ゲストの「“fav”orite」な空間でありたい。そんな願いが込められたホテルが、全国で人気を集めている。最大6人まで宿泊できる広々とした客室には、キッチンや洗濯機、冷蔵庫、さらにはバンクベッドと呼ばれる、ゆったりとした二段ベッドが揃う。この快適な宿泊体験を提供するアパートメントホテルこそ、「fav」だ。
favは、2020年に飛騨高山と高松でオープンしたのを皮切りに、派生ブランドFAV LUX、seven x sevenまで含めると既に15施設が稼働している。しかも、足元では年間20棟以上の施設を取得しており、27年末までにさらに21の施設のホテルが稼働していく計画という爆速展開ぶりだ。運営方法も工夫がなされており、無人チェックイン機が導入され、ルーム清掃はチェックアウト時にまとめて行う。
そんなfavシリーズを仕掛けるのは、戦略的コンサルティング型デベロッパー・霞ヶ関キャピタル。同社傘下でfavを展開するfav hospitality groupの、緒方秀和社長に話を聞いた。聞き手=和田一樹(雑誌『経済界』2025年7月号より)
緒方秀和 fav hospitality groupのプロフィール

おがた・ひでかず 1980年生まれ、不動産業界にてキャリアをスタートし、経営企画、エクイティ/コーポレートファイナンス業務等に従事。その後、投資ファンド業界においてメザニン債権投資ファンド・不動産投資ファンド・ヘッジファンドの投資運用及びファイナンスアレンジメントなど幅広い業務経験を積む。2017年に霞ヶ関キャピタルに参画し、18年より取締役に就任。19年より連結子会社のfav hospitality groupを設立、同社代表取締役。
省人化はコスト面だけではなく顧客満足度も高める
―― どうしてアパートメントホテルの形態で勝負をしたのですか。
緒方 構想が始まったのは2018年頃です。インバウンドが盛り上がり始めている一方で、日本の宿泊施設は星付きかビジネスホテルかに大きく分かれている状況がありました。要するに、家族・グループ旅行に適した客室を備えるホテルが不足していたわけです。このニーズは大きな事業につながると考えました。
さらにもう一つ、サービス面に関する仮説もありました。ホテルのホスピタリティというと、受付でお辞儀をしてゲストを迎え、丁寧に館内施設を案内しながら客室までカバンを持っていくようなフルサービスが想像されがちです。ただ、時代の流れなどを鑑みると、実はそういった仰々しさを余計だと感じている人が増えているのではないか、と考えました。むしろ、テクノロジーを活用してスマホで完結する仕組みを作れば、省人化が実現できてコスト面で効率的ですし、ゲストの満足度も高まるはずだと考えたのです。
―― それでコンセプトが定まっていったのですね。
緒方 そうです。グループステイと省人化。ここに潜在的なニーズがあるという仮説のもと、favが走りはじめました。ただ、勝負するスタイルは決まったものの、当時そういった要件を満たす宿泊施設は民泊が大多数でした。
霞ヶ関キャピタルは、土地の開発に着手する段階からファンドを絡めて展開するのが強みです。REITのような形で金融商品にすることが前提なので、そう考えると民泊は個人事業主が多く、サービスの質も曖昧。何より法的な位置づけが少し弱く、金融商品にするのは難しいと判断しました。それならば、グループでロングステイができて、人によるサービスは最低限。そして、宿泊単価は上げつつ1人当たり単価は低めに設定できるようなホテルを作ってしまえばいいのではないかという発想で作り始めたのがfavです。
―― 開業スピードが異常に早いですが、どうしてこの速度を実現できるのでしょうか。
緒方 理由は大きく2つあります。一つは、オペレーションに関する理由です。先に話したような内部の省人化はもちろんですが、ホテルそのものや、ホテル内部にある飲食店の運営もフランチャイズモデルで外部事業者と組んでいます。
その上で、当社としてはホテルが高評価を得られるようにブランディングやマニュアル化を徹底しています。誰でも効率的で安定したクオリティでfavを運営できる体制を整えることにより、既存施設の評価が高まり、SNSやOTAの口コミで注目されることによって新たにオープンした施設の予約があっという間に埋まる。こうした好循環が生まれ、スケールの速度が上がっています。

―― では、もう一つの理由は何でしょうか。
緒方 それは金融ノウハウを活用しているからです。霞ヶ関キャピタルのビジネスモデルは、土地をソーシングして開発し、ファンドを組成してアセットマネジメント業務の受託まで行うものです。一般的には建物が完成した後にファンド化しますが、われわれは、建物の着工に移るフェーズでファンド組成し、自社の資金から投資家様の資金にスイッチするやり方を続けてきました。仮に投資資金を募ってレバレッジをかけることができず、すべて自前で開発・運用していたとすると、おそらく年間2棟、3棟で限界です。
こうしてオペレーションを効率化し、金融のノウハウを駆使してレバッジをかけることで、短期間で事業をスケールさせるとともに、損益分岐点が極めて低い強固なビジネスモデルが出来上がります。実際、favはコロナ禍のスタートとなりましたが、コロナ期間中も黒字を維持し続けました。
コンテンツホルダーと組み 日本を世界に売っていく
―― 霞ヶ関キャピタルがfavブランドをスケールさせてくれるならば、一緒に組みたい事業者も多く集まってきそうです。
緒方 そうですね、飲食店や建築・デザインの方々など、実際にいろんなパートナーシップを組んでいます。
favとはブランドが変わるのですが、『カルチャービジネスホテル』という新たなカテゴリーを掲げる新規ホテルブランドを手がけており、最初の施設が25年7月に愛知県名古屋市で開業します。そこでは、GREENINGという、 鎌倉にある「GARDEN HOUSE」や、「沼津倶楽部」といった優れたコンテンツを生み出すことができる企業とタッグを組んでいます。
GREENING自身も前身の会社(TGP)で数棟ホテルをやっていたのですが、コロナ禍で経営が厳しくなった過去がありました。しかし、間違いなく良いアイデアは持っているわけです。それを当社のホテルで生かしてもらえたら両社がハッピーになれますよね。
―― プラットフォームのような形ですね。
緒方 コンテンツホルダーの方々と橋渡しができたらうれしいですね。実際に同じようなことは、favでも実現できています。
favは基本的にゲストがいろいろな作業をスマホで完結できるオペレーションが出来上がっているので、無人化できます。ただ、コミュニケーションの面では少し寂しさを感じる人もいる。そこで、チェックイン・アウトを自動化したことで生まれたロビーの空間的な余裕に、飲食店を入れたらどうかと考えました。
しかし、自分たちで飲食店を運営してもレベルの高いサービスは提供できません。そこで、ホテルが立地しているエリアの有名な飲食店に、ロビーのスペースを安価で使っていただくことにしました。これでレベルの高いサービスが提供できますし、飲食店も賃料コストが低ければ収益性は高まります。しかも、相場よりも格段に安い賃料でご入居いただく代わりにホテルのゲストの一次対応をお願いすることにしました。これにより、われわれの人件費もカットできます。これもどちらもハッピーですよね。このように、ビジネスモデルの細部まで強いスキームを揃えられていることも、われわれの強さの理由になっていると感じます。
―― 今後、favをどのように展開していきますか。
緒方 favは観光立国の実現や地域創生への貢献を目指しています。だからこそ、今後もさらにホテル経営のDXを進めるとともに扱うホテルのタイプの幅も広げていきますし、事業の拡大を止めるつもりはありません。
まずは主要観光都市から始めていますが、今後は全国各地で展開し47都道府県を制覇するつもりです。パートナーと力を合わせて日本の魅力を高め、もっと世界に売っていきたいと考えています。