大型再開発の見直しや、数年ごとに好不況を繰り返す「シリコンサイクル」の波という景気の下押し要因が懸念される九州経済。それでも、好調なインバウンド(訪日外国人)と台湾積体電路製造(TSMC)の進出がオール九州に波及し、九州の経済成長率は全国を上回る。(雑誌『経済界』2026年1月号より)
九州のインバウンドがコロナ前を超え過去最高に
福岡市中央区の高級鉄板焼き店。カウンター9席に、日本人2人のほかは韓国、台湾からの観光客が陣取る。店主とはスマートフォンの翻訳機能で会話。塊ステーキが目の前で燃え上がる「ファイヤーステーキ」にはスマホのカメラを構え、歓声が上がる。
中華人民共和国の成立が宣言された1949年10月1日を記念する祝日「国慶節」の期間(2025年は10月1日~8日)は、韓国よりも中国からのインバウンドが福岡都心部で目立った。
九州への外国人入国者数は2025年上半期(1~6月)、通常入国者数242万6745人と、船舶観光上陸者数51万1632人を合わせて293万8377人(前年同期比118・0%)に上った。上半期の入国者合計としては、過去最高だった18年の254万3247人(数値はいずれも確定値・国土交通省九州運輸局調査)を大きく上回った。「船舶観光上陸者」とは、いわゆる外国クルーズ船の外国人入国者のことである。
国・地域別シェアは、韓国が46・8%と半数近くを占め、中国21・9%、台湾13・1%、香港6・7%と続く。前年同期比では、中国の伸びが50%増と目立った。
外国人延べ宿泊者数も過去最高だった前年同期を17%上回り、過去最高を更新。県別では福岡、熊本が過去最高。佐賀・長崎・宮崎・鹿児島は前年を大きく上回ったが、過去最高だった19年水準までは回復途上にある。大分県は過去最高に迫る水準。
293万8377人のうち、空港からの入国者数は219万1640人(74・6%)、海港からの入国者数は74万6737人(25・4%)であった。
福岡空港の旅客数過去最高 第2滑走路が供用開始
宿泊者数全体に占める外国人宿泊者の割合は、福岡が35%と、宿泊者全体の約3分の1を占めている。そこには福岡空港の果たす役割が大きい。
福岡空港を運営している福岡国際空港㈱(FIAC)によると、24年度の旅客数は、国内線が約1861万人、国際線が約850万人のあわせて約2712万人で、開港以来の最高を記録した。国内線・国際線ともに運航路線が増加したことや、直営免税店の売り上げが伸びたことなどから、FIACの24年度決算も営業収益588億円、営業利益74億円の増収増益で過去最高となった。
福岡空港には25年9月時点で、国際線が10カ国・地域20路線、国内線27路線の直行便が運航している。
25年3月20日、福岡空港増設滑走路が供用開始。国際線旅客ターミナルビルも拡張され、3月28日にグランドオープンした。保安検査場・出国審査場を移設・拡張し、従来の約2倍の処理能力を確保。出国後エリアに約6千㎡(整備前約1500㎡)の新免税店・フードホールがオープンした。
FIACが18年3月に提案したマスタープランによると、30年後の福岡空港の将来像として「比類なき東・東南アジアの航空ネットワークを有する東アジアのトップクラス国際空港」を掲げている。目標として、48年時点では、東・東南アジアの就航国数で日本一となる14カ国・地域51路線、全体で100路線(国際67・国内33)、旅客数3500万人(国内1900万人・国際1600万人)としている。
第2滑走路の供用開始や国際線ターミナルの拡張は、この将来像の実現に向けた第一歩といえる。25年度も国内線地区で27年度竣工を目指し、商業施設・ホテル・バスターミナルを含む複合施設を整備中。国際線地区では南側コンコースの延伸、国内・国際線を結ぶ専用道路の27年度竣工を目指している。

沖縄初の本格テーマパーク「ジャングリア沖縄」開業
25年7月、沖縄北部・今帰仁村に県内初の本格テーマパーク「JUNGLIA OKINAWA(ジャングリア沖縄)」が開業した。敷地面積は東京ドーム13個分に相当する約60ヘクタール。コンセプトは〝Power Vacance!!(パワーバカンス)〟。アトラクション22カ所、飲食施設15カ所を備え、世界自然遺産「やんばる」の自然を体感しながら新しい旅を提供する。
沖縄の観光客は年間1千万人近くに上るが、観光地は那覇市など本島南部に集中。北部では「沖縄美ちゅら海水族館」以外に集客施設が乏しく、北部誘客が課題だった。近隣には台北・上海・ソウル・香港など「アジアの20億人」を商圏とする戦略を描く。
海外観光客はリピーター化が進むにつれ、地方の自然や文化を求める傾向が強まっており、ジャングリア沖縄がその動きを後押しすると期待されている。
TSMC操業開始1年「シリコンアイランド」復活
熊本県菊陽町で半導体受託生産の世界最大手・TSMCが24年12月に操業を開始して1年。進出に伴い地価が高騰し、波及効果が九州各地に及んでいる。
熊本県は23年3月に「くまもと半導体産業推進ビジョン」、同年10月に「新大空港構想」を策定。「安定した半導体人材の確保・育成」「半導体イノベーション・エコシステム構築」「交通ネットワーク整備」「産業力強化」を掲げ、台湾のサイエンスパークを参考に「くまもとサイエンスパーク」の具現化を目指す。
経済産業省が策定した「半導体・デジタル産業戦略」では、九州を〝産業用先端半導体の世界的生産拠点〟と位置付ける。九州経済連合会は各県にサイエンスパーク設置を打ち出し、九州7県の産学官団体や九州・沖縄地銀13行が「新生シリコンアイランド九州」実現に向けて連携協定を締結している。
熊本大学を中核に半導体人材育成へ
熊本大学は24年4月、75年ぶりに学部相当の「情報融合学環」を新設。工学部に「半導体デバイス工学課程」を設置した。情報融合学環はデジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応し、ICT活用能力やデータサイエンス基盤を養う。人材育成でTSMCと連携協定を結び、24年度から学生向け講義を開講した。25年度には大学院自然科学教育部に「半導体・情報数理専攻」を新設した。
熊本県は熊本大学を半導体人材育成の拠点と位置付け、高専学生や県立技術短期大学校生の編入を進め、熊本高専と連携して高度人材を育成する。
熊本空港では国際線の新規就航・再開が相次ぎ、25年10月時点で過去最多の5路線(台北・高雄・上海・釜山・ソウル)、週44便に。TSMC進出によるビジネス需要の高まりが背景にある。運営会社・熊本国際空港は27年度末までに中国や東南アジア方面を含む11路線への拡大を目指す。
かつて九州は半導体関連企業が集中し「シリコンアイランド」と呼ばれた。熊本県はTSMC進出を契機にその再興を期待している。
九州経済は減速傾向も全国GDP予測上回る
九州経済調査協会は、九州(沖縄県含む)の25年度実質域内総生産(GRP)成長率を前年度比0・7%増と予測。これは24年12月発表の当初予測と比べ、マイナス0・7ptの下方修正で、24年度の0・8%増を下回り、九州経済は減速すると見込む。ただし、全国の国内総生産(GDP)民間予測(シンクタンク8社平均:同0・4%増)を0・3pt上回る。
下方修正の主因は、民間消費と設備投資の伸び悩み。半導体・物流・食品加工業を中心に計画は多いが、企業業績の落ち込みや先行き不透明感、工期延長や工事費高止まりが下押し要因となっている。

