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インド3位のIT企業が日本市場に熱い視線を送る理由 中山雅之 エイチシーエル・ジャパン

中山雅之 エイチシーエル・ジャパン

今や世界一の人口を誇るインドはIT王国として知られ、アメリカのIT企業はほぼすべてインド企業の支援を受けている現実がある。そのインドITの3位企業、HCLテクノロジーズが、日本で存在感を増し始めた。その背景をエイチシーエル・ジャパンの中山雅之社長に聞いた。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2025年6月号より)

中山雅之 エイチシーエル・ジャパン
中山雅之 エイチシーエル・ジャパン社長
なかやま・まさゆき 1961年生まれ。85年九州大学経済学部を卒業し日本アイ・ビー・エム入社。2007年執行役員製造企業担当、11年日本郵政常務執行役グループCIO、16年日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ副社長を経て、22年エイチシーエル・ジャパン社長に就任した。

インドはIT先進国。下請け時代は今は昔

―― HCLテックはインドで3番目に大きなIT企業です。インドのIT企業は、1990年代からアメリカ企業のオフショア(海外委託)として発展してきましたが、日本市場はどのような位置づけですか。

中山 アメリカのIT企業にとってインドは欠かせない存在になっています。オフショアだけでなく、インド出身の人たちがアメリカIT企業の中で重要な役割を果たすようになっています。HCLテックも、売り上げの6割はアメリカ関連です。一方、日本ではインドのITサービス企業はあまり成功してきませんでした。

 アメリカ企業にとっては英語が通じるインドがオフショアの最適地でしたが、日本企業にとってはむしろ中国企業のほうが付き合いやすかった。その違いがあって、これまでインド企業は日本で存在感を示せませんでした。

 ただし、アメリカではこれまで高い成長率を保ってきましたが、今後もそれを期待し続けることは難しい。そこでドイツやフランスなど、英語圏以外の先進国で成長しようというのがインドIT企業の共通の戦略だろうと思います。日本もその中の一つです。日本は世界の中でも2位、3位に入るIT先進国です。力を入れるのは当然です。

―― 日本企業のインド企業に対する見方は変わってきていますか。

中山 大きく変わってきていると思います。一つには、先ほど言ったように、アメリカのITがインド企業とインド出身者抜きにしては成り立たないことが認識されたこと。そしてもう一つは、これまで日本企業は、オリジナリティにこだわっていた。それが競争力の源泉だと考え、ソフトウェア一つとっても、独自の仕様を求めることが多くあり、それが対応を難しくしていました。ところが今ではテクノロジーが進化したこともあり、ERP(基幹システム)でもパッケージソフトで十分対応できるようになった。その背景には、経営者のITへの関心が強くなり、いかに効率的に投資するか考えるようになったことがあると思います。

 しかも以前は、コスト面からオフショアが発展してきましたが、今では技術が集積されてテクノロジーセンターになってきました。HCLテックの場合でも、ITサービスからエンジニアリング、セキュリティ、ソフトウェアまでワンストップで提供できるようになっています。

目標は2028年。売上高1千億円

エイチシーエル・ジャパン本社
エイチシーエル・ジャパン本社

―― 以前とはインドIT企業への向き合い方が大きく変わってきたわけですね。

中山 例えば、HCLテックは昨年、オリンパスとの間で内視鏡開発に関する戦略的パートナーシップを結びました。HCLテックは、インドのハイデラバードに専用の製品イノベーションセンターを設立し、世界にまたがるオリンパスのオペレーションにサービスを提供するようになりました。同センターは、オリンパスの事業拡大計画を後押しし、医療技術の進歩を推進していく役割を担っています。

 技術的なサポートは当然ですが、医療分野は、国によって認可システムが違います。そこで、世界60カ国に拠点を置くHCLテックのグローバルネットワークを活用することで、法規制などに対応していきます。そしてこのパートナーシップ契約は、HCLジャパンが窓口になっています。こうした案件を今後は増やしていきたいと思います。

―― HCLテックの中で日本の存在感が大きくなっていくわけですね。

中山 先ほども言ったように、今後は米国以外のビジネスが重要になってきます。日本でマーケットをつくっていくことは、そのテストケースです。その経験が、英語圏以外の国々へのマーケット開拓につながります。

―― HCLジャパンの売上高は現在400億円。中山さんは他のメディアのインタビューで、28年度までに1千億円にすると語っています。4年後に2・5倍ですから、かなり高いハードルです。そのためには何が必要ですか。

中山 28年度1千億円の目標は、一昨年、HCLジャパン設立25周年のパーティの時に発表したものです。お客さま、パートナー企業、そしてインド本社の方々も来ている中で出したものです。インドIT企業として日本でトップに立ちたいと考えています。

 そのためには、ローカライゼーションを進めていく必要があります。どうやって日本のマーケットに入っていくか、あるいは日本のお客さまに受け入れてもらえるかが一番のポイントだと思います。

 私は就任してからの3年間、ずっとこのことに取り組んできました。おかげで毎年2桁成長を続けていますが、これからさらに本格化させます。グローバル化が進んだとはいえ、それでも日本のお客さまは品質などに独特の基準を持っています。非常に細かいところにまでこだわります。こうした要求に対応していくには、単純にいえば、日本企業の特性を理解できる日本人スタッフをどれだけ増やせるかにかかっています。ローカライゼーションとはいうなればブリッジです。本社とその地域をうまく橋渡しする。その強化がHCLジャパンの成長には不可欠です。

 幸い、インド本社もこの方針を理解してくれています。だからこそ、ここ数年、売上高、利益、受注高も大きく伸びています。

―― HCLジャパンを経営するにあたっての価値基準はどこに置いていますか。

中山 5つあります。まずは信頼。日本でビジネスを展開するには、他国よりも信頼を得ることが重要です。2つ目はローカライゼーション。具体的にはお客さま中心のオペレーションを行っていく。3つ目がサービス品質。これをいかに上げていくか。4つ目はフォーカス。まだまだ小さな会社ですから、すべてをやることはできません。そこでエンジニアリングなど競争力のあるところにフォーカスしていく。そして最後に人材です。人材がいるからこそブリッジとして機能する。この5つを常に念頭に置いて全ての施策をやっていきます。