日本科学未来館の浅川智恵子館長は、こうした技術の普及には、法制度やインフラの整備不足といった障害を取り除いていくことが必要だと訴えた。
このほか、万博で水素燃料電池船を運航する岩谷産業の間島寛社長は、水素エネルギーの有用性をアピール。
次世代交通サービス「MaaS(マース)」の構築を関西の鉄道7社などが万博に向け進めていることに絡み、JR西日本の奥田英雄デジタルソリューション本部長は、万博後も企業間のデータ連携の基盤を残すことが重要だと訴えた。
なおMaaSは、多様な交通手段の予約や決済などをスマートフォンなどで一括して行えるサービスだ。
万博は開幕1カ月前のタイミングでも全国的な盛り上がりに欠け、前売り入場券の売れ行きがよくない。「失敗」すれば、万博で紹介される最新技術を社会に実装していく機運も高まらないかもしれず、セミナーでは万博を盛り上げていく重要性を指摘する声も上がった。
災害については、被災体験を後世に受け継いでいく重要性を共有。阪神大震災から30年を迎えたのを契機に、南海トラフ地震など大規模な自然災害への備えを官民が一体となって検証し、取り組みを強化することが必要との認識で一致した。
政府の地震調査委員会は1月、南海トラフ沿いでマグニチュード(M)8~9級の地震が30年以内に起きる確率を、それまでの「70~80%」から「80%程度」へと引き上げた。
実際に起きれば、広範囲にわたって被害が出ることが予想される。防災や減災、復旧・復興をどう進めていくのか、「自助・共助・公助」それぞれの面から多角的に考えていくことは喫緊の課題といえる。
トランプ政権への対応、万博の活用、大規模災害への備え……。いずれの課題も重い。これらにうまく対処できるかが関西経済の行く末を左右するともいえる。今年は重要な1年となりそうだ。