2024年3月、個人向けローンや信用保証事業を手がけるオリックス・クレジットの株式66%をドコモが取得した。そして、今年4月1日から社名をドコモ・ファイナンスに変更。今後は携帯電話キャリア同士の金融サービス競争が一段と激しくなる。岡田靖社長に、今後の戦略を聞いた。聞き手=和田一樹 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2025年7月号より)
岡田 靖 ドコモ・ファイナンスのプロフィール

おかだ・やすし 1970年広島県出身。93年、大学卒業後にドコモ・ファイナンス(旧:オリックス・クレジット)入社。2017年経営企画部長、18年執行役員を経て、21年から社長。
ノンバンク業界のプレーヤーが変わってきた
―― 日本貸金業協会等の情報によると、足元で個人向けの資金需要は増しています。背景をどう見ますか。
岡田 ひとつの要因として、コロナ が終息した頃から経済活動が回復し、資金需要が増しているのは事実です。ただ、もう少し構造的な変化を考えると違った見方もできます。
2010年、貸金業法が改正され年収の3分の1を超える貸し付けが禁止されました。そこで、前身のオリックス・クレジットも含めて、ノンバンク各社は事業の転換を図ります。そして、ノンバンクに代わって融資業務を伸ばしたのが銀行でした。
ただ、今度は銀行がやや貸し過ぎてしまい業界で自主規制が始まりました。そうして、15年前後から再びノンバンクが融資事業を強化していきます。ノンバンクから銀行に、そして銀行が伸ばせなくなったところで再びノンバンクが伸ばしているというのが、大きな流れだと思います。
―― するとオリックス・クレジットとしても大きな追い風だったのでしょうか。
岡田 全体観としてはそうかもしれませんが、一口にノンバンクといっても競争環境が変化しています。22年、当社は「ORIX MONEY」というスマホ完結で借り入れや返済ができる商品をリリースしました。当然、広告宣伝にも資金を投下していったわけですが、貸金業法改正前と比較して明らかに投資に対するリターンが低下していました。
何か特定の原因ですべてを説明できるわけではありませんが、私なりに考えた結論としては、実はノンバンクが伸びていると言っても、通信会社のような今までとは違ったプレーヤーが台頭しているのではないかということです。当然、大手消費者金融企業や、当社も成長してはいたものの、新たなプレーヤーたちは独自の経済圏を有しており、そこをフックに事業を成長させている。すると、当社のように自前の経済圏を持っておらず、広告宣伝費にも限りがあるような企業は比較劣後してしまいます。
―― 24年のドコモグループ入り、そして今年4月1日の社名変更はそうした文脈を受けての決断ということですね。
岡田 そうです。まさに経済圏が持つ影響力の大きさを実感しているところに、いいご縁を頂いたと感じています。ドコモ経済圏に入ることで顧客獲得フェーズが圧倒的に強化され、融資、信用保証、住宅ローンという当社の3つの事業をさらに伸ばせると考えています。
―― 岡田さんは1993年にオリックス・クレジットに入社しました。どんな変化をたどり、どんな強さを磨いてきた企業ですか。
岡田 私が入社した時は信販中心の会社でした。私も加盟店の営業に回ったり、クレジットカード事業に携わったり、不動産や株を担保にする融資に関わったりもしました。バブル崩壊以降、担保の評価がどんどん割れて不良債権化していき、回収業務を経験したこともあります。
そういった中で、地道に続けていた「VIPカードローン」という無担保カードローン事業が花開き始めていました。そして、90年代後半から2000年代前半にかけて無担保カードローン事業に経営の舵を切っていきます。競合が少なく、うまい具合に事業は伸びていきましたが、「サラ金の社会問題化」とでも言うような世相になり、冒頭で少し触れたように貸金業法が改正され総量規制が始まりました。
当然、われわれも貸付残高が減ってくる中で、それまで培った与信や事務も含めたオペレーション、そして回収。それらを生かせる分野は何かを考え、10年代の半ばから金融機関向けの保証事業を伸ばし始めました。そして、さらなる新規事業はないかということで、17年にオリックスからフラット35の事業を譲り受けてモーゲージバンク事業が3本目の柱として加わりました。
ですから、常に時代の変化に合わせながら柔軟に経営の舵取りをし、与信という入口から回収という出口までパッケージで提供できる能力を培ってきたことがわれわれの強みだと認識しています。
新たな与信モデルのヒントはブランドへのロイヤリティ
―― これからノンバンク市場で成長していく鍵はどこにありますか。
岡田 ようやく日本もキャッシュレス化が進展し、ペイメント(決済)とファイナンス(融資)の距離がどんどん近づいていると思います。例えば、ドコモのd払いで決済しようと思ったら残高が足りない。そんな時に、融資を利用してチャージするという選択肢が広がり始めています。このようにトランザクションの中にごく自然にファイナンスが入り込み始めている様子を見ると、チャンスは大きいだろうと感じます。
一方で、年収の3分の1という枠の取り合いは変わりません。そこで、ドコモとのシナジーが生かせそうな部分として、データの利活用による顧客層の創出があります。ポイント経済圏を活用した行動分析によるタイムリーな融資提案というのはもちろんですが、もっと大きな活用法があるのではないかと考えています。
例えば、われわれの業界が個人の信用情報をチェックする際、CICなどの指定信用情報機関のデータを使っています。ということは、各社で与信モデルを持っているとはいえ、そこまで大きな違いは出ません。そういった中で、ドコモが持つ莫大なデータと、われわれの経験値を掛け合わせると、今まで融資が難しかった層の中から、融資可能な新たな顧客を見つけられると考えています。
―― どんなイメージですか。
岡田 まだまだ具体的な話はこれからなので、個人的な印象も交えて答えます。ヒントになるのはロイヤリティです。光熱費や携帯電話は支払延滞率が低いことや、自動車ローンは貸し倒れが少ないことが知られています。なぜかと言えば、そのサービスを使えなくなると困るから支払い優先度が高いのでしょう。お金には色がないので誰が貸しても一緒だと思われますが、実は誰から借りているのかは意外と貸し倒れリスクに影響するはずです。こうした観点から、新たな与信モデルを構築できる可能性はあります。
新たな社名は「ドコモ・クレジット」ではなく、「ドコモ・ファイナンス」としました。より幅広く、グループの金融事業の中心になるつもりで事業を伸ばしていきます。