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 「みんなで泊まる」ホテルでグループステイのニーズを捉えた 髙智亮大朗 コスモスイニシア

髙智亮大朗 コスモスイニシア

 日本各地で大きなキャリーケースを引いた外国人のグループを目にするようになった。取材で訪ねた東京・日本橋の「MIMARU SUITES 東京日本橋」も、訪日客らしき集団で賑わっていた。

 「MIMARU(ミマル)」は、大和ハウスグループでマンションなどの不動産開発を手掛けるコスモスイニシアが展開するアパートメントホテルだ。アパートメントホテルとは、家族連れや友達同士で「暮らすように泊まる」ことをコンセプトにした宿泊施設。4人以上で連泊することを前提に設計されており、食器や調理器具も揃っている。

 今、そんなアパートメントホテルが人気を博している。しかも、ホテルビジネスを専業にやってこなかった異業種からの参入が相次いでいるのだ。そして、日本でアパートメントホテルブームに火をつけたのが、2018年からMIMARUを展開するコスモスイニシアだ。なぜアパートメントホテルという形態で勝負を仕掛けたのか。髙智亮大朗社長に聞いた。聞き手=和田一樹 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2025年7月号より)

髙智亮大朗 コスモスイニシアのプロフィール

髙智亮大朗 コスモスイニシア
髙智亮大朗 コスモスイニシア
たかち・りょうたろう 1967年生まれ。90年、前身のリクルートコスモスに新卒入社。2015年執行役員レジデンシャル本部西日本支社長、19年取締役ソリューション本部長、同本部賃貸事業部長、20年10月から代表取締役社長執行役員。現在に至る。

平日は訪日客で埋められるホテル業界の神話を打破

―― MIMARU第一弾の開業は、18年の東京・上野でした。改めて、アパートメントホテルの定義とは何でしょうか。

髙智 暮らすように泊まれること、これがコンセプトの軸です。付帯するサービスにはバリエーションがありますが、MIMARUは約40~80平方メートルの室内にキッチンやリビング・ダイニングスペース、調理器具や食器等を備えており、4人から6人での中長期滞在が可能です。旅行は楽しいものですが、動き回るのも疲れてしまいますし、特に小さいお子さんがいたりすると外食するのも大変です。MIMARUなら、旅先のおいしいものを持ち帰り、家族で気兼ねなく食事を楽しめます。

 また、MIMARUはホテル内にレストランを作っていません。暮らすようにお部屋で食事を楽しんでもらう以外にも、周辺の飲食店も楽しんでもらいたいという思いからです。地域と共存共栄のホテルであることで、訪日客の方々に日本をまるごと楽しんでもらえます。アパートメントホテルという言葉を作ったのが当社ということもあり、MIMARUこそがアパートメントホテルの答えだと思っています。

―― 18年時点で、他社は同じようなコンセプトのホテルを開業していなかったのですか。

髙智 ごく小規模でやっているところはありましたが、ホテル業界の大きな企業が展開していることはありませんでした。逆に、ホテルビジネスを知り尽くしている先輩方から、「そのコンセプトではうまくいかないよ」と諭されるようなこともありました。

―― どんな部分がうまくいかないと言われる要因になったのですか。

髙智 当時、日本のホテル業界の常識としては、「観光は週末」という神話が根強く、平日はビジネス需要を取り込まないと稼働率が落ちて黒字化できないという考えがありました。加えて、業界では客室数の増加が収益を向上させるという常識も。ですから、4人以上の滞在を前提に部屋を設計するのは、収益効率も悪いし何より平日が埋まらないと言われたのです。

 今となっては当たり前ですが、国ごとに長期のバケーションはありますし、訪日客は平日かどうか関係なく観光される人もたくさんいます。われわれは、訪日客を取り込めば平日も問題なく稼働できるはずだという仮説のもとに挑戦を始めました。

MIMARU大阪 心斎橋WESTの客室の様子
MIMARU大阪 心斎橋WESTの客室の様子

―― 前例がなく周囲からの反応も芳しくない中、迷わず進められたのはどうしてでしょうか。

髙智 われわれは1999年からオーストラリアでリゾート事業を手掛けており、現地で MIMARUのように多人数で暮らすように滞在できるリゾートホテル施設の運営経験がありました。対して、日本にはグループステイできるホテルがほぼなく、4人家族で泊まる場合は2部屋に分かれるなんてことが多くありました。こうした既存ホテルが満たせていない明確なニーズを狙えばチャンスはあるのではないかと考えたのです。

 加えて、当社は分譲マンションを10万戸以上供給してきたことで、居室プランの企画経験も豊富です。 こうした自社のコアな強みを組み合わせる戦略に自信を持っていました。

 現在稼働しているMIMARUは、ほぼすべてがコロナ前に用地仕入れを始めたものです。コロナ禍はかなりしびれる思いをしましたが、自信があったからこそアクセルを踏み続けました。結果論ですが、コロナ後に建築価格等が高騰している状況を見ると、迷いながらも進み続けてよかったと感じます。

―― MIMARUは東京、大阪、京都の3エリアで展開しています。それぞれニーズはどう推移していますか。

髙智 日本らしさ溢れる観光地というと、京都を連想する人が多いかもしれません。われわれも相当力を入れてやっていますが、実際は東京、大阪の方が人気です。

 MIMARUのコンセプトは、連泊しながらMIMARUを拠点に日本中を楽しんでいただくことです。そう考えると、大阪に泊まれば京都はもちろん滋賀や兵庫も日帰り移動の圏内です。そして、ナイトタイムを楽しむなら難波周辺が人気ですから、どうしても大阪に流れがちなのだと思います。東京のMIMARUに宿泊される方でも、日光や富士山まで足を延ばす人もいるぐらいですから、移動距離の感覚が日本人とは少し違うのかもしれません。

異業種で培った強さが凝縮された空間設計

―― ビジネスモデルの面で、MIMARUの強さはどこにありますか。

髙智 まずは効率性の高さです。共用部分は簡素に設計し、レストランや大浴場は設置していません。また、連泊、グループステイということが前提ですからチェックイン・アウトの回数は減りますし、室内清掃やリネン類の交換も非常に効率的です。

 客室の設計についても、ホテル業界プロパーの会社がアパートメントホテルを作ると、きっと似て非なるものが出来上がるのではないかと思っています。われわれはマンション開発を通じて、冷蔵庫やベッド、机の配置。キッチンの高さ。導線のデザイン。とにかく限られた間取りをミリ単位のこだわりによって 最大限に生かすノウハウを培ってきました。そこは大きな強みです。

―― 総合不動産デベロッパーならではの強みですね。

髙智 付け加えれば、賃貸マンションも分譲マンションもビルも、自分たちで事業用地を買って開発してきました。それをすごく得意にしています。対してホテル専業の方は、土地を有効活用する提案は強いかもしれませんが、事業用地を自社で買って開発することはそれほど得意ではないと思います。MIMARUは現在、27施設を展開していますが、これだけ拡大できたのは不動産開発の強みがあるからだと思います。

 ただ、実はハード以上にソフトに強みを持っているのがMIMARUです。大手旅行口コミサイトが実施する「外国人が選ぶ日本のホテルTOP20」などのランキング上位に何度も選出いただきましたが、口コミの7割くらいがスタッフに関するものです。MIMARUのフロントスタッフは8割以上が外国人で、37の国と地域の出身者が支えてくれています。それぞれ、母国語に加えて英語と日本語が話せて、何より日本が大好きです。

 日本に長く住んでいるスタッフも多くいますから、訪日客の方におすすめの飲食店を聞かれて自分の行きつけのお店を紹介するなんてことも多くあるようですし、逆にお客さまが観光の帰りにスタッフの分までお土産を買ってきてくれることもあるようです。「おもてなしよりフレンドリー」。そんなコミュニケーションが人気の秘訣です。業界には人手不足の影響もあって無人化に移行されるところも多いようですが、MIMARUの場合はスタッフのコミュニケーションもビジネスモデルの肝になっているのです。

―― 今後はどんな戦略でMIMARUを成長させますか。

髙智 会員制度を充実させたり、Web3を利用したサービスを展開したり、荷物の輸送サービスを拡充したり、とにかくさらに日本の旅が快適になるようなアイデアをいろいろと仕込んでいる最中です。MIMARUが日本観光のハブのような存在になれるように事業を磨いていきます。

※画像キャプション:MIMARU大阪 心斎橋WESTの客室の様子