大手私鉄の西日本鉄道は2025年4月、福岡市の中心部・天神に大型複合ビルONE FUKUOKA BLDG.(通称:ワンビル)をオープン。街のにぎわいを後押ししている。26年度からは新たな中期経営計画もスタートし、〝西鉄ブランド〟の拡大に向けて走り出す。(雑誌『経済界』2026年1月号より)
林田浩一 西日本鉄道のプロフィール

1日当たり来館約4万人 目的違う人々が出会う場に
西日本鉄道が福岡市の中心部・天神で建設していた「ONE FUKUOKA BLDG.(通称:ワンビル)」が2025年4月24日、開業した。
本社が入居していた旧福岡ビルと隣接する2棟と共に建て替えたもので、地上19階、地下4階、延べ床面積約14万7千㎡の大型複合ビルだ。オフィスやホテル、131店舗が入居する商業フロアやカンファレンスホール、米国のスタートアップ支援拠点「CIC Fukuoka」などで構成する。館内に130点を超えるアート作品があるのも特徴。開業から2週間で予想を上回る100万人が来場し、大盛況となった。
ビルのコンセプトは「創造交差点」。仕事や買い物、宿泊といった目的が違う人たちが集う場所で、新しいビジネスや文化が生まれることを狙う。林田社長は「かつての天神は人々がゆったりと過ごす場所が少なかった。ワンビルはそれらの空間と動機をたくさん提供できている」と語る。
実際に同ビルでは、仕事や打ち合わせをするビジネスパーソン、買い物やおしゃべりを楽しむ若者やお年寄り、ホテルに宿泊するインバウンド客などが行き交う。館内の至るところに設けられたソファなどで有意義に時間を過ごす姿も多い。これらの風景こそ、ワンビル開発の狙い通りだ。1日当たり約4万人の来館者数も「想定通り」(林田社長)という。
10フロアを占めるオフィスは、西日本最大級の1フロア約4600㎡で、天井高3mを実現。立地・ビルスペックが評価され、クラフティア・西日本鉄道をはじめとした在福企業の本社機能、みずほグループ・日立グループ・日本政策投資銀行・PwCなど国内外の大手企業の支社・支店機能として多数の企業が入居している。開業当初6割半ばだった充足率は契約見込み企業含めて現在、約8割に達する。
林田社長は「スムーズに滑り出すことができた。ビルに人を呼び込む新しい空間と動機を今後も計画していく。ワンビルの力がこれから試される」と力を込める。

営業収益4700億円へ 西鉄ブランド拡大期
同社グループは22年、長期ビジョン「まち夢ビジョン2035」を策定。第16~19次中期経営計画を経て、35年に連結事業利益(事業利益=営業利益+事業投資に伴う受取配当金・持分法投資損益等)で370億円、連結EBITDAで660億円を目指している。
足元の25年度は、23年度から3カ年の第16次中計の最終年度。営業収益4700億円、経常利益263億円を見込む。最大のリスク要因だった国際物流事業へのトランプ関税の影響も限定的。鉄道・バス各事業はワンビル開業に伴い天神への利用客が増加し、インバウンド需要でホテル事業の営業収益増も見込まれる。
また、第16次中計の3年間では各事業の構造改革を進めてきた。テーマの1つが価格転嫁である。バス事業で運賃改定を実施し、流通事業でも物価高の影響を販売価格に転嫁して対応した。このほか新領域ビジネスとして農業関連分野にも挑戦。その一環として25年10月、農薬・肥料・農業資材卸売企業を傘下に持つヒノマルホールディングスを子会社化した。
26年度からは3カ年の第17次中計がスタートする。林田社長は生成AIや新テクノロジーの活用による生産性向上をキーワードに挙げる。また九州では、半導体・農水産業のサプライチェーンを下支えするビジネスを積極化する考えだ。不動産事業およびまちづくり分野では、福岡での実績を基に首都圏・海外展開を加速させ、〝西鉄ブランド〟がさらに広がる3年が始まる。
| 設立 | 1908年12月 |
|---|---|
| 資本金 | 261億5,729万円 |
| 売上高 | 4,434億9,500万円(2024年度連結) |
| 本社 | 福岡県福岡市中央区 |
| 従業員数 | 1万8,956人(2025年3月31日現在、連結) |
| 事業内容 | 鉄道、自動車による運送事業、利用運送事業、航空運送代理店業、通関業、不動産売買・賃貸業、ホテル事業、その他 https://www.nishitetsu.co.jp/ |

