日本のコンビニ市場の開拓し、規模でも他を圧するセブン-イレブン。しかし最近では好調なライバルに対し、売り上げも伸び悩む。そこで今、セブン-イレブンは、抜本的事業の見直しに取り組み始めた。これによって離れつつあった顧客の気持ちを取り戻すことはできるのか。文=ジャーナリスト/下田健司(雑誌『経済界』2026年1月号より)
国内・海外ともに不振で今2月期決算を下方修正
セブン-イレブン・ジャパンの不調が続いている。2026年2月期上期に営業減益となり、26年2月期通期の業績見通しを下方修正した。親会社セブン&アイ・ホールディングスの連結業績も下方修正し、26年2月期通期の営業利益を期初計画の4240億円から4040億円に引き下げた。
上期決算の内容を見ていこう。
セブン&アイの25年3~8月期連結業績は営業収益5兆6166億円(前年同期比6・9%減)で計画比97・1%、営業利益は2083億円(11・4%増)で計画比105・8%。純利益1218億円(133・1%増)で計画比124・3%だった。営業収益は減少し計画も未達だったが、利益については前年同期から増加し計画を上回った。
セブン&アイの営業収益が減少したのは、国内コンビニエンスストア事業の営業収益が4625億円で前年同期並みにとどまったうえ、海外コンビニ事業におけるガソリンの小売単価が下落したためだ。
営業利益が11・4%伸びたのは、国内コンビニ事業が1217億円(同4・6%減)で59億円の減益となったものの、構造改革を終えたスーパーストア事業が増益となったことや、米セブン-イレブンの商品粗利益率の改善とコスト構造改革の効果により海外コンビニ事業が増益となったことによるものだ。
純利益については、特別損益の改善により大幅な増益となった。前期に利益を生まない事業・資産の整理を終えたことにより、特別損失が前年同期から550億円の減少となったことが増益の要因だ。
このように、セブン&アイは連結営業増益となったが、国内コンビニ事業の営業利益は1217億円(計画比92・8%)で、計画に95億円届かず厳しい結果に終わった。
では、26年2月期通期の連結業績はどのように修正したのか。
営業収益は計画を1620億円引き下げ10兆5600億円に、営業利益は200億円引き下げ4040億円に下方修正した。親会社株主に帰属する当期純利益については100億円上方修正し2650億円とした。
営業収益を下方修正した要因は国内コンビニ事業と海外コンビニ事業の影響によるものだ。国内コンビニ事業はセブン-イレブンの既存店売上高伸び率の前提を2・5%から0・9%に引き下げたため、営業収益を400億円引き下げた。海外コンビニ事業は、米セブン-イレブンのガソリン単価下落の影響により1460億円引き下げている。
営業利益については、国内コンビニ事業の下方修正の影響が大きい。2450億円から2150億円に300億円引き下げた。これはセブン-イレブンの売上・粗利益率の修正、販管費の増加によるものだ。既存店売上高伸び率の見通しを引き下げたほか、商品粗利益率は0・1%増から0・3%減に修正した。300億円の下方修正額は、上期の計画差95億円から大きく拡大しているが、その要因はセブン-イレブンの上期営業利益のうち、主にシステム関連の経費で約45億円が下期へ期ズレが発生したためとしている。
競合他社の26年2月期上期を見ると、セブン-イレブンとは対照的だ。セブン-イレブンは営業利益が4・8%減の1214億円だったが、ファミリーマートは事業利益(営業利益に相当)が19・1%増の616億円、ローソンは事業利益が11・99%増の613億円と、いずれも2ケタの増益と好成績を残している。
セブン-イレブンは25年2月期も営業減益だった。主に加盟店からの収入からなる営業総収入が8794億円(1・7%減)、営業利益が2337億円(6・9%減)の減収減益だ。26年2月期も営業総収入8810億円(0・2%増)、営業利益2150億円(8・0%減)の見通しで、2期連続の営業減益となる。
業績立て直しにはカウンター商品
セブン-イレブンが営業減益となったのは過去に幾度かある。上場以来初の減益となったのが07年2月期だが、翌08年2月期も営業減益となった。そして、たばこ自動販売機用の成人識別カード導入に伴う効果が剥落した10年2月期。直近では新型コロナの影響を受けた21年2月期があるし、翌22年2月期も営業減益となった。
セブン&アイはセブン-イレブンの立て直しを図るため25年8月、変革プログラムを公表した。すでに各種の施策に取り組んでいる。
まず、商品面で挙げたのが新たなカウンター商品の投入だ。
1つは専用の焼成機を使ってパンや菓子、調理パンなど出来たて商品を提供する「セブンカフェベーカリー」だ。焼成機は10月末で約4千店舗に導入済みで、日販の押上効果0・2%、粗利益効果0・1%としている。26年2月期末に約1千店舗、27年2月期末に約1万8千店舗に拡大する計画だ。
もう1つは、これも専用機を使って淹れたての紅茶を提供する「セブンカフェティー」だ。10月末で約100店舗に導入済みで、日販の押上効果0・9%、粗利益効果0・3%という。26年2月期中に約2100店舗、27年2月期中に約1万100店舗に拡大する計画だ。
ベーカリーや紅茶に加え、麺類、スープ・パスタ、ソフトクリームなどの専用機も導入し、出来たて商品のメニューを拡大する方向だ。今後5年間で店舗改装と設備の導入などに3千億円を投資する計画だ。
このほか、デイリー商品についても強化し高付加価値商品を投入する。すでに9月には「旨さ相盛りおむすび」、10月には「およがせ麺」シリーズを発売しており、継続的に新商品を投入していくという。
出来たて商品や高付加価値商品投入による粗利益が増加する一方で、26年2月期はそれ以上に先行費用やシステム費用が増加する見通しだ。そのため、持続的な利益成長に向けてコスト構造を抜本的に変革することが急務として、販管費の適正化など聖域なく事業・収益構造の変革に取り組むとしている。
コスト管理の目標数値は、31年2月期まで現行水準の販管費率12%未満を維持することだ。プログラムの想定効果については26年春にも公表する予定だ。
一方、出店については、従来水準を引き上げる。競合するファミリーマート、ローソンの出店数が伸び悩むなか、出店を加速し店舗網拡大を図る。ロードサイドや都心部、郊外、過疎地域、学校・駅・病院・コインランドリー・駐車場などの施設内に、標準店、小型店、サテライト店の店舗形態で出店するという。平均日販で業界他社水準を20%以上上回る収益基盤を生かし、成長は可能としている。店舗数については、31年2月期までの6年間の純増数を、過去6年間の純増数の1・4倍に当たる約1千店舗にする計画だ。
セブン-イレブンの商品をスマホアプリから注文を受け、最短20分で届けるデリバリーサービス「7NOW」(セブンナウ)の強化も重点施策に挙げる。現状7NOWアプリからの注文のみに対応しているが、27年2月期中にセブン-イレブンアプリや外部アプリと連携するほか、26年2月には店頭受け取り注文を開始する。これらにより31年2月期にセブンナウ売り上げを25年2月期の10倍超に当たる1200億円に引き上げる計画だ。
大きく変わったテレビコマーシャル
さらに、顧客エンゲージメントの強化も重点施策に挙げ、顧客との長期的な信頼関係を構築するためコミュニケーションを見直すという。保守的な販促・商品や商品価格が高いといったことが客数減の要因としているが、それだけではない。例えば、ネット上で数年前から指摘されていた弁当の底を上げて量を多く見せる「上げ底」が問題視されたのが典型例だが、こうしたことによって商品・サービスへの肯定的な感情の度合いである好意度が低下し、客離れを起こしたと見ている。
好意度向上の取り組みとしては、新コンセプト「なにがあるかな、セブン-イレブン。」によるTVCMをすでに投入している。
これまで、セブン-イレブンのTVCMといえば、商品のこだわりやおいしさを伝えることに主眼が置かれていた。しかし、特定商品の情報発信では伝えきれないセブン-イレブンがあるとして、顧客がセブン-イレブンに求める価値は何なのか、セブン-イレブンはどんな店であるべきかを見直したという。
セブン&アイは25年9月、イトーヨーカ堂やロフトなど非中核事業を束ねるヨーク・ホールディングスの米投資ファンドのベインキャピタルへの売却で持ち分法適用会社化し、コンビニ事業に集中する組織再編を行った。全社的な改革には危機感が滲む。セブン-イレブンのつくり直しが始まっている。

